表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“元”伝説の勇者様!!  作者: 暇神
第1章『元勇者の新たな門出』
7/19

第6話『始まりは、宣戦布告と共に』

 『天裂き翔る竜王神話(ドラゴン・ブラスト)』発射の反動よりもさらに大きな揺れが天空翔る偉大な竜王(シエル・バハムート)を突き抜け、慣性によって上から押し潰す様な重圧が襲い来る。


「うおっと――」


「あ、ありがとうございます」


 思わずよろけて転びそうになりつつもなんとか持ち堪え、隣で同じくよろけていたアリシアを支えてやる。しかしそれも、勇者としての身体能力があってこそだ。一般的な身体能力では、恐らく身動きする暇も無く床に叩き付けられていただろう。それ程までに強力で、突然な揺れと重圧だった。


「上から下に重圧が来たってことは、緊急上昇か」


≪はい、本艦の駆動方式から、下降よりも上昇が適切だと判断しました≫


「回避できたのなら上出来だ。しかし、フェアリスが1キロ近くまで接近に気付かないとは、一体どんな化け物艦船だよ……」


≪申し訳ありません……≫


「いや、フェアリスが気にする事は無いさ」


 フェアリスの常時索敵領域は、天空翔る偉大な竜王(シエル・バハムート)を中心に半径25キロの円状。その内でなら、全長1cmに満たない生物さえ感知できる探知性能を備えている。

 それが1.2キロの距離まで接近を許した。しかも相手は、生物どころか大型艦船ときたもんだ。一体どんなステルス性能を持っているのか、異常事態にも程がある。

 地上で臨戦態勢をとっているローブの集団といい、大型艦船といい、超が付く様な異常事態ばかりである。纏めるとこの辺は異常事態が溢れてて危険が危ない。


「とりあえずフェアリス。今の状況を報告してくれ」


≪畏まりました。右舷より接近してきていた大型艦船の回避には成功。船体にもダメージはありません。地上の集団は未だ臨戦態勢のまま動きなし。大型艦船は現在左舷下方にて静止中。ステルス状態は継続されており詳しい情報は不明ですが、こちらには気付いていないようです≫


「情報遮断ステルス航行、か……」


 『天空翔る偉大な竜王(シエル・バハムート)』も可能な航法だが、ぶっちゃけ非常にレアな航法である。

 ステルスになるだけならば割と簡単なのだが、情報遮断までするとなるとその難度は一気に跳ね上がる。科学と魔法は勿論、極東国家『礼節と風情の国(ジパング)』の陰陽術や宗教国家『信仰と賛歌の国(ユーティア)』の神術、聖教国家『聖帝と祝詞の国(カテドラル)』の法術や聖術、果ては生物の第六感まで。ありとあらゆる面で情報を遮断しなければならないため、現在の技術でも『情報遮断ステルス航行』を可能とする装置を造り出すのは難しい。

 俺が知る限り、情報遮断ステルス航行が可能な航空艦は世界に100隻程しか存在しない筈だ。




 そして今、その内の1隻が目の前にいる。




「こりゃあ、マジで異常事態だな。おうちに帰りたい……」


「我慢して下さい」


 思わず弱音を吐いたが、間髪入れずアリシアから窘められた。異常事態+異常事態=超異常事態で異常事態がゲシュタルト崩壊し始めていても、相変わらずのクールビューティーである。


「しかし、だ――どうするかね、下手に動いて中心に据えられたりしたら笑えん事態だ」


 現状ではどう見ても情報が少な過ぎる。大型艦船は何故ここにいるのか以前に所属さえ不明。地上の集団についても、臨戦態勢だという事以外目ぼしい情報は無い。


 やはり情報はあらゆる行動の土台――となると今すべき事は、


「フェアリス!!全武装解禁を宣言、出来る限り情報を集めてくれ!!アリシア、紅茶のおかわり、頭使うから甘めで頼む」


 情報収集と、その整理である。


≪畏まりました!!≫


「畏まりました」


≪――『照魔鏡』発動。本艦を中心として半径100キロの円状に空間把握を開始します≫


 『照魔鏡』。指定した範囲内のありとあらゆる情報を入手できる、情報収集用武装だ。『天空翔る偉大な竜王(シエル・バハムート)』はデフォルトの状態でも情報収集能力に優れているため、滅多に使われない武装だがその効果は折り紙つき。たとえ情報遮断ステルス航行を行っていようと、艦船の姿形程度なら容易く知る事が出来る。


≪――対象、左舷下方大型艦船――ッ!!3時方向より急速接近する大型艦船を確認!!距離90000……80000、衝突の危険性を確認。緊急上昇を行い衝突を回避します≫


「なんだと!?――えぇい次から次へとなんなんだマジで!!」


 いよいよ左舷下方で静止している大型艦船の情報が入手できるという矢先、また新たな大型艦船の出現ときた。照魔鏡のお陰で異常なまでの接近を許すという事は無かったが、異常事態がさらにややこしくなった事実に変わりは無い。ヤバいもうマジで帰りたい。


「3時方向より接近してくる大型艦船の所属や大きさは!?」


≪――分かりませんっ!情報遮断ステルス航行です!!≫


「お前もかよ!!」


 なんだこれ、異常事態と情報遮断ステルス航行のバーゲンセールか何かか。


「えぇっと――とりあえずは上方に回避後、照魔鏡で大至急2隻の情報を収集だ」


≪畏まりました!≫


 落ち着こう、クールダウンだクールダウン。焦っても良いことは無い。落ち着いて情報を収集、整理した後、行動に移す。良し手順確認OK。


≪――3時方向より急速接近して来ていた大型艦船の回避に成功。その後大型艦船は、本艦直下にて静止しています。同じく、先程から左舷下方にて静止中の大型艦船にも動きはありません。照魔鏡による情報収集を――えと、御主人様≫


「どうした?」


≪2隻とも情報遮断ステルス航行を解除しました。メインスクリーン2分割でそれぞれ映します≫


「なんなんだ、もう……」


 情報を収集しやすくなるのはありがたいが、弄ばれてるみたいで凄い疲れる……本当に家に帰りたい。いやあれは城か……


「どれどれ?――おい、マジか」


 程なくしてメインスクリーンに映し出された2隻の大型艦船。俺はそれを見て驚きの声を上げつつ、心中に生まれた嫌な予感に、無意識の内に顔をしかめた。

 鮮明な映像で映し出される2隻は、『白亜と天空の千年城(ゼーレシュベルツ城)』から滅多に出ない俺でも名ぐらいは知っている。まさに、大陸中に名を轟かす航空艦。


 全長10000mを越える艦船にのみ与えられる最高等級『グランドロード級』を冠する超大型航空艦。






「グランドロード級魔法戦艦『クラティア』に、グランドロード級航空都市艦『グランド・セリカ』……魔法と英知の国(グランセレナ)が誇る最強の魔法船に、『王立【グランフェリア魔法学院】』を艦上に擁する魔法機船、だと?――おいおい、本当に、何を始める気なんだよ!!」






 瞬間、俺は見た。


 その問いに答えるかのように、天空翔る偉大な竜王(シエル・バハムート)の直下、先程3時方向から急速接近してきた航空艦『グランド・セリカ』の艦砲に、莫大な魔力が収束して行くのを。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇




「――忠信様、情報遮断ステルス航行解除完了しました。艦砲発射のための魔力収束も開始しています」


「『クラティア』に動きはあったか?」


「否――情報遮断ステルス航行は解除されましたが、攻撃の兆候はまだありません」


「よし、神宮(かみや)、報告御苦労だった――だそうですよ、学院長。こちらでやれることはやりました。後はそちら次第です」


「十分ですよ、感謝します艦長。後はこちらにお任せ下さい」


「お任せしますが、しかし――本当に良いんですかな?」


「――えぇ、これは『グランフェリア魔法学院』及び『グランド・セリカ』の総意です。魔法学院の生徒を『技術と研究の国(ガルディア)』との戦争に動員するという『魔法と英知の国(グランセレナ)』の意向は、『グランフェリア魔法学院』学院長として、魔法協会会長として、そして何より子供を見守る大人として許せるものではありません。しかし今回『魔法と英知の国(グランセレナ)』は、生徒動員の申し出を拒否した私達に対し、『申し出を受けなければ課外実習中の生徒に対し、魔法戦艦による攻撃を行う』という、脅迫紛いの文面を送り付けた来た。そして事実、駆けつけてみれば我が校の生徒を狙う『グランドロード級魔法戦艦【クラティア】』の姿がある。幸い、連絡が間に合い臨戦態勢をとらせることで出来たので、クラティアの動きを一時的に遅らせ、その間に掛け付ける事が出来ました。しかし、もしも課外実習中の教師陣への連絡が遅れ、全員で一か所に固まって臨戦態勢をとらせることが出来なければ、既に攻撃されていたでしょう。これは完全に、我々に対する宣戦布告です」



 そこで彼女は一旦言葉を区切り、『クラティア』の姿を映すメインスクリーンへと目をやる。『グランド・セリカ』と同様、『クラティア』も情報遮断ステルス航行を自ら解除した。

 つまりは、今後起きることを理解しているのだろう。

 行動の土台たる情報を隠蔽できる情報遮断ステルス航行は、あらゆる場面において多大な恩恵を持つ。



 何故それを自ら解除するのか。そう、唯一つだけ存在するのだ、情報遮断ステルス航行解除に値する理由が。それは、どんな技術を用いても情報遮断が不可能になる時。『外界との干渉を断つ』という事象を成せなくなる時。つまりは、『外界へと自ら大規模な干渉を及ぼす時』。






 即ち――外部に対する攻撃、戦闘行動。






「シアス!!」


「Yes, My Lord.――術式展開、完了。周囲一帯への映像干渉術式及び、音声干渉術式展開完了。シャルル様の宣言を周囲一帯へ届ける準備、整いました」



 シアスと呼ばれた女性の返答に満足したように頷くと、学院長(シャルル)と呼ばれ名乗った女性は大きく息を吸い、告げる。



「聞きなさい!!私、『"私立"【グランフェリア魔法学院】』学院長兼魔法協会会長『シャルル・アイリス・スペルマスター』は、次代を担う若者を大人の都合による戦争に巻き込もうとするだけでなく、拒否されれば暴力的手段に走る『魔法と英知の国(グランセレナ)』への宣戦布告をここに告げると同時、課外実習中の我が校全生徒及び全教師に実習課題を出題します!!目標は『グランドロード級魔法戦艦【クラティア】の撃墜』!!達成報酬は課外実習の完了単位です!!」


 世界最強にして最高の魔法使いと謳われる彼女の宣言が、音声映像干渉術式により『クラティア』内部、地上にいる魔法学院の関係者(ローブの集団)、そして未だ気付かれずに傍観中の『天空翔る偉大な竜王(シエル・バハムート)』内部に届くと同時、『グランド・セリカ』と地上のローブ集団に収束していた魔力が解き放たれ、太陽さえ霞むほどの光の束が『クラティア』へと襲いかかった。






 『"元"伝説の勇者様』月夜見京夜の新たなる活躍、その幕開けが、今ここに――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ