【迷宮】攻略したくないかい?〜いきなりどうしましたか!?〜
「ここが【迷宮】か」
リィウは今【迷宮】の入り口にいた
植物の蔦と花で作られた門からは甘い香りと魔力とはちがう別の力を放出している
【迷宮・フォレストの神殿】という名前なのだから当たり前なのかもしれない
「あの、これはちょっと…」
「わかっている。今回倒すのはフォレストの最初の方の最初の中ボスだけだ」
セアバルトはリィウの気持ちを察したかのように任務を言う
この発端は3日前に遡る
無事に攫う姫が決まった次の日の夜、同じくご飯を食べてしばらくするとギアーナがこんなことを言い出した
「ねぇリィウ、【迷宮】攻略したくないかい?」
「いきなりどうしましたか!?」
「【迷宮・フォレストの神殿】攻略したくないかいッ!」
「本当にいきなりどうし…って、前も似たようなこと言いませんでした!?」
いつぞやの人間の足を手に入れる時と同じように彼は言い出した
何故【迷宮】を攻略する必要性があるのか?
まず、リィウがやる魔王というのは通常の魔王とは違い、邪神の加護によって何度死んでも何度も生き返ることができるということだ
ほぼ不老不死に近いものであるため、長い間魔王として務めるために【迷宮支配者】になる必要がある
同時に【迷宮支配権】を他の【迷宮支配者】から奪えば遠くに行くや足りない材料や素材などの調達が楽になる利点がある
つまり、沢山の【迷宮】を攻略しいけば種類豊富な移動手段や戦力を確保することが出来るのだ
もちろん武器や素材などの目的もあるが【迷宮支配権】を奪うことが真の目的
「あれ?僕って魔王やらなきゃいけないんですよね」
「もちろん!その為の下準備の為にも迷宮攻略するんだよ」
あと兵力も必要だからねぇ、とギアーナは言った
それから【迷宮・フォレストの神殿】に向かうまでの間に新たな技を練習して習得
新たな技と言っても、人間の姿から"角が生えた人魚"の姿になったり"角が生えた人魚"から人間の姿に変える技なのだが、セアバルトがいない状況がこれから増えるので必死に覚えて下半身だけでも瞬時に人間の下半身に変えることが出来るようになったのだ
とはいえ、角らしき所や腕などに生える鱗はそのままなので不完全に近いかもしれない
もちろん後から同じように一箇所づつ変えれば問題ないのだが
こうして戦闘の幅を増やしながら、【迷宮】へ来たのだ
しかし残念ながら【迷宮・フォレストの神殿】は簡単に攻略できるところではない
そもそも【迷宮・フォレストの神殿】というところは上級の冒険者達のパーティーならぎりぎりで攻略かもしれないと言われているところだ
同時に一部の【勇者】が【カミサマ】からの試練として挑む地として有名である
つまり初心者が挑むような場所ではないのだ
こうして冒頭に至る
「よーし!攻略する前に荷物チェックだよ!!」
今にも押しつぶされそうな空気を放つ門の前でギアーナは明るく声をかける
明るいテンションのお陰で少しだけ空気が軽くなったのをリィウは感じた
今回はそれぞれの迷宮内にいる領域ボスよりも弱い中ボスのような存在でもある妖精の女王を倒すのが目的だ
本来ならば迷宮内の領域ボスを倒しながら迷宮内の神殿の鍵を全て集め、下へと続いていく神殿を攻略していき、ボスを撃破しながら最階層にあると言われる祭壇に着いてやっと攻略が完了するのだが、あまりにも長く難しいのでリィウの実力の関係やギアーナ達の都合上、妖精の女王を倒すまでになってしまったのだ
「まずは、セアバルトから荷物チェックだよ」
「とりあえず、いざという時に知らせたり敵を引き付ける為にも爆竹とか花火系を持ってきた。あとライターも」
「よし問題ないね」
「いやまって!明らかに燃やす気満々じゃない!?」
【迷宮・フォレストの神殿】は森林に覆われた【迷宮】である
火など使えばすぐさま広がり八方塞ぎになってしまうだろう
同時にセアバルトの持ってきた所持品には沢山のフィリピン爆竹とロケット花火があり、何かしらの容赦のなさをホンジュアは感じた
一方、リィウは初めて見た爆竹やロケット花火を興味深そうに見つめていた
キラキラとした目で見ているのでいつか使う可能性が出てきてしまった
「リロラは?」
「救急箱と火炎放射器です。すぐに対処できるようにしました」
「だからどれだけ燃やす気なの!?」
【迷宮】の一部が全焼することが確実になってきてしまったとホンジュアは思った
そしてリィウは先程と同じように火炎放射器を興味深そうにキラキラとした目で観察している
同時に【迷宮】の門の隙間から流れる空気がピリピリとしたものに変化していったが、誰も気づいてなかった
「そして僕は、ここの【迷宮支配者】に会って交渉するから沢山のお酒を持ってきたよ」
「念の為聞くけど、どんなお酒?」
「スピリタス」
「さらに燃料投下して燃やす気だ!この人」
どうやらギアーナはここの【迷宮支配者】でもある【カミサマ】も燃やす気でいるらしい
もちろんリィウもお酒であるスピリタスに興味を持ち飲んでみたいとセアバルトに言っていたが全力で止められていた
そのままかければ一部の虫などを殺してしまうような危険な酒は飲ませたくはないのだ
同時にリィウが酒を飲めるのかどうかも不安もある
「じゃぁ、ホンジュアは何を持っていくの?」
「えー…普通に救急箱とか居場所を知らせるために発煙筒とつけるためのジッポーライターと懐中電灯とかだけど」
「なんだ、ホンジュアと燃やす気満々じゃん」
「いや違うよ、ジッポーライターはあくまでも発煙筒につけるためなの!!」
なぜ私も共に燃やす仲間と認識されているのか聞きたくなってしまった
先程のギアーナもチラリと言ったが彼らにも、もう一つの目的があるためにこの【迷宮・フォレストの神殿】に訪れているのだ
その目的は【迷宮・フォレストの神殿】の【迷宮支配者】である【カミサマ】から【迷宮支配権】を手に入れる為と【カミサマ】の動きを無効化させることだ
彼らにとって【カミサマ】は邪魔な存在であり上の者からも頼まれた依頼
断る理由なんてなく、出来るだけ平和的に敵対したら容赦なくこなす
「あと、リィウにはこれをあげる!」
「ありがとうございます!」
ギアーナから一つのイヤーカフスと腕輪を貰った
早速つけてもらい使い方について説明を受ける
どうやら腕輪は自分が設定したアイテムをすぐさま取り出せることができるということらしい
イヤーカフスは腕輪に取り出すアイテムの設定やギアーナ達との連絡やある程度の地図が見れたり耳の形に沿って形を変えてひっつくとなどの多様多種の機能が便利アイテムだそうだ
「僕達からのプレゼントでもあるから大切に使ってね。簡単に取れたり壊れたしないはずだけど」
「は、はい」
ギアーナが珍しく真面目に言った
ニッコリと笑っているが少し前の笑顔とは違い目が笑ってない
思わずすぐに返事をしてしまうほど冷たい雰囲気を放っていたからだ
ギアーナはリィウが大事に使うと理解したのかすぐにいつもの雰囲気に戻りリィウの頭をなでた
「最悪の場合はこれを使ってください」
「やる、使え」
「え?いいんですか!?」
そう言ってリロラから火炎放射器をもらい、セアバルトからチャッカマンを貰った
恐らくこの【迷宮】で使うだけのものなのだろう
同時に領域ボスに出会った場合も想定しているのかもしれないとリィウは考えた
「なんで殺傷力高いものばかりあげるのかな?私からこれ」
ホンジュアからは発煙筒を手渡された
本人曰く、もしもの場合はすぐに使って場所を知らせてほしいそうだ
ギアーナ達と連絡できるイヤーカフスがあるのに、更に場所を知らせるものを渡すとはかなりの念の入用だと感じる
それほどここのモンスターが強いからかもしれない
「大体の準備はいいかな?」
「はい!僕は問題ないです」
ちなみにリィウが持っていくものはギアーナ達から渡された物を除いて、斧やクロスボウなどの武器や大きめな布と食料と塩と水筒ぐらいだ
本来ならば回復薬なども持って行くべきだが、生憎持っておらず同時に自身の体について知るのもいい機会なのではと言われた
たしかに邪神の加護で一応不老不死になったらしいのだから調べる必要性があるのかもしれない
「あれ?塩使うの?」
「あー…、持っていく食料は干し肉とかなので味付け用に」
「へーそうなんだ」
ギアーナは少し疑っているような仕草をしたがすぐに元通りになった
特にリィウの持ち物は問題ないと認識したらしい
スピリタスなどを持ち込むような人と比べればまともなのも当然かもしれないが
それから軽くそれぞれの武器も確認にして、ついに【迷宮】に入る準備が終わった
「リィウは妖精の女王を倒してね!そして妖精の女王が持つ杖を5本ぐらい持ち帰ること」
「はい、わかりました」
「リロラは僕と一緒に【迷宮支配者】の【カミサマ】の交渉」
「わかりました」
「そしてセアバルトとホンジュアは【迷宮】の入り口付近で待機」
「え?」
どうやらセアバルトとホンジュアはついて来ないらしい
同時にリロラとギアーナは途中から別れるらしいので、リィウ一人で行動することになる
今までは狩りの時にセアバルトがついてきてくれたお陰で安心感があったものの、それがいきなりなくなるのだ
セアバルトとホンジュアも少し驚いたがすぐに元通りになり返事を返した
「それじゃぁ、頑張ってね!」
そう言うとギアーナとリロラはすぐに【迷宮】に入り、姿が見えなくなってしまった
先ほどのギアーナの言葉が半分理解出来てないリィウは、急いでギアーナの後を追うように入っていったが、やはりギアーナの姿はなかった
ぐるりと周りを見渡してみれば、沢山の木々が生えているだけで何もない
ただ小鳥の鳴き声と風に揺れる木々の音ぐらいしか聞こえずより不安にさせる
「…やるしかないよね、やれと言われたんだから」
自分自身に話しかけるように呟き、右手に斧を出現させて握りしめる
そして目をつぶり大きく深呼吸した
だいぶ気持ちは和らいだようだ
リィウは木々が生い茂る森へと進み始めた