結
ある普通の女子高生の話。
普通に学校に通って、勉強して、部活してるようなほんとに普通な女の子の話。
超能力を使えるとか、お父さんやお母さんが裏社会の人間だとか、生き別れの兄弟がいるとか、実はこれからバトルロワイアルに巻き込まれるとか、全然そんなこともなくて。
強いて言ったとしても、いつもぼーっとしてたり、時々夢と現実の境目が分からなくなっちゃうとか、そんな程度の女の子。
そんな普通の子だから普通に恋してしまったわけ。
お相手は同じクラスの男の子。
ほら、あそこ。あの窓際に座ってる、あの子。
女の子はほんとは男の子と仲良くお話とかしたいのだけど、勇気がでなくてなかなか話しかけられなくて、その代わりいつも目で追いかけてた。
女の子にできるアピールは、男の子の目の前を自然に通りすぎることくらいだった。
今日も今日とて女の子は男の子を見つめていた。いつものように興味ないふりしながら見つめてた。
男の子は気付いてる様子もなかったけど、周りにはばれてたんじゃないかな。
でもそんなこと、女の子は知るよしもないのだ。
ある日の休み時間、男の子が席から立った時、ポケットの中から何かが落ちた。
男の子はそれに気付かなかったけど、男の子を見つめていた女の子はすぐに気付いた。
「やったね、これは話しかけるチャンスだ」と思って、急いで拾ったんだけど、結局話しかけれなくて、ついにそれをそのまま家に持ち帰ってしまった。
拾ったものは目薬だった。
目薬を持ち帰った女の子は、それを自分の机の上において、毎日のように眺めていた。
ある日、目がしぱしぱしてきたのでその目薬をつかうことにした。
ぴちょん。
目に目薬が染み渡った。
そしたら、目よりも頭が冴えわたった。
あやふやだった昔の記憶が鮮明になった。
沢山思い出した。余計なことまで思い出した。
記憶にない記憶まで思い出した。
それは女の子が、女の子に生まれる前の記憶だった。
パピコを食べたこと。花火を見たこと。
明智光秀を水鉄砲で攻撃したこと。
ナポレオンの肖像画を、メタボリックに書き換えてやったこと。
髪を切ったこと。幸せな笑い方を覚えたこと。
そして、この目薬の中に住んでいたこと。
女の子は好き子さんで、好き子さんはめぐりちゃんだった。
次の日、女の子は髪をばっさり切った。
そのまた次の日には、にへらっと笑いながら男の子に話しかけた。
男の子はイチコロだった。
……めぐりちゃんのお話はこれでおしまい。
話を作ったきっかけは、目薬の先っちょにゴミがついてたことからでした。
ちなみに書いたのは3年前。そのままにしておくのは勿体ない気がしたので載せてみました。
次回作も目を通して戴けるとうれしいです。またお会いしましょう。