異世界転生物語……と言う名のVRMMOらしいよ?
思い付くままに書きました。
邯鄲の夢……ほんの僅かの間に人の生涯を見た人の物語だったと思うが、どうやらこのゲームはそれを体験させてくれるらしい。
こいつはVRゲームと言いながらも、今までのような家庭ゲーム機からの派生ではなく、どうやらいわゆるアーケードゲームの発展形らしい。
拘束時間は24時間のうえ、素っ裸で筐体に横たわる必要があるとか。
確かに風呂が隣接されていて、コインロッカーもありはする。
しかもこの風呂、ちゃんと男女に分かれていて、ゲーム利用者は無料で使用できる……もちろんコインロッカーもだ。
確かに24時間は長いとは思うが、たったそれだけの時間で人の1生が体験出来るなら短いと言うべきだろう。
しかしこれ、アーケードの発展形と言うだけの事はあり、途中で死んだらゲームオーバーなのである。
高い料金を払ってすぐにゲームオーバーになる場合も多く、テスター達の評判は真っ二つに分かれた。
すぐ終わった、クソゲーだ、やる価値無い……などと酷評されると共に、素晴らしい体験だった、第二の人生が味わえた……と言う風に。
確かに料金は1回2万円と決して安くは無い。
というかこの時代のゲーム料金としてはかなり高いほうだろう。
しかし筐体……近未来を思わせるカプセルの中では、あらゆるチェックが随時行われている。
いわゆる業務用と呼ばれるVRゲーム機よりもコンパクトながら、中での環境は充実しているらしい。
利用者はまず風呂に入り、濡れた身体のままカプセルに入る事になる。
これはカプセルの中に特殊な液体が流し込まれる時に、皮膚に対する馴染みを良くする目的と共に、身奇麗にして使用して欲しいと願っての事らしい。
確かに路上生活者が身体も洗わず使った後に、いくら洗浄したからと言って裸体で潜り込みたいとは思わない。
誰もが気持ち良く使う為に、これはゲーム利用者のマナーに含まれるのだろう。
またこの液体は呼吸の妨げにはならず、しかも多分に栄養素を含んでおり、長時間でも身体への悪影響が出ないようになっている。
それでもゲーム前に食事を採っておかないと、ゲーム終了時に空腹を胃が訴える事になるだろう……身体は満たされていたとしても。
後、このゲームはアーケード発展形という割りに、年齢制限が高い。
18才未満は基本的にゲームはやれない。
この時代、確かにお年玉が得られるとしても、それでも1回2万円は子供にとっては破格に高い。
ただし、本人の希望と親の承諾、それに誓約書にサインすれば不可能では無いらしい。
もちろんこの誓約書は参加者全員がサインする必要がある訳だが、それにはある理由がある。
異世界転生と言うだけの事はあり、プレイヤーは全員、生まれたばかりの頃からを体験する。
すなわち全員が授乳やおむつの交換を最低1回は体験する事になる。
確かに6才までのスキップは可能だが、親とのスキンシップの体験もあり、幼い年齢層がこれを体験した場合、リアルでの家庭環境の状況次第では、VRに理想を感じてギクシャクする事にもなりかねない。
そういう感受性の強い年齢層が基本的に禁止になっているのはそう言う訳だという。
だからこその誓約書になるんだろうけど。
親と死別した者達はこれに夢中になり、何度も仮想の人生を体験する傾向にあるらしく、それで精神系疾患から快復した者も居るとは聞くが、全員と言う訳では無いだろう。
仮想に理想を感じて現実に幻滅し、戻って来られなくなる者も居るのかも知れないし。
確かに誓約書にはその限りではありませんとあるが、そうなった者達へのサポートも一応あるらしい。
彼らがどうなったのかは知らないけど。
ともかく、初回に本人の全身サーチから親の姿が構築されるので、次回からは以前の親のデータの使用も可能になっているとか。
何度も同じ親とのスキンシップを体験したい者もいるらしく、そんな彼らはこのシステムを愛用しているらしい。
長期休暇のたびに仮想の親との人生を体験し、新たな気分で休み明けを迎えると言った人達がそれなりに居るとか。
特に年配層がこれに嵌まると病み付きになる可能性が高いらしく、一部の会社では自粛を呼びかけているらしいが、逆にこれのせいで意欲が復活する者達も少なくない為、大多数の会社では静観しているのが現状らしい。
元々は精神系患者のリハビリに開発されたらしいが、そのせいで中の仮想存在は大抵が性善説を地でいくような善人が多いとか。
もちろん悪人と言われる者達も居るが、それは殆どがプレイヤーらしい。
低年齢層が親の承諾を得て参加するものの、何でも可能でやりたい放題となり、司法の手で捕らえられて処刑台の露と消える。
そんな人生を体験する羽目になり、前記の酷評になったのではないかと思われる。
異世界と言えども桃源郷という訳ではなく、そこでは人々の暮らしがある。
それは例えて言うならば外国のように、単に環境が違うだけの現実世界に近い状況だという事を理解してないと早々に詰む。
大人になって冒険者がやりたいならば、幼い頃の下積みが必要になる。
ちゃんと社会常識に各国の情報、戦える身体にあらゆる技能、モンスターの分布や薬草なんかの知識、こういうものをしっかり身に付けておかないと、不相応なモンスターに遭遇して早々に命を散らしかねない。
それでもサポートはちゃんとあるので、そこが小説などのリアルな転生と違う、ゲームの甘さなのかも知れない。
まずは言語だけど、赤ちゃんの頃はまともに喋れないけど言語は理解出来る。
確かに小説などではよくある設定だけど、言語理解なんて言うチート無しに理解出来るってのもゲームならではだろう。
外国でも言葉が違うのに、異世界で通じるとか普通はありえないからだ。
後はステータスだけど、最初に1度は発声しないと参照出来ない。
次からは思念での参照も可能になるらしいけど、とにかく何でも最初の1回の発声が必要になっているとか。
つまり赤ちゃんの頃は喋れないのでステータスはおろか、スキルも何も使えないようになっているとか。
まあこれは素直に親に甘える時期を堪能してくれと言う、スタッフからのメッセージなのかも知れない。
一番派手なのは女神の慈悲。
通称、夢オチ救済と呼ばれるものだが、人生に1回だけ危機的状況を夢に出来るというもの。
ただしこれにも制限があり、数日間のフルタイムな戦いの中の死の回避は無理だ。
休日に釣りに行って溺れて死んだ⇒夢オチ救済⇒寝坊して見た夢だった……という感じに時の戻りは不可能なのである。
状況がかなり限定されるものの、この恩恵で助かったという者も多く、またこれを使用しないでエンディングを迎えた者は次回繰り越しになる。
何度も繰り越して、しまいには九尾とか呼ばれるようになるらしいが、九尾のキツネには9つの命って言うのから来ているんだろう。
つまり、10回の繰り越しは無い。
確かに毎回繰り越しになってひたすら増えていけば、どんな難易度のクエストもクリア出来るチートな人生にもなりかねない。
何事にも限度があるように、この派手なサポートにも限度があったらしい。
他のサポートだが、コンティニューサービスと呼ばれるものがある。
これは事前登録が必要になるけど、中で結婚して子供が生まれた場合、その子に転生というのも可能になるとか。
なので子供を鍛え上げ、本人死亡で強くてニューゲーム、なんて事をしている者も居るとか。
もっともこれは子供が成人するまでのチャンスなので、孫に転生になる場合もあるとか。
ともかく、何度もこれで遊ぶ者達は、次第に強くてニューゲームな環境を構築していくとか。
ただ、事前設定は別料金なのが商売を思わせる。
後は中の240年が外の24時間に設定されているのもあざといと言うべきだろう。
初代で子を成し財産を築き、子に転生して更に発展し、孫に転生して悠々自適な人生として過ごし、ひ孫に転生して更なる……と言う風な人生体験をする者も存在するらしく、そういう一部の成功者とでも呼ぶべき人は、24時間というゲーム時間全てを使い、最後はフェードアウトで一連の人生が終わりになるとか。
さすがにそこまでやるとかなりの出費になるらしいが、そんな人も稀に存在するとか。
大抵は1度の人生を体験し、しばらくの間はその余韻に浸る。
なので24時間と設定されていても、数時間で終わる者達が殆どなのが実情である。
しかし、時間まではラウンジでのんびりと無料のソフトドリンクや軽食を味わいながらのコミュニケーションも可能になっていて、ゲーマー同士の交流も可能になっている。
もちろん風呂も自由に使えるので、人生60年を6時間で終えた後、時間までのんびりと人生を振り返る、なんて事もやれるようになっている。
場内にはレストランもあり、プールやサウナなど、色々な設備も備わっている。
なのでゲームが終わってすぐに帰る者は少なく、時間まで場内でのんびりする者が多い。
確かに食事や酒などは別料金になってはいるが、外の料金よりは安いのだ。
しかも冷暖房完備なので、真夏の暑い盛りには時間の許す限り滞在する者達が多いとか。
昔はこんなゲームなど夢物語だったらしいが、24世紀に生まれた僕達は幸運なのだろうか?
最初はVRゲーム体験の様子を書くつもりだったのに、紹介だけで終わってしまった orz