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プロポーズ

いつもの居酒屋で、私はカウンターのテーブルに突っ伏していた。

因みに、隣には栞である。


「で、あんた達、まだ結婚しないんだ?」


栞が、本日12回目と思われる質問をした。

因みに、あんた達、とは私と竜のことである。

私達は就職後、やっと付き合い始めたので、何だかんだで六年たった。そろそろ結婚したいのに、竜はプロポーズしてくる気配が全く無かった。


「仕方ないじゃん!竜が、いつまでたってもプロポーズして来ないんだから!」


酔いが回っているのだろう。

もう、何を言っているのかすら分からなくなってきたが、竜への不安だけが爆発し続けていた。


「告白するときもそう!ギリギリにならないと踏ん切りがつかないの!

ヘタレ!」


本当にヘタレだ!


就職してからもなかなか告白してこないし。


私が他の男子を誉めたり、告白されたり、口説かれたり……。

色々仕掛けたのに、なかなか動かなかった。


やっと告白してきたのは、私が合コンに行った日の次の日だ。

もう、行く前に止めろよ!

せめて次の日じゃなくて、その日の内に来てほしかった……。


あーーーー!ヘタレ!


「……でも、好きなんでしょ?」


「当たり前でしょ……?

私が何年片思いしてきたか、あんた知ってるじゃない」


「んー、そうね」


あー、もう!とぼけるなよ!

今日、ずぅっと愚痴ったでしょうが!


「で、早苗は他に、竜の何が嫌なんだっけ?」


「手ぇ出してこないとこ。

前に、お泊まりだってしたんだよ?

学生でもあるまいし。つきあってる彼女に手ぇ出さないのって、普通あり得なくない?」


普通、有り得ない。

ということは、私のことはもう好きでは無いという事なのだろうか?


ずっと、それだけが私の心に重くのし掛かっていた。


「はいはい。もうちょっと飲みなさい」


私は、栞が勧めたグラスの中身を勢いよく流し込み空にした。


クラクラとして、フワフワとした。

何だか暖かい、温かい。


あぁ、この温もりは……。




気が付いたときには、その後の記憶が無く、竜のベッドの中にいた。


「あれ、私……?」


咄嗟に起き上がろうとすると、頭が痛み、もう一度ベッドへ倒れ込んだ。


「起きた?」


リビングに続くドアを見ると、休日のお出掛けスタイルに身を包んだ竜がいた。


「……竜。私……どうして?」


「早苗が潰れたって、栞に呼び出されたから迎えに行ったんだ。」


いつもどおりの彼は、幼い頃から変わらない笑顔を浮かべていた。

何故だか安心した私は、ふと疑問に思ったことを口に出してみた。


「竜、会社は……?」


そう、今日は平日だったのだ。


「お前も俺も休みにしといた。いいよな?」


私が頷いたのを確認した彼は、壁掛け時計を見上げた。


「所で、もう昼だけど……起きるか?」


二日酔いの頭はずきずきと痛んだが、竜の手も借りて、何とか立ち上がり、リビングの椅子に座らせて貰った。


「……あのさ」


「何?」


「……いや、やっぱり何でもない。ご飯食べる?朝食の残りなら有るけど」


「うん、貰うよ」


その時、竜の右手が右耳に触れるのをみた。

何か言いたいことがあるのに、言えなかった時の癖だった。


しかもこの癖は、大事なことに限って出るモノだった。


まさか……別れ話?


嫌な予感が過ぎった。


やっぱり、私の事は好きじゃない?

もう、嫌気がさしちゃったの?


……私達、終わりなのかなぁ?


こんな時に限って、悪いことはいくらでも考えついてしまうものだ。


「……ごめん、竜。私、帰る」


耐えきれなくなった私は、椅子から立ち上がり、玄関へと向かった。


「え?ちょっと、待ってくれよ!」


慌てた竜が私の腕を掴んだ。

その手が凄く熱く汗ばんでいたことに驚き、振りほどこうとしたが、竜の手は外れなかった。


「何?帰りたいの、離して」


「話したいことがある」


「私にはないっ」


「俺にはある。頼む、大事な話なんだ」


私の瞳に映る竜の顔はいたって真剣で、私は余計に恐くなってしまった。


「いやっ、帰る!離してよ、ねぇ!」


無理矢理振り解き、ドアノブに手をかけた……のに。


「……!」


「行くな。行かないでくれ……っ!」


私は、後ろから抱きしめられていた。


「……そんなに、別れたいの?」


「……え?」


驚いたような声に振り返ってみると、竜はぽかぁんと口を半開きにしていた。


「私のこと、嫌いになっちゃったんでしょ!?」


「違う!」


「だってそうでしょう!?

お泊まりしても、手出してこないし、キスだって偶にしかしてこない!」


「そ、それは……」


やっぱり、そうなんだ……?


竜の手が緩んだ隙に逃げ出したが、肩をドアに押しつけられた。

ドアと竜に挟まれて、身動きがとれなくなった私は、竜を涙目で睨みつけた。


「逃げないで、くれっ!」


「……分かったから。もう、離してよぅ」


そんなにも私と別れたいのかと思うと、自然に涙が流れた。


「……ごめん、泣かせるつもりは、無かったんだ」


「何でよ、バカ」


「……ごめん。でも……今、逃がしたら、二度と言えなくなるような気がして……」


竜は、大きく息を吸って、ポケットから包みを取り出した。


「泣かせてごめん。

ヘタレでごめん。

ずっと待たせてごめん。

こんな俺だけど、ずっと愛し続けるって誓います。

だから……俺の奥さんになってくれますか……?」


初めはまじめな顔をしていた彼は、段々と不安げになっていき、最後なんかもう、物凄く自信のなさそうな顔をしていた。


「……何でそんなに不安そうな顔するの?私が、断るとでも思った?」


「いや、断られたら監禁しようか、迷ってたところ」


苦笑する彼に私は

「心配しないで」

と笑って見せた。


「私を、竜のお嫁さんにしてください」




その日は家から出れなかった。……いろんな意味で。

竜って、結構溺愛主義だと知った。

次の日も会社を休むことになりかねなかったが、偶々休日だったので安心した私だった。


ベッドの中で

「プロポーズのこと以外は栞にバラスな」

と口止めされたのは何故なのかという疑問以外は幸せに包まれた私だった。


あ、そうそう。朝のまどろみの中で


「結局私は恋をし続けていたと考えるべきかな?」


と訊いてみたら、


「愛し続けてくれていたって方が一番嬉しいな」


と囁かれて抱き締められた。



問題

私の気持ちは恋なのか、愛なのか。


結論

この気持ちがどちらでも、結局のところ、今の私は幸せだ。

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