人が人を辞めたとき
人が人を辞めたとき
人が人を辞めるとは何だろうか。
心臓が止まり、息が無くなって、冷たくなった時だろうか。
どうか。
普段、人はなるべく人に近づこうと生活し、
その形を保とうと演じる。
そのために時間を使い、金を費やし、命を削る。
まさに必死で人をつくる。
だって、人は人の形を諦めた人に極めて厳しくなるように出来ているからだ。
だけど、ほんとうのほんとうに、もうだめだと思った時に、人はあまりに脆く、あまりに儚く、人を辞めてしまう。
その姿はまるで生きる意味を持たず、
これまで生きてきた自分を激しく否定する。
積み上げた分だけその沼は深く穿ち、
体の隅々を溶かす。
やっと顔を上げて鏡を見ると、
そこには人間とは似て非なる何かが映ることだろう。
やっぱりか、ああそうか。これが人を辞めた人か。
自覚をした頃にはもう遅い。
さぁ、ここは地獄。
天界への道は遠い遠い。
蜘蛛の糸など、のびやしない。