表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

 瑞樹に苛立ちを覚えながら入学式が行われている体育館を覗きこむ。軽く見渡しただけだけど誰ひとり寝る生徒を見つけられないって、どれだけ真面目な子ばかりなんだ。

 大きな体育館は一階と二階にわかれていて、一階には生徒の席を、二階には保護者の席を用意していた。皆の視線が舞台に向かっているのを確認して、生徒たちが座っている一番後ろの空いている場所に腰がける。


「それではこれより、クラス分けの発表を行います」


 なんて良いタイミング!

 思わず膝の上でガッツポーズをしてしまった。すると隣でくすりと小さな笑い声が聞こえてくる。遅刻したのバレてるよなぁと恐る恐る視線を向けた先には、美少女がいました。

 ……ここには顔の良い人しかいないのか?


「ごめんなさい、反応が素直すぎてつい」

「いやいいですよ……私も分かりやす過ぎたと思うので」


 よかった、と笑う少女をさりげなく観察する。ふわふわと波打つ栗色の髪。長い髪の毛に赤いリボンを巻きつけてるのがまた可愛らしい。私は姫――というよりも倭刀に影響されて、姫と同じ真っ直ぐな黒髪をただ伸ばして背に流してるだけだから、ふんわりと柔らかそうな髪の毛が羨ましくも感じる。


 それから私は彼女と自己紹介した。

 楠木千里(くすのきせんり)という彼女は初等部からここに通っているらしい。つまりは内部生ってことだ。どうやら一つ上にちーちゃんという兄もいるようで、昔から仲の良い兄妹だったらしいが、兄が人気あるせいで同年代の友達が少ないんだとか。

 ちょっと意味がわからないですね!


 それから千里は入学式で会った話をいろいろと教えてくれた。

 なんでも毎年クラス分けも兼ねる入学式は先生の話が短いんだとか。学長の話から始まり、生徒会長の話、そして主席合格者からの話を終えると理事長の話で締めくくり、担任たちがクラス分けを発表する。人数多くて大変じゃないかなーと思っていたが、宮之原学園は内部生も上に進学する際に受験を必要とするようで、その際に外部生と同じく受験票を渡されている。

 どうりで必需品として受験票が書かれていたわけだ。


 その受験票の番号を担任がどんどん告げていき、呼ばれた人は退席していく。担任はクラス名の書かれた紙を掲げているし、入学前に貰っているパンフレットに地図が書かれているからそのまま教室に向かえばいいようだ。

 今はA組の担任が舞台に立っているらしく、A組は成績優秀者ばかりらしいので、それほど集中して聞かなくてもいいみたい。


「このやり方って番号忘れてたり聞き逃したら終わりだな」

「まぁ聞き逃した人のために最後まで先生が残っているから、その場合は退席しなかったらいいだけよ」


 それってすっごく恥ずかしくありませんか?


「普通に名前を呼んだ方が良い気がするけど……」

「うーん、番号の方が早く済むっていうのもあるけど、名前は個人情報だからダメなんじゃないかな。それにこのやり方だったら外部生でも分かりやすいでしょ?」

「いやー、慣れないやり方だから戸惑うけどなぁ」

「昔は張り紙だったようだけど人数多いし、内部生に囲まれると外部生がなかなか教室に来られないってこともあったみたい」


 納得です。そうだね、確かに内部生の方が多い中で張り紙を見に行こうにも、自分の名前を探し出すのは至難の業だろう。というかホームルームが始まって内部生が居なくなるまで満足に行動出来ないかもしれない。

 ふと舞台に視線を向けると、クラスはようやくB組に移ったところだった。先生の声を聞き逃さないようにしながら、千里との会話を続ける。


「そういえば聞きたかったんだけど、お兄さんが人気あるから友達出来ないってどういうこと?」

「ああ……えっとね、ちょっと外部生には分かりにくいかもしれないんだけど、ちーちゃんって本当に女の子たちから人気があるの。でもあまり女の子と一緒にいるのが好きじゃないみたいで、私以外の女の子を傍に寄せつけようとしないんだ」

「はぁ」

「だから私と一緒にいればちーちゃんと仲良くできるんじゃないかなって考える人もいて……」

「はぁ?」

「昔それで問題が起きて、そしたらちーちゃんが怒っちゃって。私と仲良くしてちーちゃんに前と同じだって思われたら嫌だからってちーちゃんのファンはそれから私に近づかなくなったの。ちーちゃんに興味がない子もいたんだけど、ちーちゃんのファンに抜け駆け扱いされたりとかでやっぱり……」


 本当に意味がわからん!


「それ、お兄さんが怒るのも当たり前でしょ!」


 そもそもお兄さんに近づきたいならお兄さんに近づくべきで、千里を巻き込むのはお門違いっていうやつだ。


「そう思う?」

「もちろん」


 力いっぱい頷いたら、千里は私の手を両手で握りしめた。


「なら、私と……お友達になってくれる?」


 潤んだ大きな瞳が上目に見上げるように私を見つめてくる。


「ファンの子に抜け駆け扱いされたり、嫌なことを言われたりするかもしれないの。でも内部生は皆、私とちーちゃんのこともう知っているから、外部生しかお友達になってくれなくて……。嫌になったらお友達を止めても良いから、少しだけ一緒にいてもいい?」


 可愛い女の子から縋られて、断れるような男がいたらそいつはもう男じゃない。

 いや私は今は女なんだけども!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ