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とりあえず、この姫を攫うということだな〜いや、そんなわけでは〜

無事に狩りを終え、解体済みの獲物を持ちながら馬車へと向かう

今回の獲物の量は昨日と比べて少なめだが足の使い方と難しさを学んだ痕跡でもあった

今まで滑るように進んでいたために、早く移動したり木々や葉っぱなどに当たったがために音で気配が獲物にばれてしまったりと結構苦労したが、セアバルトのアドバイスや試行錯誤によって素早く動いたり気配を消して行動することはできるようになった

しかし、残念ながら長距離を走ることに慣れていないために持久力が足りず数十秒間走っただけで息が荒くなってしまう

もしもの時に全力で逃げたり追いかけたりすることもあるので、セアバルトは今後の計画の一つにジョギングを追加されることになった

その代わりに新たに蹴り技などの武器を必要としない格闘技(マーシャルアーツ)を覚えた

お陰で戦闘の幅が広がったものの今のところ人型のモンスターなどに使えるところない


「お疲れ様。足というものはどうだったかい?」


「少し変な気分でしたが慣れれば戦闘の幅が広がる事を知りました!」


「ならよかった。じゃぁ、ここから結構重要なことを決めるから寝ないようにね」


リィウは先程のホンジュアが言った重要なことがどうしても気になってしまった

今朝もギアーナが今後の動きについて話し合うと言ったのだからかもしれないが、何か選択肢でもあるのだろうか?

暫くして、ギアーナとリロラが何やら厚い本を数冊持ってきた

よく見れば本の紙が一枚一枚が厚く簡単には折れないようになっている


「はいこれ!」


「ありがとうござ…って重っ!?」


「話を聞きながらでいいので、本の中から選んでください」


よく見ればその本は予想以上にページ数が少ないらしい

魔術書(グリモワール)なのだろうかと思い開いてみると、一人の女性が綺麗に立っている姿をそのまま閉じ込められたような絵が出てきた

下にはこの女性に関する情報が書かれていたが書かれていることに気がつき読んでみる

住んでいる国の名前や女性の名前などが書かれていたがそれよりもある一文字に目が引きつけられる

姫、その一文字が異様に目立ち思わず目をパチクリしてしまう


「魔王としてやることその1、姫または国にとって重要な存在を攫うことだ」


「え?」


「リィウは対価で魔王をやることになったけど、リィウが魔王であることや危険な存在であることなんて周りは知らないからね」


「え?え!」


「それを知らしめるためには何か大きな行動をしなければなりません」


「ごめん、魔王あるあるの行動で思いついた内容が姫を攫うことだったんだよ」


彼らの話に追いつけずリィウは、とりあえず魔王として大きな行動しなければならないことだけは理解した

とはいえ、姫を誘拐することはそんなに意味はあるのだろうかと言えば意味がないようにも思える

他のページを開いてみれば姫以外にも巫女などの特殊な職業を持つ者や異世界転生者や異世界トリップなどと少し理解するのが難しい言葉が書かれていた

つまり特殊な存在を攫う計画らしい


「って、最初からハードル高すぎません!?」


「そうかな?国を一つ滅ぼすことよりは簡単だと思ったけど」


「た、たしかにそうですけど…そうですけど!」


違う、そうじゃないんだ!と叫びたいが我慢した

国をひとつ滅ぼすなんて今のリィウには無理なことだ

もう一度、パラパラとページをめくりながら女性の姿を見る

しかし彼にとってはそこまでピンと来るような女性なんて見つからず、瞼が重くなってきた

しかし寝かせないと言いたげに彼らはまた別の本を渡してくる


「もしかして、胸の大きさとか脚とか微妙だったかい?」


「いや、そういうわけじゃないんですけど」


ギアーナから渡された本は可愛らしい女性や美しい女性が乗っていたが明らかに裏を持っている

同時に説明文では、転生やトリップによって結構強い力を手に入れているような内容だったり、一部ではよく周りにイケメンな男を引き連れているようなことさえ書かれていた

どちらにしろこの本に乗っている女性はある意味危険な気がして却下だ


「こちらはどうです?」


「あー…うん」


「リィウさんがどれを選んでも私達は見捨てませんよ。ですから好きに選んでください」


「ありがとうございます!」


リロラは優しくリィウに語りかけた

きっとその言葉はリィウの心に響いていたはずだろう

男しか載っていない本さえ渡さなければ

リィウは爽やかな笑顔でリロラにお礼を言いながら本を読まずに横においた


「流石に人間では意味ないと思ってな、獣人系のやつを持ってきた」


「あ、はい」


自身が"角が生えた雄の人魚"だという事を気にしたのか、セアバルトは人外などが乗っている本を渡してきた

もふもふそうな尻尾を持つ狐の獣人や鋭い角と鉤爪を持つ竜人(ドラゴンニュート)などの写真が載っていたが基本的に種族によってそれぞれ扱い方が多い

とりあえず、ペットを飼う時の参考にしようと心の中で決定された


「ごめん、人魚とか詳しく調べてないからベタに王道な人間の姫の情報しかない本しかないけど」


「謎の気遣いありがとうございます」


外見が個性的なのに常識人に見えてきたホンジュアから王道な姫の情報が載っている本を貰った

王道というだけあって派手な異世界転生者や異世界トリップなどの情報を除けば大人しそうな女性がたくさん載っている

ふと、リィウはあるページで動きを止めた

とても落ち着いた雰囲気と柔らかく優しげのある笑顔を浮かべる女性

だがそんな笑顔とは裏腹に両手で何かを隠すように大切に握りしめている


「あれあれ?その子が気になるのかなぁ?」


「え!?いや、ただ、ちょっと…ほんのちょっとだけ気になっだけで」


初めて見たはずのこの姫の姿が、何故かどこかで見たことがあるような気がした

しかしリィウはどうしてそう思ったのかわからない

そもそも今まで他種との交流は先生を除いては殆どなかったのだから余計に可笑しく感じる

もちろん、この姫に会った記憶もない


「とりあえず、この姫を攫うということだな」


「いや、そんなわけでは」


「ここから早くても約2週間後にはこの姫がいる国に着くことが出来るよ」


「あの勝手に」


「リィウさん、落ち着いてください。確に早いかもしれませんが実際は色々と寄るので約1ヶ月後にその国に着くことになります」


「という訳で、時間がたっぷりあるから安心してね!」


「決まっちゃった…」


どうあがいても、かなり早く姫を攫う計画らしい

正直、それよりも住んでいた場所に送ることを優先して欲しいところだ

とはいえ中々元いた場所から離れる機会なんてないので良い体験が出来るんだという風にリィウは思い込むことにした

対価で魔王になったのだから仕方ない


「でも、攫う理由が魔王として名を知らしめるなんておかしくありません?」


「大丈夫、攫う時に王様とかバッタリ出会ったら、姫を我が妻に迎えるのだ!!って叫べばいいんだよ」


「なるほど」


確かにそういう風に叫べば、周りも思い込んでくれるだろう

だとすると姫を攫う際には魔王らしく何か言わなければならない

そう考えるとまた眠気が襲ってきた

もう夜も遅いのだから寝てもいいだろう

ギアーナ達と本を片付けるのを手伝いながらリィウは瞼を閉じた


「あ、寝ちゃったね」


「本を持ちながら寝るとは中々器用な奴だ」


「今回、攫う姫はトリップした子なんだね。たしか一部の人から嫌われていた気が…」


「いきなり目の前に現れた見知らぬ子が、すぐに王に気にいらてしまったのですから仕方ありませんね」


「ということは、裏で何か依頼でもしていそうだな。調べてみることにしよう」


そんな後味が悪そうな話をリィウは聞いたような気がした


・・・


朝早くロンアは机の上に置いた四つ葉のクローバーの様子を見にきていた

あれから、四つ葉のクローバーを押し花にするために何冊もの分厚い本を重ねておいたのだ

しっかりと水気が取れたのを確認して、上の方に穴を開けて青色の紐を通した紙を用意する

ピンセットで四つ葉のクローバーが崩れないように紙の上にのせる

そして、クローバーの他にも摘んだ色とりどりの草花を掴んでは紙の上にのせて全体のバランスを確認していく

最後に接着剤で全体をコーティングすれば一つの栞ができあがった

ロンアはやっとできあがった栞に満足していた


「よし、やっと出来たぞ!あとは、オクルスに渡すだけだな」


「私がどうしましたか?」


「んな!?」


思わぬ人の登場にロンアは声を上げ動きを止めた

しばらくして、コホンと小さく咳を立てて一人の召使いの姿へと戻る

子供らしい表情さえも今となっては何も感じることのない無の感情を押し出してしまっている

そして何事もなかったかのように彼女は口を開いた


「先程は申し訳ございません。少々気分が浮かれており見苦しい姿を見せてしまいました」


「別に気にしなくてもいい、あとその口調とかはやり辛くないか?普段の調子でいいんだが」


彼女の素早い切り替えに動じることなく、オクルスは机の上に置いてある栞を手にとって見る

何度も作った経験があるらしく、その栞の中は一つの景色が広がっていた

しかし、魔法とかで閉じ込めたようなものがひとつも感じないのだから、少しだけ新鮮な感覚を覚えてしまう


「なかなか上出来じゃないか」


「ありがとうございます」


オクルスは少しだけ不快な気持ちになった

どうしても、いつもの(召使いとしての)ロンアの顔を見るたびに死んでいるかのような表情と無駄に堅苦しい言葉を使うのか?と考えている

召使いの主人の関係ならば当たり前のことかもしれない

しかし、ロンアの場合は子供らしさがひとつもなく目の輝きすらもないのだ

只々数少ない言葉で大人と負けないぐらいの対応をとりながら仕事をする

これがオクルスが見てきたロンアとしての当たり前の行動だ


しかし、グルナがロンアが草むしりの仕事を半分サボっているという報告を受けて、無理矢理その光景をグルナに引っ張られる形で見た瞬間いつものロンアの行動が180度変わった

何故、あんなにも目が輝いているのか?あんなにもたくさんの表情を作れるのか?

そして何故、人の前では目を輝かせることなんてないのか?

証拠、本当の気持ちも込めて褒めてみたが笑うことなんて無く礼儀の良いお辞儀で返されてしまった

もちろん彼女の目は輝いてなんかいない状態で


「…口調」


「はい、どうされましたか?」


「口調をさっきみたいにしてくれ」


オクルスは少し小さな試みをしたい

彼女は明るく振る舞えるのなら、普段でも振る舞えるようにするためだ

正直、草むしりの光景を見た後のロンアの姿を見てしまうと気まづくなってしまう

それほどにもこの仕事が苦手なのかなどとネガティブな思考になってしまうのだ

それで空気がなおさら重くなっても困る


「それは私に対する命令ですか?」


彼女は召使いとしてオクルスの質問を返した

相変わらず顔は無表情だ

しかし瞳は小さく輝いている


「もちろん、これは命令だ」


「かしこまりました。命令とならば口調も先程の口調に戻すよ。これでいいんだろ?」


「あぁ、それでいい。その方がお前らしい」


「ふん、オレの口調を元に戻せなんて変わったことを言うんだな。結構悪い口調と言われているのに」


思ったより、というか結構口は悪いようだ

ズバズバと自身の本心を言いながら呆れたように言う

だが、そんな思いとは裏腹に目は輝いている

本心を晒し出して喋っるのだからこちらとしては色々と好都合だった


「そういえば忘れる所だったが、この栞あげる。あと、褒めてくれてありがとな、めっちゃ嬉しかった」


「ありがとう、早速使わせてもらう」


一方、ロンアも少し満足していることがあった

それはオクルスの笑顔を見れたことだ

彼もロンアと同じく普段から本性を隠して表情も隠して過ごすのだから、以外にも二人は似たりよったりなのかもしれない

そして少しだけ、互いの皮を引き剥がすことに成功したのだ

ロンアは思い出したかのようにオクルスに言った


「というか普段から持っておいたほうがいいよ。何かのお守りになるだろうし」


「そういえば昨日、この植物を摘みながら幸福の四つ葉のクローバーとか言ってきたが、それはなんだ?」


「おいおい、昨日の光景見ていたのかよ…。四つ葉のクローバーには4つの色々と意味があって、富、名声、愛情に健康。この4つを合わせて幸福の四つ葉のクローバーになるんだよ」


「なるほど、たしかに幸福にふさわしい植物だな」


彼女がこれほどにも探すわけだ

あれから、オクルスもこっそりと似たようなものを探したが三つ葉が見つかっただけでたる

そう思うと四つ葉を見つけるだけでもどれだけの幸福なのかわかる気がした


「つーか、この世界には幸福の四つ葉のクローバーって知られてないんだな」


「ん?どういうことだ?」


「いや、気にすんな。こっちの話」


そう言いながら、彼女は箒を持って外に出た

オクルスも万年筆をとって報告書や依頼を確認しながら筆を進める

いつもとは少し違う朝がこうして始まったのであった

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