表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

保健室

遅れました!

観客席から自然と拍手が起こり、見計らった様に幕が下りる。


劇が終わった瞬間、竜の所へ行きたくなった。

けれど私は部長で、しかも監督だ。

部員達を放っておくわけにはいかないと、みんなの元へ行こうとした私の肩を、誰かが掴んだ。

驚いて振り返ると、中Tだった。


「中T、何の用ですか?セクハラですよ」


私が訝しげな瞳を向けると、彼は苦笑した。


「ヒドいな。まぁ、大した用じゃないんだが……竜の所へは行かねーのかな、と思っただけさ。……心配だろ?」


「……そりゃあ、行きたいですけど。部員達を放って行く訳にはいきませんし……」


私がぶちぶちと言うと、中Tは笑い飛ばした。


「なんだ。そんなん気にすんな。あいつらも、分かってくれるさ。

それに、俺だってついてるし」


「じゃあ……っ!」


私が身を乗り出すと、中Tは目を細めて笑った。


「任せろ。安心して、行ってこい」


「ありがとう、中T!」


私は礼もそこそこに、舞台を駆け下りた。保健室に続く廊下が物凄く長く感じられた。

保健室のドアを少々荒々しく叩いたが、返事はなかった。


「失礼します。先生?」


しびれを切らして中を覗くと、二つ並ぶベッドの一つにカーテンが掛かっていた。

多分、寝ているのは。


「竜……?」


「ん?来てくれたんだ」


竜はゆっくり上半身を起こすと、笑った。


「あ、当たり前でしょ?」


「保健の先生、職員室にいるってさ。

早く病院行けって言われたんだけど、劇の方が気になっちゃって……。

俺の代わりに、見届けてくれたよな?」


そんな……寂しそうに笑わないでよ。


「うん。……ちゃんと、見届けてきたから」


「……うん」



二人きりで静かな保健室に、沈黙が流れた。

耐えかねた私は、口を開きかけたが、それよりも早く、竜が言葉を発した。


「ごめん」


「……何で?竜が謝る事なんて無いじゃない」


「迷惑、かけた」


「……今更よ」


「わがまま、言った」


「……竜が、諦めきれないのは分かってた」


「かっこ……悪かった」


「そんなこと、ない。竜は、かっこいい」


「……舞台に、立てなかった」


「でも、一幕は演じたじゃない」


「最後だったのに、さ。結局、最後まで……ヘタレで」


「……でも、かっこよかった!」


そんな、哀しい顔しないでよ。

出られなくなったのは、竜の所為じゃないのに。

どうして、そんなに自分を責めるの……?


「……早苗、ごめんなぁ、ヘタレで」


何か言おうとすると、また涙が溢れてしまいそうで……俯き、黙ってクビを振った。

竜の顔を見れなかった。


「俺、どうしようもないヘタレだからさ。また、お前を泣かせるかもしれない」


どうして、そんなこと言うの?

とっさに顔を上げると、竜は凄く真剣な顔をしていた。


「俺、劇が成功したら、お前に告ろうと思ってたんだ」


「それっ、て……っ」


「ずっと、好きだった」


今までで、彼が一番かっこよく見えた瞬間だった。

真剣な表情は直ぐに崩れ、へにゃりと情けなく笑った。


「でも、俺がヘタレだったから、お前のこと、何度も泣かせるし、告白も先越されて……」


「竜……?」


「最後まで、カッコつけらんないからさ、もう少し……俺が責任とれるようになるまで、待ってくれるか?」


顔は真剣そのもの。言ってることも真面目。でも。


「私は、アンタに対して恋心なんて、一生抱かないから!」


私が叫ぶと、彼は赤面し、顔を片手で押さえた。


「……早苗、自惚れてもいいか?

俺のことを、一生愛してくれるとしか聞こえない」


私も、自分の顔が赤く染まるのが分かった。


「……っ!分かってるなら訊くな!このヘタレ!

……痺れ切らした私が、他の男に乗り換えても知らないから」


少し拗ねたように言ってやると、彼は笑った。


「大丈夫、惚れ直させるから」


「……どこからくるのよ、その自信」


……悔しいが。むちゃくちゃかっこいい笑顔にまた惚れ直してしまったのは、言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ