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“元”伝説の勇者様!!  作者: 暇神
第1章『元勇者の新たな門出』
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第4話『従者秘儀と勇者のお話』

 『天裂き翔る竜王神話(ドラゴン・ブラスト)』の軌道を示すかのように木々がなぎ倒され、巨大な道の様相を呈する地表。半端ではないやり過ぎた感だ。しかし全天の樹海は木々の再生力も気持ち悪いほど強いので、どうせ1週間もすれば元に戻るだろうと見なかったことにする。俗に言う現実逃避。

 ということでそれは置いといて、『グランド・ワイバーン』がどうなったかだ。

 『天裂き翔る竜王神話(ドラゴン・ブラスト)』が持つ属性効果の一つ【光速】。

 文字通り攻撃速度が光速だという事を意味する効果であり、先程の攻撃も光速攻撃だ。いくら相手が飛行能力に優れた翼竜種だとしても、光速での攻撃を避けるなんて理論上不可能。つまりは直撃を受けただろうと予測できるのだが、


「スクリーンが全部ホワイトアウトしてて、見えなかったんだよな……」


 何分、見ていないので確証が無い。たとえ『グランド・ワイバーン』の姿が近くに見えなくとも、最後まで何が起こるかは分からないのが異世界だ。ということで、


「フェアリス、索敵頼むわ」


 何でもできる万能電子精霊、フェアリスに周囲の索敵を頼むことにする。ぶっちゃけ自分でも出来るが、面倒です。



≪――Yes,My master.本艦を中心として半径50キロの円状に索敵を開始――完了


 ――『グランド・ワイバーン』と同波長の生命反応、及び魔力反応はありません。撃墜に成功したと見てよろしいかと≫



「ふむ、了解だ。ありがとう」


 結果は反応無し。やはりグランド・ワイバーンは天裂き翔る竜王神話(ドラゴン・ブラスト)の直撃を受け、跡形も無く消し飛んだのだろう。あの巨体を一撃で消し飛ばすとか、主砲超こわい。創ったの俺だけれども。


「それじゃあ戦闘終了だな。フェアリス、通常航行状態に戻って良いぞ」



≪――Yes,My master.通常航行状態に移行します≫



 そのアナウンスと共に響くのは、柔らかな羽音。全速後進のため、宛ら空間を叩くように振るわれていた大翼が動きを緩め、ゆっくりと後進が止まる。そうして即時再開される前進。唸るようだった機関部や魔導炉の音も静まり、様々な戦闘用付与術式も解除され、通常通りの航行が再開された。


「いやー、疲れたなぁ」


「京夜様は終始叫んだりしてただけで何もしてませんけどね?ぶっちゃけ、傍から見たら痛い子です」


「ぐっ……痛い子とは、痛いところを衝いて来るなぁ」


「洒落ですか?驚くほどにつまらないですね。妻として色々恥ずかしいので止めて下さい」


「すいません……」


 わーおやばい辛辣すぎて泣きそう。無表情から繰り出される冷淡な言葉は、1000年以上一緒にいても慣れないものである。


≪――船体各部異常無し、進路を魔法と英知の国(グランセレナ)に再設定。通常航行を再開します。ふぅー……終わりましたぁ≫


「お疲れー」


「お疲れ様です、フェアリス」


≪はい、ありがとうございます――はふぅ≫


 先程までの凛々しい雰囲気は何処へやら、ぐてーっとして今にも溶けそうな雰囲気のフェアリスに労いの言葉を掛ける。

 魔法を行使しつつ超音速で飛行する機体を制御したり、繊細な操作が必要な主砲をぶっ放したりしたのだ、肉体が無い以外人間同様に創ったのだから当然疲れるだろう。そもそも、このクラスの魔法竜機船になると通常の操縦でさえ数十人単位で行うのが普通であり、それを1人で行うフェアリスは本当に凄い。超感謝。


「さてと、無事撃墜出来た訳だが、魔法と英知の国(グランセレナ)までは後どれぐらいかかる?」


≪えーっと……このまま通常航行状態を維持できれば、20分程で魔法と英知の国(グランセレナ)へ入れるかと≫


「ふむ……」


≪機関部をもっと回せばまだまだ速度を上げることもできますが、どうします?≫


「いや、今のままで良い。無駄な燃料は使いたくないしな」


≪畏まりました≫


「――京夜様、私はお茶を淹れてきます。紅茶、珈琲、緑茶、どれがよろしいでしょうか」


「うーん、紅茶で頼む」


「畏まりました」


 ……さて、フェアリスは操縦に集中し始めてしまったし、アリシアはお茶を淹れに厨房へと行った。つまり俺は今、暇人である。


「何をして暇潰すか……」


「京夜様、お茶が入りました」


「うっそはやっ!?」


 背後から確かに聞こえたアリシアの声に、勇者の規格外な身体能力を無駄に駆使して全力で振り向く。勢いよく振り向き過ぎて首からボキッとかいう音がしたがそんなんは些事だ。

 振り向いた先では、お盆にティーカップを二つ載せたアリシアが操縦室に入って来るところだった。ティーカップからは確かに湯気が立ち昇っており、紅茶の良い香りが漂って来る。


「おいおいマジ淹れたてじゃないか。一体どんな裏技を使ったんだ?」


「従者秘技の一つです。秘技ですからいくら京夜様相手でも当然秘密です。ちなみに全部で120兆4523億1230万8475式まであります」


「多過ぎるだろ……」


「嘘です」


「分かってるわっ!!」


「?」


「いや首を傾げるなよ……」


 まさかのネタ投げっぱなしである。


「?」


「いや、なんかもう、俺が悪かった。うん。とりあえず紅茶くれ」


 無表情で首を傾げるアリシアから紅茶を受け取り、少し冷ましてから一口飲む。


「はい、とっても美味いです。ありがとう御座います」


「いえ、この程度は当然のことです」


 軽く頭を下げて返答するアリシアは相変わらず無表情……だけど、喜んでいるのは雰囲気で分かる。


「うめぇ……あー、ところで、フェアリス」


≪ふぁい!?なんでしょうか御主人しゃま!!――あぅ、噛んだ……≫


 唐突に話しかけたからかフェアリスが思いっ切り噛んだ。意思を機械と魔法によって音声にしているはずなのだが、一体どうやって噛んでいるんだろうか……創造者でも分からない辺りかなり危険な謎である。危険が危ない。


「えーっと、大体50年ぶりに会った訳だが――」


≪50年1カ月12日11時間23分07秒ぶりですね!!≫


「うん、だから大体50年ぶりに――」


≪はい!!50年1カ月12日11時間23分07秒ぶりです!!≫


「50年1カ月12日11時間23分07秒ぶりに会った訳だが――」


≪はい!!≫


 ……何故『50年1カ月12日11時間23分07秒ぶり』にそこまで拘るのか、創造者でも分からない辺りかなり危険な謎である。危険が危ない。だが、ぶっちゃけ適当なことを言ったので別に危険ではない。危険じゃねぇのかよ。


≪何か今、物凄く御主人様が虚しく見えました≫


「奇遇ですね、私もです」


 俺の従者達超鋭い。まさか心の中の一人突っ込みを悟られるとは……


「いやまぁ、それは置いといて。どうだ?俺のこととかしっかり覚えてるか?忘れてないか?」


≪――!!何を言ってるんですか!!勿論覚えてますよ!!御主人様は1000年以上前にこの世界に召喚された元勇者様で、身長171cm体重55キロ、身体年齢は固有能力(スキル)、『不滅の大勇者(スペリオール)』により勇者として召喚された18歳の時から永遠に停止していて、見ての通り黒髪黒目の美少年!!黒色が好きで服は黒一色、髪や目と合わさって全身黒ずくめ!!『賢者』や『天上剣聖』、『真理に至る者トゥルース・アライバル』を始めとした数々の称号を持ち、『不滅の大勇者(スペリオール)』や『想像し創造する造物主(デウス・クレアトール)』などの固有能力(スキル)も数多く所有している超凄い人!!好きな食べ物は『アリシア様の料理全般』!!趣味は読書、散歩など!!子供は読んじゃダメなイケナイ本を隠してある場所は私室にある本棚の――≫


「ストップ!!ストップだ!!もういい!!覚えてるのは分かったから止めてくれ!!」


 勢いよく喋り出したかと思ったらすげぇ色んな情報を喋り、誰にも見つかって無いはずの本の隠し場所まで喋ろうとしやがった。あそこには多種多様な隠蔽魔法を掛けてある上に、フェアリスは生まれてからずっと天空翔る偉大な竜王(シエル・バハムート)の中だ。それなのに、一体どうやって見つけたのだろう……創造者でも分からない辺りかなり危険な――以下略。


「全く……美少年とかも嘘情報過ぎるぞ。というか、エロ本の隠し場所なんてアリシアにも見つかって無い、は……ず――あの、アリシアさん、その刀は一体何でしょうか?」


 ふと向けた視線の先、お盆を胸に抱いて控えていたはずのアリシアが、いつの間にやらその手に抜き身の刀を持ってこちらへ近づいて来ていた。何やら体が左右にゆらゆらしてる辺り非常にヤバい。幽鬼みたいだ危険が危ない。


「何を言っているのですか?昔、京夜様が私にプレゼントしてくれたものでは無いですか。≪桜月夜≫ですよ。『神刀≪桜月夜≫』」


「いやいや、刀の銘を聞いているのではなく、てぇ――!?ちょ!?刺さる刺さる!!切っ先こっちに向けたまま突進して来ないで!!いやー!!刺さってる!!刺さってるから!!浅くだけど額に!!確実に額に刺さってるから!!」


「刺さっているのではありません。刺してるんです。ぐりぐり」


「血がぁ!!血が出てる!!紅茶が血の味にッ!?」


「血の味の紅茶を飲むとか、吸血姫である私でも引きます」


「飲まねぇよ!!」


 迫る刀を見て反射的に防護障壁を張ったのだが、いとも容易く破られ額に刀がぶっ刺さった。即席とはいえ幾重にも【防御】や【拒絶】の属性効果を織り込んだのだが、アリシアと桜月夜相手には無意味だったか……


「と、とりあえずアリシア、そろそろ痛過ぎてガチ泣きしちゃいそうだから止めてくれ」


「でしたら、そっち系の本は全て焼き払うと約束できますか?」


「え、いや――」






「――や・く・そ・く・で・き・ま・す・か?」






「Sir Yes sir!!」


「ふむ……なら今回は許しましょう」


 その言葉と共に桜月夜が額から引き抜かれ、傷が跡形も無く消え去る。いくら掠り傷とはいえ痛かったので、『不滅の大勇者(スペリオール)』の絶対治癒能力様様だ。


「ふぅ、助かった」


 『固有能力(スキル)』により基本何があろうと死なない俺だが、痛いのは大嫌いである。もし今のがアリシアじゃ無くその辺の野郎なら、問答無用で殴り飛ばしていた。


「あ、一つ忘れておりました」


「はいなんでしょうか!!」


 気を抜いたところで振り返ったアリシアに、俺は全身を硬直させつつ直立不動で返事を返す。情けない限りだが、本能的にそうなってしまうので仕方無しだ。


「京夜様、貴方は美少年――とってもカッコいいですよ?ちゃんと自覚を持って下さい。貴方に自覚が無いせいで私が振り向いてもらうのにどれだけ苦労したか……それと、寄って来る悪い女には靡かないようにして下さいね。良いですか?」


「い、いえっさー!!」


 ……デレデレ超高評価頂きました!!何これ凄い恥ずかしい嬉しくて泣きそう






≪――あう……なんか私仲間外れです?≫

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