プロローグ『伝説の勇者様』
昔々、それはもう今から1000年以上も前の話し。世界は、1人の魔王に支配されようとしていたそうな。当時最強の軍事力を誇っていた帝国が軍を送ろうと、腕利きの冒険者がパーティーを組んで挑もうと、誰一人として、魔王の住まう城まで辿りつくことさえ出来なかったそうだ。
やがて、魔王の侵攻はどんどん強まり、世界が絶望に包まれて行く。
そんな時だ、世界最大の宗教国家≪信仰と賛歌の国≫が、異世界からの勇者召喚に成功したのは。
そこから始まったのさ、魔族に対抗する者達の快進撃が。勇者様は、異世界からいきなり召喚されたにも関わらず、この世界のために戦って下さった。その絶大な力を振るい、魔物を倒し、世界を浄化して行ったんだ。
そうして遂に、勇者様とその仲間達によって魔王は討伐され、世界には平和がもたらされた。
――≪月夜見京夜≫――それが、我らが偉大なる勇者様の名だよ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「月夜見京夜様ー?月夜見様ー?京夜様ー?月夜見ー?京夜ー?つっきー?」
「なんだ図書館でうるさくするな呼び方ぐらい統一しろつっきー言うな!!」
持っていた禁術魔導書を本棚にぶち込み、遠くから響く声に思い付く限りの突っ込みを実行する。
見渡す限り続くのは、本棚という名のそそり立つ絶壁。至る所で声が乱反射し、到底音源を判別できる状態とは思えないが、あいつなら間違いなく此処を見つけ出すだろう。
俺の名前は≪月夜見京夜≫、千年前に世界を救った元勇者で、此処≪白亜と天空の千年城≫の、城主をやったりしている"人間"だ。
「――あぁ、ここにいたんですか京夜様。凄く探しました褒めて下さい」
「嘘をつくな嘘を、気配なり魔力なり探れば一発だろうに」
と、予想した通りこちらを見つけ出し、本棚の影からひょっこり顔を出したのは、1人の女性。
腰まで伸ばされた絹糸の様な銀髪に、こちらを見つめる碧眼は澄み渡る宝石の様、スラリとした線を描く体躯に、女神の様に整った顔立ち。まさに目を疑う様な絶世の美女。
彼女こそ、先程俺の事を呼びまくっていた女性、名を『アリシア・オーヴァーロード』。
千年前、魔王討伐の途上に出会った女性で、それ以来ずっと一緒にいるパートナー。
俺の従者であり秘書であり相棒、そしてなによりも、愛する妻であるとても大切な女性だ。
そんな彼女、実は俺とは違い人間では無く、"吸血姫"と呼ばれる1人1種族の伝説的存在である。世界最強の一角と謳われるその力に、過去何度も助けられた。
長所や美点ばかりの彼女だが、あえて欠点を上げるとするならば、性格が結構冷淡。本気で怒らせると、国1つ消し去る様な攻撃魔法を平然とぶっ放して来るから、注意が必要だ。
「何か失礼なこと考えてません?」
「考えてない」
流石勘も鋭い。
「それで?何の用だ」
とりあえず早急に話題を逸らそう。何か用があったから俺の事を探していたのだろうし、このままでは、俺の精神的HPがマッハで吹き飛ぶ。
「少し腑に落ちませんが、まぁ良いでしょう。つい先ほど、手紙が届きました」
「手紙?」
「手紙です手紙です」
「なんで2回言ったのか知らんが、手紙なんて珍しい」
微かに首を傾げつつ、最後に手紙が来た時の事を思い出す。
この城は、世界でも危険度ベスト100に入る危険地帯≪全天の樹海≫と呼ばれる樹海の奥の奥に建っている。まさに陸の孤島状態だ。
そう簡単に手紙を届けられる場所では無いし、手紙を出そうと思う場所でも無い。
力のない常人でも手紙を届けられるよう、俺が作成した抜け道もあるが、それを知るのは数少ない知り合いだけだ。
「うーん、最後に手紙が来たのは、10年位前だったか……というか、俺宛てか?」
「間違いでこんな所に手紙が来る訳無いでしょう。馬鹿ですか」
「ちげぇよ!!俺宛てなのかお前宛てなのかの2択だよ!!」
「あぁ成程。京夜様と私宛てです」
「俺ら夫婦宛てか。かしてみろ」
「こちらに」
差し出された豪奢な封筒を受け取り、差出人と受取人を確認する。
差出人は――≪魔法と英知の国≫。千年前、≪信仰と賛歌の国≫に召喚されたばかりで、戦闘技能を持たない俺に魔法を教えてくれた≪王立【グランフェリア魔法学院】≫がある世界最大の魔法国家だ。
受取人は――確かに俺とアリシアになっている。
「ペーパーナイフあるか?」
「勿論で御座います」
用意されていた白金製ペーパーナイフを受け取り、十数年ぶりの手紙を開封する。
取り出した便箋、封筒と同じく、ゴテゴテと無駄に装飾が施された、豪奢なそれに書かれていたのは――
「えーと?――――突然のお便り、失礼します。近頃、我が国一の魔法学院≪王立【グランフェリア魔法学院】≫の学力低下が著しいのです。もし良ければ、臨時講師を引き受けてはくれないでしょうか。詳しい話は我が国の王城≪紺碧と栄華の百年城≫でいたしますので、もしこの話を受けて下さるのでしたら≪紺碧と栄華の百年城≫までお越しください。無理にとは申しませんが、どうかよろしくお願いいたします――――……え?先生?俺が?」
「キャー京夜せんせー」
「アリシア、止めてくれ恥ずかしい」
「ですね、吐き気を催しました」
「それは言い過ぎだ!!」
そんなこんなで、手紙の内容は完全に予想外だった。まぁ、予想外も何も予想自体していなかった訳だが。
しかし先生か、さてさて、どうしましょうかね……