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エピローグ



 季節は、冬を終え春を迎えた。

 

 今年は花冷えもなく、みるみる暖かくなって桜が一斉に開花した。

 

 この街に来たばかりなのだろう、あちこち珍しげに見回しながら歩く若者たちと度々すれ違う。安価に仕入れることができた苺の箱を抱えて、豊島は麗らかな日和に目を細めた。 

 花見客で賑わう公園を通り過ぎ、表通りから一本外れた奥の店に向かう。扉を開けて、ただいまと言ってから苦笑した。もうここに住人はいないのに、声をかけるクセが抜けない。


 朔太郎は、この春からVividを出て二人暮らしを始めた。記憶を取り戻し、左手も順調に回復しているらしい。新作を書き始めたそうだ。

 

 四年前の事件で、朔太郎は記憶障害と左手のマヒを負った。大学からの帰り道、事故に巻き込まれた。


 豊島の友人だった男、古賀景一が深夜、コンビニから帰ろうとしていたところを飲酒運転の車が接触した。その直後に朔太郎が通りかかり、犯人に口封じの為に殴られ、二人一緒に埋められそうになったらしい。


 犯人の一人は逃亡し、橋から転落。もう一人は、朔太郎の担当編集の女だった。


 朔太郎はどうにか隙をついて逃げられたが、景一は動けなかったようだ。

彼を置き去りにしたことを悔やみ、恐怖と罪悪感から障害を負い、トラウマに苦しんでいた朔太郎を救ったのは幽霊になった景一だったという。


 朔太郎は、豊島にも泣きながら頭を下げた。君のせいではないと言ったが、何度も何度も謝ってくれた。


 朔太郎の話では、毎晩のように現れていたというから、随分と近くに居ながら気が付かなかったのが残念だ。橋の上の事件以降、朔太郎も姿を見なくなったという。


 今はどうしているのか、犯人が捕まって、彼も落ち着いたのかもしれない。


 伊波という女は橋から落ちたが、幸い脚を折っただけで命に別状はなかったらしい。


 荷物を置き、さっそく苺を洗ってカクテルを作った。甘い、ジュースのようなそれは景一の好みだ。グラスを二つ用意し、カチンと縁を触れ合わせる。


「お前の体、見つかったってよ」


 伊波の供述により、遺体の捜索が始められた。大学の隅、地下鉄駅の至近で発見され、ここ数日は大騒ぎになった。鑑定も終わり、明日納骨すると聞いている。


 景一のCDを流しながら、甘いカクテルを飲み干す。


 遠く、ぽーんとピアノが鳴った気がした。                








                                   了


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