エビパスタの美学
――あらあら、随分御苦労の様ね。
――ああ、厄介な物を受け取ったせいで、この有様だよ。
赤く染まる口をぬぐう。
――ねえ、どうして刺さなかったの?
――俺は、卑怯な真似はしたくないんでな。
――あなたらしいわね。それにしても強かったわね。
――ああ、デカくて強かった。
「空いてるお皿、お下げしま~す」
――でもさ、奴には世話になったよ。
――ええ、今が幸せなのは、彼のお陰だものね。
ファミレスの扉を開く。
――ねえ、次はどうするの?
――生憎、俺は意志を変えない男なんでな。
――随分頑固なのね。でもいいわ。私はあなたと居られれば幸せだもの。
迷彩柄のジャケットから、トマトソースの匂いが漂う。
――でもね、やっぱり私は、刺すべきだったと思うわ。
――そんなのは、卑怯だ。邪道だ。
――あらあら。だったら次も、過酷になりそうね。
――いいよ。俺があいつを好きなんだから。
迷彩柄の帽子を整え、走り出す。
ファミレスは遠ざかり、風が吹き抜ける。
「お母ちゃん、このエビ大きくて、うまくパスタと巻けないよ~」
「刺せばいいじゃない。フォークがあるのだから」
「何ぃ?エビパスタなんだから、一緒に巻いて食べたいよなあ?」
「うん、お父ちゃん」
今日もどこかのファミレスで、エビパスタを食べている人がいる。
――刺すな、苦戦しろ、美を追求するがいい!
――ええ、そうよ、その通りよ!
owari
ファミレスでの友人を見ていて思いつきました。
がしかし、駄作にも程が…。