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それから、さっきはどたばたしていたから、改めて自己紹介した。
午後から休みだと決めた私たちを千郷先輩が寮まで送ってくれるようで、授業が始まって人気がなくなるまでゆっくり休憩していくことになったからだ。雪菜さんはそもそも体調不良。八雲先輩は雪菜さんがいないのに戻るわけないし、会長は仕事があるんだって。春日たちは先に教室に戻っていった。うん、頑張ってノート取っておいてね、蒼井くん!
「えっと、それじゃあ、お名前聞いてもいいですか?」
話を振ると、彼らは自分から紹介してくれた。
まずは蒼井雪菜さん。生徒会役員補佐。
蒼井くんの双子の妹。クラスはなんとA。
昔から身体が弱いみたいで、幼馴染の八雲先輩が護っているとのこと。そう告げた八雲先輩に向けられた彼女の顔は真っ青だったので、離れた方がきっと健康には良いと感じたのは私だけじゃない筈だ。口を滑らせたら八雲先輩に殺されそうだったので絶対に言いません!
口は災いの元。
千里と友達になれなかった理由も、やっぱり八雲先輩。身体弱い彼女に念をつけるとかふざけてんのか、だそうで。……私っていう防波堤がいるなら、皆に見られない生徒会室でだけなら仲良くしてもいいんだって。仲良しアピールに名前で呼び合うことにした。八雲先輩に睨まれたけどねっ!
次は藤原八雲先輩。生徒会役員、職務は会計。
蒼井くんたち双子の幼馴染。クラスはやはりA。というか、葛城会長も千郷先輩も全員Aらしい。
この人は自己紹介と称して雪菜のことしか話してなかったので割愛。
一言喋るたびに雪菜から血の気が引く音がするんだから、顔が良くないと即座に訴えられている筈だ。むしろ今すぐにでも雪菜のことを思えば訴えたいが、なんだかんだ言いつつ幼馴染なので情があるとのこと。……雪菜、変態を甘やかしたらダメなんだからね!?
楠木千郷先輩は、千里から聞いてた通り。むしろ想像以上に高スペックなお方でした。
成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群。サッカー部のエースとして校外でも一部では有名人、らしい。……すいません、運動に興味ないので全く名前知りませんでした。
生徒会役員の職務は書記のようだが速筆になると自分と千里にしか読めない文字を書くそうで、会議などではパソコン必須なんだとか。むしろ会長の方が字が綺麗、ってそれ意味なくないか? いや確かにあの字を思い出すと比べる対象が悪いってくらい綺麗な字でしたけども。
もう一人、副会長は現在長期休暇を出しているようで不在。春日と蒼井くんは身内がいるってことで昔からこの場所を逃げ場にしていたんだとか。お昼は電話一本で食堂から出前が来るそうで、生徒会の特権なんだって。羨ましい限りだね……。
最後は、葛城優一先輩。
筋金入りの会長職。派手な外見とは正反対の超がつくほどの真面目な性格で、空き時間でも自分から仕事を見つけてきちゃうほどの仕事中毒者。でもって完璧主義者なもんだから、周囲からも仕事を持ちこまれるんだって。今やってる仕事も生徒会は関係ない、先生から持ち込まれた依頼をこなしていたんだそうで、雪菜たちがサボっていた訳ではないようだ。勘違いしてたよ、ごめん! でも一人だけ休憩もなしに黙々と書類整理してる人がいたら勘違いしても仕方ないよね!?
今日のお昼だという野菜ジュースの紙パックを片手に書類の束を片づけていく会長に、なぜかな、涙が溢れてきそうだった。さっきの話から考えるに、この人、絶対仕事が好きなわけじゃない。ただ手が空いてて仕事が溜まっているのを見ると、手を出さずにはいられないだけだ。
「…………程々にしておいてくださいね、葛城会長」
「慣れてる」
「慣れちゃいけないことです!」
誰かが止めないと過労死するぞ、この人っ!
「もっと言ってやってくれる? 倒れるまで働かないと休憩しないんだよね、優一は」
「雪菜に凭れて倒れた時はトドメをさそうと思ったが」
「八雲さんっ!」
「雪菜が泣いて縋るから止めただろう? 俺以外の男のために泣く雪菜の願いなんて叶えたくもなかったけどな」
「会長!?」
既に過労死寸前でしたか!?
八雲先輩の言葉に、当時のことを思い出したのか、葛城会長の目が虚ろに空を見つめる。流れるように書類を捌いていた手が止まり、微かに指が震えているのを見て、一体何があったんだとこっちまで背筋が凍りつきそうになった。それでも止めてないんだったら、会長の仕事中毒も治しようが無い病気かもしれない。
午後を告げる鐘の音が響く。
役員のヒエラルキーがなんとなく分かったところで、私たちは寮に向かうことになった。千里と二人で千郷先輩の後に続いて生徒会室を出ていこうとする。
「千郷、戻ってくるときに職員室でまだ仕事あれば貰って来い」
……けど、背後から聞こえる紙のこすれる音と、その言葉に、神経の切れる音が聞こえた気がした。
「……千郷先輩」
「うん?」
「会長の仕事って急ぎですか?」
「――いや、そんなことないけど」
千郷先輩は私が言いたいことがわかったのか、にっこりと爽やかな笑みを返してくれる。というか、千郷先輩のこめかみに青筋が浮いているように見えるのは気のせいだろうか。千里も目を輝かせているので、同意してくれているのだろう。私はその場でくるりと身を翻すと、会長の隣に戻った。顔を上げた葛城会長に微笑む。肩を震わせた会長に、どうしてその判断をもっと早く出来ないかなと苛立ちながら、逃がさないように腕を掴む。
「……なんだ、帰らないのか」
「送ってください」
「それなら千郷が送るって言ってるだろ」
「念を祓えるのは葛城会長だけなんですよね? 私は体力が削られてるっていうし、何かあったときに対処出来るのは会長だけ。なら会長が送ってくれるのが一番良いと考えたんですけど、何か間違っていますか?」
「…………俺は仕事が」
「急ぎじゃないって千郷先輩が言ってますし、休憩しろって今あれだけ言われてたのにまだ新しい仕事を探そうとする必要はどこにもないですよね。むしろ休憩した方が効率も良い筈です。私たちから念を追い払えるのは会長だけで、その仕事は会長以外にも出来ることなら……わかりますよね? 私が言いたいこと」
「…………………………こえぇ女」
――勝った。




