壊れてしまう。
「竜せんぱぁいっ!」
今日も、姫菓は、竜にくっついていた。
「もう、許せない……っ」
「早苗、落ち着いて!」
「そーですよ!餅ついて下さい!」
「優李ちゃんこそ落ち着いて!」
私を止めようとしていた栞と優李ちゃんだが、むしろ二人の方が慌てすぎて、全くと言っていいほど意味がなかった。
あの後、諦めて姫菓を放っておいたら、姫菓は調子に乗りまくった。
自分のやることが認められたと勘違いしたようだ。
そして、自分の裏方の仕事には興味も示さず、更に竜ベッタリになった。
裏方組からも苦情がきた。当たり前だ。
役に付けなかったのだから、諦めればいいものを、裏方だったらやらないとまで言ったらしい。
そして彼女の存在は、私達の関係にまでひびを入れる事になった。
「早苗、ちょっといいか?」
「何?竜がわざわざ私の家に来るの、珍しいね」
家に帰った直後、竜がわざわざ私の部屋に来た。
普段なら、ちょっとお母さんと話した後、逃げるように家へ帰るのに。
「実は……さ、姫菓ちゃんの事なんだけど……」
「姫菓!?私にどうにかしろって言うの!?」
毎日あの子に神経すり減らされていた私は、名前を聞くのも嫌になっていたのだ。
それなのに、よりによって竜の口から聞くなんて!
「いや、ちょっと手伝って貰えないかなって。早苗、頼むよ!」
必死に頼んでくる竜だが、私はその姿により苛立った。
「竜が、もっとハッキリ言えばあの子も分かるんじゃない?
いちいちイライラしたくないの!あんたとあの子の問題でしょ?」
竜があの子をちゃん付けで呼ぶのも嫌だった。
下の名前で呼ぶのが、うちの部活のルールだとしても。
「それはそうだけどさ……。
せめて、少しだけ協力してくれるとか……」
私は、煮え切らない態度の竜にキレてしまった。
「なんでそういう事言うの!?私がどうして疲れてるか分からない訳?
毎日注意して、私だって疲れてるの!」
「俺だって、あの子にまとわりつかれて疲れてるよ!」
「そんなん、あんたがハッキリ言ってやれば済むことでしょ?
あんた副部長でしょ!?」
「役職は今、関係ないだろ!?
それに、傷つけたくないから困ってるんじゃないか!」
「やっぱり!竜はあの子が離れていくのがイヤなんじゃないの?」
「誰もそんなこと言ってないだろ?大事な後輩な事に、代わりはないって事だよ!」
何だか、自分が責められているような気がした私は、一番危惧していた心の内を叫んだ。
「竜は……竜は、姫菓のことが好きなんでしょ!?だからそうやって庇うんだ!」
「はぁ!?どうしてそうなるんだよ!
おかしいだろ!」
「それって、私の頭が?」
もう、何を言いたいのかすら分からない。
このままじゃ、竜を傷つけるだけだ。
でも、私の口は止まらない。
「どうして、あの子なの!?私の気持ちはどうなるの!?」
「分かったよ!俺が我慢すればいいんだろ!?」
「違うでしょ!?自分の口から言ってって言ってるだけじゃん!
私だって、姫菓と竜が一緒にいるの、これ以上見ていたくないもん!」
「はぁ!?何でだよ!それこそお前には関係ねーじゃん!」
「関係有るよ!だって……私は竜のこと好きだもん!」
「え……?」
「……っ!もう、帰って!!」
呆然としている竜を部屋から無理矢理追い出した。
暫くして、竜が家を出ていったのが分かった。私は、へにゃへにゃと、その場に座り込んでしまった。
その後も、頭の中は真っ白になったままで、兎に角叫びたかった。
『どうして、分かってくれないの……?
私は、こんなにもあなたの事が好きなのに……』
ヒロインからヒーローへの台詞だ。
それは同時に、私から竜へのコトバでもあった。
「好きなのに……。竜のバカ」
バカは私も、か……。
乾いた笑いが嗚咽の合間にでた。
「もし、恋が叶ったとしても、いつか別れることになるのなら……叶わなくたっていいや」
『恋は……つらいね。こんな感情、知りたくなかったよ。
どうして、あなたが相手なんだろうね……?』