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第二期 出会いの中

変換ミスを見つけたので修正しました。

一体全体どうしたって言うんだ。

 何があってこうなるんだ。え、答えは自分で考えろって?

 知っているさ、そうするよ。




「や、久しぶりだね、アギラ」


苦悶の顔で意識を失っている双子を両肩に担ぐ。

 セイルは、烈火のごとく怒りを燃やすアギラに軽々しい対応をとった。


「消えろ……俺の前にその面をさらすな! 一族の恥さらしがっ!!」


シオンは止めに入る気はないという意思表示のため、一歩後ろに下がった。

 自分とは関係のない、他の属区の問題だ、口を出すにはそれなりに事情を知っている必要がある。知る気もないし、知ろうとする理由もないシオンは、ただ黙っていた。


「そ、んじゃ俺は出てくよ……それでいいだろ?」


あまりにもあっさりと引き下がるのだな。シオンはそう思ったが、アギラの反応がああ(・・)だから、仕方のないことだろうと納得した。

 アギラも、早々に撤退し始めたセイルから視線をはずし、シオンを睨み付けた。

 当然の反応だろう、シオンは怒られるのかと思うと、面倒だなと思う。どちらにしろ属区は正反対、つまるところ敵なのだし、今別れてもおかしくはない、どうせなら、今この男と別れるというのもひとつの手だ。

 しかし、アギラの反応は違った。


「今後、二度とあいつをここへは入れるな、いいな?」


ただ念を押し、アギラはもう一人の男がどこへ行ったのか聞いた。


「トウチですか……確か、彼は外へ行って…」


そこで、重大な事実にシオンは気がついた。

 シオンとアギラと目覚めてからの付き合いである少年――トウチ・クーウェイ――は、属区にこだわりのない、珍しい人間だった。ただし、そのせいか略奪者たる天の属区を憎む気持ちは人一倍だった。

 地の属区の性質は温厚柔和。

 彼は熱血が入ってはいるものの、情に篤い。そんな彼がもしアギラが少女と、幼い小女二人を下手をすれば死んでしまう極寒の地へと放り出したと知ったらどうなるだろうか? もしも、極寒の地へと放り出された彼女たちをクーウェイが救出してしまったら? 想像は尽きないが、無いとも言い切れない。

 セイルたちは出て行ってしまった、呼び戻すにもアギラの不信を買う。

 しかし、それがどうだと言うのだ? 他の属区の人間など関係ない。思考を打ち切って、シオンは自らの眠っていた装置に近寄った。

 外の状況は相変わらずよくはならない、相反する属区の人間ともいるのも、もう限界だ。抑え付けていた不快感が、不信感とともに頭をもたげ始めた。


「少し……外に出ます。クーウェイに彼女たちを会わさせるわけにはいかないので」


できるだけ自然に、そして装置の中に入れられていたものを取り出す。

 着物。流れる水を思わせる青と、水色の組み合わせで作られたそれを、現在着ていた藍色の着物の上に重ねて着た。愛読している書物は、状態が悪くしたくなかったので、置いていくことにした。

 一言、シオンはアギラに棒読みの礼を告げた。

 アギラはもう、何も言わなかった。


×××××


「どういう……ことだ…?」


さっきまでここは極寒の地だったはずだ。

 なのに、何故……


「こんなに暑いんだぁあぁあっ?!」


外は太陽が、うざったいほどに照りつけ、降り注いでいた雪はすでに融けきり、蒸発してしまっていた。

 地下にいた間に、いったい何があったと言うのだろうか?!

 冷え切って白かった吐息が、今にも湯気を吐きそうな勢いだ。

 熱中症を起こしてしまったら面倒だ、特にこの幼い双子を連れているとしたら、どこか影のある場所を早急に探し出さなければいけない。


「どこか、どこか……あそこだ…あそこなら…!!」


遠くに見えた蜃気楼のような大きな球状の建物。

 属区の人間たちの造れるはずもない形のそれは、おそらく自分たちよりも高度な技術を持った外属の人間が造ったものだと、即座に分かる。

 何故そんなものがあるのか、そんな疑問はどうだっていい。

 汗が流れきる前に、体内の水分が尽きる前に、そこへとたどり着ければ、後はどうにだってしてやる。


「行こう」


戻れる場所なんてないんだ。

 後悔しない程度に頑張るさ。


×××


結果的に、俺はそれが正しいと知った。


「幻……じゃなくて、よかったあぁ…」


足が悲鳴を上げている。

 へたり込みそうになる足を叱咤して、目前に迫った球状の建物を目指す。


「ノズミお姉ちゃん、大丈夫?」


背負われたままの、シンスウが聞いてきた。

 スーシンは未だ目覚める様子がない。


「大丈夫、調子は? 悪くない?」


「悪くないよ、それより、ノズミお姉ちゃんの方が……」


分かっている。

 脱水症状を起こしかけいるなどというものではないことを、意識せずとも分かっていた。 妙に体は熱っぽく、口の中も唾液が粘りついて不快だ。

 体力が続くかといえば、絶対的に「無理だ」と答える。理由は簡単、自分の体はすでに地面へと抱きこまれていたからだ。


「あぇ?」


意識が朦朧としてきた。呂律も回らない。

 シンスウが叫んだ気がした。

 助けを求めているのか、それともただ俺の名前を呼んでくれているのか、いや、そのどちらでもなく、自らの妹の名前を呼んでいるのかもしれない。

 黒い影が、日光を遮った。

 双子のものではない、もっと大きい影だ。

 体は動いてくれる気配を見せてはくれない。


「どうかしたか!? 熱中症か? それとも脱水症状か!?」


やけに耳に響く声だ。

 頭に響く声に、頭痛が起こされるのと同時に、意識は熱くも寒くも感じさせないようにすべての感覚を遮断させた。


×××××


冷たい――そうセイルが感じたときには、視界がはっきりと広がっていた。


「シン姉……お姉ちゃんが…起きたよ!」


視界ははっきりしても、頭はそうもいかないようで、呆けたように辺りを見回しているセイルが、額から落ちた濡れタオルを手に持った。

 体に力が入らないので、セイルはスーシンに手を貸してもらい、起き上がる。

 シンスウと大声で会話していた少年が顔を向けた。


「起きたか!! どうだ、体の調子は悪くないか? どうだ!?」


妙に特徴的な話し方だ。

 やかましいことこの上ない。そんな感想をセイルは抱いた。


「もー大丈夫でっす……ところで、あんた、誰?」


「すっごいうるさい」正直な感想も言ったのだが、セイルの言葉は少年の笑い声の前に消えた。


「俺はクーウェイ! 建物の前で倒れていたのを見つけたのも俺だ!!」


あまりにも当たり前な言葉に、セイルは呆れるしかなかった。セイルの近くに寄っている双子も、苦笑を隠せない様子だった。

 クーウェイと名乗った少年は、薄汚れた麻の袋から透明な細長い容器(ペットボトル)を差し出す。

 中の液体が小さく音を立てた。

 セイルは数秒ほどそれを凝視すると、ふたの部分に手をかけて、ひねった。

 ぱきりと音がすると、そのふたは簡単に外れた。容器の中に入っている水を、セイルは警戒もせずに、一本丸ごと飲み干した。


「ふー……生き返ったー…」


「おおっ?! その容器はそうやってあけるのか!!」


声が無駄に大きく、うるさいのでセイルは容器のふたを閉めると、クーウェイの顔面目掛けて思い切り投げつけた。

 体の横にまっすぐに伸ばされていたクーウェイの手が、次の瞬間には拳を振り終え、容器の中にかすかに残っていた水滴が光に反射した。

 高速の拳に、セイルだけでなく双子までもが息を呑んだ。

 刹那的反応の際に見えた茶色の瞳は、真剣そのもので、寒気さえ感じられた。

 スーシンは素直に感心していたが、シンスウは素直に感心できず、自分の心の中に引っかかった事柄を聞いた。


「お兄さんの名前は、トウチ・クーウェイじゃない……かな?」


「ん? よく分かったな! 何故苗字が分かったんだ?!」


双子の姉に、名乗ってもいない苗字を当てられたクーウェイは、驚きながらも関心を示していた。

 シンスウは、やかましさを苦笑で受け流した。


「あなたは有名だから」


「そんなに有名なのか! 俺は!!」


大きな声の中に、嬉しさが混じっていたのは、会って間もないセイルでも簡単に感じ取れた。

 クーウェイの機嫌がよくなっているところで、セイルは立ち上がった。

 気絶して、セイルが寝かされていた場所は建物の入り口付近、外へ通じる硝子の扉は、割られていたが、かなりの厚さがある。クーウェイが叩き割った硝子の厚さは、目測だが一寸はある。

 かなりの馬鹿力か、それが彼の能力なのか、セイルには分からなかった。


「あんた、驚かないんだ? ここを、見て」


「……その発言に対する反応は返せないな! お前は天の属区だろう!?」


実際のところ、クーウェイはただはったりをかけだだけだったが、混乱してしまっているセイルは気付かずに、セイルは表情を制御できず、顔という感情を表すものに、素直な言葉を表してしまった。

 気付かれたっ――?!

 驚きのまま双子を見れば、小女は互いに身を寄せ合い、怯えている。


「俺はどんな属区でも気にはしないが、天の属区だけは別だ!」


「そして、その表情が証拠だ! 一応助けはしたが、もう手助けはしないっ!!」


完全なる拒絶に、セイルは一種の潔さすら感じられた。

 下手に怖がられるよりは、そちらのほうが幾分か気が楽だった。


「の、ノズミお姉……ちゃん…?」


明らかに変わる反応に、セイルはくだらないと鼻で笑っただけだった。

 天の属区は明らかなる異端と教えられているのだから、当然なのだろうと一人納得したセイルは、早々にこの建物から出て行こうと扉の前へと歩いた。


『ガガ……ピ…ッ!!』


機械の音。

 咄嗟に後方へ飛んだセイルの目の前に突き刺さるのは、先端が鋭く尖った、矢の(やじり)を細長くしたようなものだった。

 殺傷能力の高いそれを、矢に使わず、そのまま武器として使うなどと思いもよらないことに気をとられているうちに、同じように凶器が飛んでくる。

 クーウェイか、双子がやったことかと思われたが、3人はただ炎天下の中を歩いてくる水銀色の人型を見つめるだけだった。


「昼日か?! いや……違う、あいつじゃない…逃げろ、お前らっ!!」


このまま固まっていれば殺されるのは確実、セイルは怒鳴った。

 一番初めに動き出したのはクーウェイだった。セイルの言葉に従ったのではなく、両拳を構え、得体の知れない化物に向かっていった。

 クーウェイと水銀色の人型の距離は、一気に縮まる。

 右拳を化物の顔面に向けて繰り出しながら、左の拳を腹部へと向けて繰り出す!

 水に手を突っ込んだような音がして、形が崩れ、その異様さにクーウェイが嫌悪感をあらわにした。


「シンスウ! スーシン!! 尊い犠牲を無駄にするなっ!! そっちから裏口へといけるはずだから、行きなっ」


セイルが示したのは緑色の看板に、人が扉に向かって走っていく絵が描かれていた。

 忌まわしき属区の人間の声に耳を貸すべきかと、迷いを見せていたが、弾かれたようにシンスウは妹の手を引いて走り出す。

 双子から視線をクーウェイへと戻したセイルは、その姿がないことに目を見開いた。

 目を凝らして、それでも見えない。


「どこへ行ったんだ」


まさか、敵前逃亡などありえないだろうが、クーウェイの姿がないと見ると、本当なのかもしれないと思ったが、水銀色の人型の大きさがおかしい。

 建物内が損傷するはずがないと知っていながら、セイルは一応外へと出た。

 水銀色の人型を観察する。

 何故か、内側から外へと動いている。


「さて、どうする、俺?


1.そのまま放置


2.助ける


3.水銀色の人型(ロボット)に加勢」


真剣に悩んでいると、水銀色の人型はクーウェイを吐き出した。体が妙にてらてらと光っているので、触りたくはないと感じた。

 次の標的はセイルに絞ったようで、水銀色の人型は鈍く光を反射しながら、形を変えた。

 変身した水銀色のそれは、今度は巨大な砲台を自分で形作った。

 光が収縮、狙いをセイルに定める。


「かかってくるのか……、俺は容赦はできない。理由は簡単、貴様を跡形もなく…」


言い終わることを待とうともせずに、巨大な砲台は水銀色の弾を撃ちだすが、明らかにスピードが遅い。避けることなど、簡単だった。


「哀れな貴様に、“何者にも囚われぬ天の意思に従い”死という名の安らぎを」


あまりにも遅い弾は目前に迫る。

 言葉を発するセイルが目の前に差し出した右手と、砲弾の間に、波紋が生じた。

 生じた波紋に、砲弾が水銀の鈍い光に変わり、辺りに飛び散る。


「散」


波紋が飛び散った水銀色の液状物を包み込み、風に溶け込ませた。

 機械音の悲鳴が耳障りだった。

 早く消えて欲しい声に、「散」と再び発した言葉に力がこもった。


「どうして……機械が…? ここは、もしかして…」


太陽が射るような光を放つ空を、セイルは見上げた。

 星に似た形をするこの国の中央と、頂上部は、セイルたち天の属区の人間の領土。

 天の属区のみが、異国という忌まわしい知識をもってして建てることができた巨大な塔。上空から見たとしたら、星型に近い塔は、右側を赤色で塗り、右斜め下を緑色、左斜め下は茶色、左側を青色で塗ってある。

 属区ごとに、目印となるようにしたのだ。

 途中、水属区から派生した氷属区(ひょうぞっく)と、炎属区から派生した雷属区(らいぞっく)の出現により、塔の右側は下半分を紫色、左側は下半分を水色に塗り替えられた。

 セイルが見上げた天属区の塔は、赤色と紫色で塗りつぶされていた。


ここは、天属区の外。つまりは外属から隔絶されていたはずの炎属区(ばしょ)だった――。


「ありえ、ない……外属の“もの”(ロボット)がここにいるはずがないっ!!」


絶叫は乾いた大地に消えた。

 セイルはただ呆然と、汗が全身を濡らす不快感を感じるまで、その場を動くことができなかった。




隔絶された世界に入り込む異端の原因を知るために、何を考え、何をするのだろうか――。





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