妖精湯治 その1
何故か書いてるうちに妖怪もの、いや猿蟹ものになってきました。ほんにに困ったものです。
「妖精湯治」その1
4月の一件以降、どうも疲れがたまっている気もするし、道の駅の店長?さんの、お詫びという名のお勧めもあって、6月の終盤、我が地の道の駅主催の温泉旅行に参加することになった。2泊3日の日程の団体旅行、行くは関東の有名どころ、鬼怒川温泉だ。はじめ、関東の温泉どころと聞いて、
ミイナ「ねえ、別府?別府だよね。」
シイナ「失礼よ、ミイナ。草津に決まってっるでしょう。」
とか、妖精どもは騒いでいたが、シイナ、お前のツッコミは悪くない。だが、ミイナよ、お前は失礼どころじゃないぞ。そもそも大陸が違う。お前の言うそこは修羅の国で、パイナップル(手榴弾)が公園に生えている土地だ。それに僕は草津も好きだけど鬼怒川も素晴らしいと思う。昔は会津・田島を経由して関東地方に行くときに、車で結構通ったものだ。日光近いしね。特に今回は2日目が東照宮参りだ。湯葉が楽しみだ。牛も旨いぞ。
その妖精どもは、僕の旅行鞄をセルフで改造して居住性を増した上でついてきている。まあ鞄が使えなくとも野郎一人分の着替えなら何とでもなるし、旅行代金はロハ、お土産は・・・畑のメンバーに、そういえば頼まれたなぁ。あんなもの何に使うんだ、という気もするけど、寅さんをはじめみんなには結構世話になってるからなあ。夜の内に買える物は買って、荷物にならないよう宅配便で送っておこう。
草津温泉の売りは強酸泉で入るとピリッとした肌触りで湯冷めもしにくい。でも妖精たちには・・・溶けちまわないか?入ったら。通常のpH値の管轄外な気もするが、そういう意味では鬼怒川で良かったのかな。アルカリ泉の方が危ないかもだけど。誰に聞くわけにもいかないけれど。地元に何かいないかな?妖怪なら同類が良そうな気も・・・。そんな僕の予想の斜め上を行く出会いがあろとは、この時はまだ思いもしなかったのだが。いや、当然の帰結だろうか。
とりあえず、ほぼ主賓といった感じのバス車内で、二人席を一人で使わせてもらっているおかげで注目は浴びてもゆったりと旅を楽しめている。鞄の中の妖精どもは、他人には見えない気楽さからか、あちらこちら飛び回って他のお客さんのお菓子類をかすめ取るのに夢中だ。それでも不審に思われないくらいの量を盗って食べてるあたり、手慣れてるというか浅ましいというか。夕食の時は気を付けないとな。放っておくと僕の食べる分が無くなるかもしれない。
さて、地元のインターから東北道に乗って、郡山のジャンクションから磐越道、猪苗代で降りて一路猪苗代湖畔の有名道の駅へ。今回の旅行の目的の一つだ。規模・大、生産物・多数、生産者・大勢。うちとは比ぶべくも無い。品質・・・いいよなあ。手工業生産物も赤べこをはじめ、枚挙にいとまがない。そういえば、お土産として牛さんに頼まれてたっけな。自分の分身だからって。どっちかというと牛さんて善光寺系だと思うのだけど。いつも引いてくれるし。まずは頑丈そうなのを購入しておいて、バスの中に入れておこう。
それはともかく、取扱商品のあまりの至れり尽くされぶりに、我らが町の道の駅勢はみんな半分気落ちしたまま施設を後にしたのだった。次に向かうはより山中にある、道の駅田島。今の流れを変えることは出来るのか・・・皆さんの表情を見る限り、期待、薄そうだなぁ。と、思ったら皆さん、地酒を買ってもう飲んでるメンバーもいるし。何か妖精たちも今は大人しい・・・これ、何を喰らってやがる?他所様の買ったものをかすめ取るんじゃない。アイスぐらいは買ってやるから、目立たんように喰ってくれ。
その後、会津観光は見送って(というか、うちの地元の人間なら修学旅行なんかで一度は行ってる)さらに南下。下郷町に入り、大内宿を目指すでもなく田島市の道の駅田島へ。そこで僕は更に自信を失って(いやね、うちの野菜は美味しいよ、確かに。でもその道のプロが育てた野菜と較べると、ね)しまった。でもここ凄いや。懐かしいガチャがある。ドラ〇ンボールℤなんて懐かしい。一回(いや、複数回)やっておこう。え~と、・・・上着のポケットに入れといて、さあ、気を取り直して。
昼食を、うちの道の駅関係者の知人だという蕎麦屋さんで頂いて、そこ経由で日光街道へ。ちょっとした湖を渡る頃になると、車内ではカラオケの時間が始まった。「ではまず最初に、先日ののど自慢大会で歌っていただいた審査員の方に、同じ「夢〇居」、歌っていただきましょう。ヨロシクお願いします。唐突にマイクが回ってきたけど、こういう事態は想定済み。というより妖精どものたっての希望でバスに持ち込んだ一品がある。スマホを出して操作を行い、すでに録音済みの音声を流す。
ミイナリ〇「みなさん、先日はごめんなさい。」
シイナレ〇「おのおのがた、おまたせしたのう。」
妖精ども「それでは先日お聞かせできなかった、『恋のバカンス』を歌います。聞いてくださいね!」
のど自慢大会の時は自らの声で歌ってはいたけれど、よほどあの場で、用意した音声で披露できなかったことが悔しかった。あの時道の駅から帰った日の内に、二人はこの音源を作成していたのだ。僕が寝ているその横で。曲紹介まで含めて。だから僕も妖精たちの意を汲んで、その音源を流すことのしたのだ。妖精たちの生の声は、姿もそうだけど、機械を通しても、妖精の見えない人には見えない・聞こえない。だからこれは、文字通り苦肉の策なのだ。でもひとたび歌が始まると、ミイナシイナ押しが多い乗客たちは驚くほど盛り上がった。途中からは大合唱。これなら僕はいらないな。
それからしばらくは、盛り上がる老人たちの歌に手拍子したりはやしたりして、自分の歌の番をうっちゃって過ごした。イいや~このテンションの中で歌えるほど僕の肝はすわっていない。ホントだよ。ともかく1時間もすると軽く?酒も入ってうつらうつらする方もちらほら。妖精どもも長旅に疲れたのか最前からずっと大人しく・・・しく・・・してはいないな。まあ何をやっても見えないから良いけど、バスの運転手に絡むかのようにフロントガラスのあたりを飛び回っている。僕からすれば、あんな蜂が飛んでいるような飛翔音に何故みんなが気が付かないのか解らない。不思議生物だからで片づけて良いのだろうか。まあ姿が見えるとヤバい事になる疑念もあるから、問題にしてもヤバかろうが。あいつらもそれなりに気を遣っているかもだし。あ、戻ってきた。周りは・・・ほぼ眠っているな。小声で話そう。
ミイナ「ねぇねぇ、もうすぐ着くってさ。」
シイナ「土地勘がある方が教えてくれたのよ。」
ん、運転手さんの独り言かな?特に妖しい関係者は乗り合わせていないようだし。
ミイナ「何か今日は疲れたから、お風呂は明日にして眠るって言ってたよ。」
シイナ「そうね、明日が本番だし。」
どうやらそうみたいだ。近場と言っても関東だもんな。僕としてはいわゆる土地神とか地元の妖怪とかが引き寄せられたりしないかが密かに心配だったんだけど。
ミイナ「ああ、うん、そこね。」
シイナ「知らないことは良い事よね、うん。」
何とも不安を煽るようなことをおっしゃる妖魔ども。そんなんでは美味しいご飯はお預けだぞ。何かあったりしたら。
ミイナ「ごはんっごはん。仕上げは隆々だよ。」
シイナ「そこは、細工は流々ネ。仕上げは御覧じろだけど。」
んん、何か言っているようだが、僕も疲れてるな。何にしてもおいしいご飯の為という事で、口を酸っぱくして問題行動をとらないよう注意してきた甲斐があったというモノだ。そんなこんなで僕らを〇乗せたバスは本日のお宿、鬼怒
川●●ホテルに到着したのであった。
・・・・・ 降車中 ・・・・・
我々一行がホテルの前でバスを降りると、品のよさそうな女将さんらしき女性が、大勢の仲居さんを引き連れ挨拶に来た。
品の良さそうな女将さん「どうも、遠い所、田舎からよくおこしになられました。」
おいおい、女将さん、そいつは京都の旅館の女将さんが、関東のお客さんにマウントをとる時の常套句ですよ。まあ、私らが田舎モンであることは紛れもない事実ではありますが。バスの乗客は・・・ほぼほぼ酔いつぶれている!?つーかみんなグダグダか、介抱に忙しそうで、誰も話なんか聞いていないな。良かったのか悪かったのか。おや、仲居さんたちの一部が、女将さんの頭をぶん殴って、陰に連れて行ったぞ。そのまま何事もなかったように・・・取り繕いもせず、普通に客の荷物を運び始めたぞ。もしかして日常茶飯事なのか?う~む、大丈夫か、このホテル。
妖精たちは・・・あれ、そばにいない。それはそれで不安だな。監督責任的な意味で。
先ほど女将さんを始末?した仲居さんたちに引き連れられ、我ら道の駅の一団は、格式高そうなホテル内に案内されたのであった。案内されたのはかなり良さげな部屋だったのだけど、ちゃぶ台の上にちゃっかり妖精どもがスタンバっていて、勝手にお茶を入れ、菓子をほおばっていた 。いつの間に。しかしまあ器用なものだ。よくこの部屋が判ったものな。
ミイナ「お部屋の前に、お名前が貼ってあったよ。」
シイナ「来るのが遅いのよ。もう頂いているからね。」
謎解きをしてくれるミイナと、我関せずのシイナ。うん、こうでなきゃ妖精どもではない。が、どこに行ってたんだ?
ミイナ「色々あるのよ。」
シイナ「あたしらにはあたしらでやることが多いんだから。挨拶回りとかね。妖精たるもの礼儀は欠かせないのよ。オミヤも渡してきたんだから。」
は?おみや?そういえば旅行鞄が少し軽くなっている。何入ってたっけ?
ミイナ「最近物騒だからね。」
シイナ「どうもおかしな事故や火事が起こってるようだから、情報収集やら露払いやらお願いする必要があったのよ。仲間たちはいないし、自分たちでヤルしかないのよ。感謝しなさい。」
いや、普通そんな心配は必要ない筈だよ災厄たちよ。お前らが呼んだのでは ないか?それ。とはいえ妖精どもが何か一仕事を終えて寛いでいる様子なのはわかる。僕も来て早々だけど、風呂でも行こうかな?
ミイナ「あ、今は垢嘗めさんたちが忙しそうだから、まずお茶でも飲んで寛ごうよ。」
シイナ「せっかちは嫌われるわよ。もう少し泰然とすることを覚えたら?」
ずいぶんな言われようだけど、まあ一理はある。ミイナがお茶を淹れてくれたし、ちょっと横になろうか。
ミイナが淹れてくれたお茶をすすると急に眠気が押し寄せ来た。あれ、何か覚えがあるぞ、こんな状況。それが何だったか思いつく間もなく、僕は眠りの中に堕ちていった。zzz・・・。
ぇ、どうでした?」
誰?「状況は良くないね。やはりお出ましいただかねば。」
ミイナ「やっぱりそうですか。あ、でも起きちゃいそうだよ、ダーリンが。」
誰⁇「うむ、ではひとときおいとましよう。かの方も準備が必要だろうしね。それでは。」
シイナ「はい。御足労頂き恐悦至極です。」
ふと、意識が軽くなる変な感覚。なんか緊張してたのかな。寝ぼけていてそれはないか。そして意識が覚醒していく感覚。ゆっくり目を開けると、目の前でミイナがティッシュのこよりで僕の鼻を擽っていた。
ミイナ「あ、起きた!」
シイナ「あんた、寝過ぎよ。もうそろそろ宴会の時間だって、さっき仲居さんが連絡しに来てくれたわ。」
ン・・・ああ、眠っていたのか?何か変な夢見てたような気もするけど。
ミイナ「ほらほら、起きたんなら、まずはお茶を飲んで目を醒ましなよ。お菓子はもう無いけどね。」
シイナ「起きるのが遅いのよ。ミイナが我慢できるわけ、無いでしょ。」
何いぃ。茶菓子が無いだと?結構楽しみにしてたのに。揚げ湯葉饅頭。ちゃぶ台の上には中身の消えた袋のゴミ。起き上がってとりあえず自分でお茶を淹れて一服。ふう、宴会前に温泉に入るつもりだったんだけどな。まだぼんやりする頭でつれづれ考えていると、ミイナが飛んできて楚々とした感じで言いやがった。
ミイナ「ねえ、食事にする?それとも、わ、・・・むぐぅ、何すんのぉ、酷いよ。」
シイナ「・・・ぷ、ぷぷぷっ・・・。」
皆まで言わせてたまるものか。これ、シイナ。笑う前に止めろや。まあ期待はこれっぽっちもしてないけど。そうこうしているうちに、仲居さんが食事の準備ができたとわざわざ呼びに来てくれた。場所は3階の宴会場「仏の魔」とのこと。エレベーターでどうぞ、とのことだけど、いや、「仏の魔」って。普通宴会場につけるか?その名。
エレベーター内では同じ道の駅のお客さんに捕まってしまい、おしゃべりの時間。いきおい話はミイナ・シイナの事に集中したけれど、地元(という事のしている)から、主にブログ等を通じて野菜販売関係の宣伝活動をしてもらっている親戚ということになっている。それで今日は参加していないんですよ、(事実を知ったらどう思うんだろう)、まだ学生さんだし、という二人と打ち合わせしておいたプロフィールを披露してお茶を濁しておいた。学生さんという言葉に皆さん反応している。一部の元お嬢さんは、まあ可愛くて良いわねと言いながら少々残念そうなのが気にかかった。おいおいアナタ方、何を期待してたんですか。お爺さん方は、そこ、歓声を上げない!趣味が知れるよ爺さん方。そんな事をしつつ「仏の間」に着くと、結構広い会場に舞台とカラオケセット、そしてお待ちかねの御馳走の数々。海の幸(ここ、山だよね)から、何と言ってもお肉、栃木和牛の陶板焼きやら生湯葉巻き、豚角煮まである。当然のようにイワナやヤマメの焼き物、これぞ山の醍醐味だなぁ。他にも天婦羅やらお刺身、煮物にお蕎麦もある。豪勢な事この上ない。
「仏の魔」の入り口の所では、いかにも楚々とした感じの女性が皆に挨拶をしている。が、僕は騙されない。服装も髪型も替わっているが、あの人は間違いなく先ほどの玄関先にいた女将さんだ。お目付け役か仲居さんが二人、両脇を固めている。
女将さん「本日は、当ホテルをご利用いただき、誠にありがとうございます、。女将のひろみと申します。」
うん、ここまでは心を入れ替えたかのように別人だ。そして、さあどう来る?ついつい身構えてしまうが、つまらない事に、乾杯の音頭の前に姿が見えなくなってしまった。まあそんな事に拘泥しててもダメか。今夜も別にやることはある。妖精どもはまだ満足していない。連れてきたからにはそれなりに気を遣ってやらなければ。鬱憤がたまって爆発されても困る。主に僕が。そんな僕の苦悩も知らぬげに妖精二人は出てきた食事に夢中になっている。僕の前にはのど自慢大会時のお詫びのつもりか、とても食べきれないような数の皿が並べられている。それに妖精どもはいぎたなく喰らいついている。しかし、僕が箸もつけていないのに減る料理は、他人からはどのように見えているのだろう。一度その辺についてシイナに聞いたことがあるのだけど、考えたら負けだよ、と言われてしまい、深く追及するのを止めてしまった。例えば、ミイナが尾頭付きも鯛の塩焼きを一尾、頭から喰らい尽くしても、シイナが骨付き肉に骨ごと喰らい付いていても、気にする必要は無いのだ、たぶん。誰も違和感を感じないのであれば。
しばらくは食べることに集中。ガツガツ。黙々と食べていると、地元の名物です、として追加の全まで運ばれてきた。僕は楽しみにしていた汲み上げ湯葉に舌鼓を打ちながらこれまでの、と言ってもたかだか半年ぐらいだけど、事を懐かしく思い出すのであった・・・懐かしい、何がぁ、どんどん怒りがこみあげてくる。僕は穏やかな生活が欲しかったんだぞ。このやろう。そんな風に感情が高ぶってきた時に、いきなり耳元でミイナの声が聞こえてきた。
ミイナ「ダメだョ。そんな風に気持ちを高ぶらせたら。」
シイナ「ミイナ、そろそろ限界なんじゃない?」
ミイナ「そんなことないよ。大丈夫、大丈夫。」
シイナ「もう、そんな風に甘やかすから。あ、でも、落ち着いてきたね。」
何か色々聞こえてきた気もするけど、僕はそのまま、お膳の前で眠りに落ちていたらしい。ふと気が付いた時には宴会も終わりかけていて、仲居さんが「飲み過ぎですよ。」と声をかけてくれていた。あれ、酒なんて飲んでなかったはずだけど・・・僕の前にはお銚子が何本も転がっている?あれ、いつの間に飲んだんだ?妖精どもはそばにいないようだ。仲居さんがお茶漬けと甘いものを持ってきてくれた。
仲居さん「これでも食べておちついてくださいね。」
うん、ん、あれ?この仲居さん、何かミイナに似ているような?僕の頭ははぼうっとしたまま冴えることは無く、その日の宴会もとい夕食は終了したのだった。
「仏の間」から仲居さんに連れられて、エレベーターに乗り、部屋に着くと布団が引かれていた。そのままぼやけた頭で眠りについたのだけれど、真夜中過ぎにふと目を覚ますと枕元でミイナが僕の顔をのぞき込んでいた。あ、電気点けっぱなしだった。。
ミイナ「おはよう、ア・ナ・タ。よく眠れた?」
「ん、今何時?まだ12時か。ん、あ、ごめんな、かまってやれなくて。」
ミイナ「ううん、ごはんいっぱい食べたし、後はお風呂に行くだけさ。」
んー、じゃあ、
「一緒に行くか?まだ風呂入って無かったし。」
するとミイナは急に顔を赤らめ、もじもじしはじめた。
ミイナ「アナタが望むなら・・・。」
その頭を指で軽くつついて、
「馬鹿な事言ってないで、行くぞ。確か24時間OKのはずだから、この時間ならあんまり人もいないだろうし。」
タオルと着替えを手に最上階の大浴場に向かう。照れ隠しのつもりはない。純粋に風呂が恋しいのだ。うん。
「そういえば、シイナいないのな。」
ミイナ「いろいろあるからねぇ。」
エレベーターで最上階へ。展望露天風呂はこのホテルの売りだ。それも24時間営業。宿泊客なら入り放題。本当なら着いて直ぐにでも入りたかったんだけど、そういえばさっきは寝ちまったんだよな。楽しみにしすぎるのも善し悪しって事か。そんで大浴場脱衣室で・・・あれ、仲居さんたちがいるけど。
仲居さんたち「あら、いらっしゃい。どうぞ私たちの事はお気になさらずに。」
いやいや、そういうわけにもいかないでしょう。ここ、この時間は・・・あれ、男女の別が無い⁉
仲居さんたち「ここ、そういう決まりなんですよ。さあ、さあ。」
不思議なくらい積極的な仲居さんたちの襲撃にひるんで、一時的に戦略的撤退でふろ場の外へ。大浴場の横には瀟洒なバーが。あれ、女将さんがいる。誰かと飲んでいるようだけど相手に何だか見覚えがあるような。
「なあ、ミイナ。」
あれ、ミイナがいない。あたりを探していると、今出てきたお風呂の中からミイナの怒った様な声が。
ミイナ「なに二人の時間を邪魔してくれちゃってるの?」
ん、誰に怒鳴っているんだろう。聞き耳を立てようとしていると、バーの奥の方からシイナがふらふら飛んできた。
シイナ「あれ、あんた今からお風呂?」
「お、シイナ。どこに行ってたんだよ。心配してたんだぞ。いやな、ミイナと風呂に来たんだが・・・。」
そこでシイナの目がきらりと光ったのが判った。これはヤバい。
シイナ「そうかそうか、さすが性年。好きだねぇ。」
あ、やっぱりこれはやばい。肉食獣の前に血の滴るエサを置いた気分だ。
シイナ「いやあそうか、あんたもあたしに隠れてミイナを美味しくいただこうと。ウグゥッ⁉」
ミイナ「シイナ、何してんのよ、私のダーリンに。」
シイナ「あれ、あっちは終わったの?ミイナ。」
ミイナ「鬼どもは制裁を加えといたよ。次はシイナの番かなぁ?」
シイナ「やん、許してよう。たまたまだよう。」
何か殺気立っているミイナと誤魔化そうと懸命なシイナ。あまり見たことがない構図だ。くすくすと笑っていると、それを察してかミイナが恥ずかしそうに語りかけてくる。
ミイナ「やん、笑わないでよ。あ、お風呂はもう大丈夫よ。みんな出ていったから。」
シイナ「珍しく怒っていたからね。鬼より怖いミイナさんっ。」
ミイナ「ちゃかさないの。シイナこそこんな時間まで、こんな所で。」
シイナ「それは言いっこなし。むぅ、せっかくだからみんなで入ろ。馬にけられたくはないけど。」
ともかく大浴場に戻ると、仲居さんたちの姿はなくなっていた。これでのんびりと風呂を楽しめそうだが、ニヤニヤするシイナと膨れているミイナを脱衣所に残し、僕は洗い場で体を洗い、浴槽につかった。うん、さすが良いお湯。疲れが吹っ飛ぶな。ぶくぶく・・・。
しばらく湯につかって脱衣所に戻ると、どこにいたのか浴場から妖精どもが飛んできた。
ミイナ「もう、そんなに早くあがらなくても。」
シイナ「ちゃんと肩までつかったの?早すぎるのは嫌われるわよ。」
何言ってるんだ、こいつらは。男たるもの、こう、すぱっとだな、それに先ほど気になるものを見た気がしてな。
大浴場を出てみると、バーのあたりで中を覗き込む出歯亀、もとい仲居さんの群れがいた。彼女らの視線の先を見ると、やっぱり女将さんと、あれ、あれはあのお方⁉
ミイナ「あちゃあ、見つかっちゃったか。ダメだよ、邪魔しちゃ。」
シイナ「んー。」
あれ、シイナが大人しい。気がつくと出歯亀の群れも消えている。それに女将さんの頭から生えているアレは角⁉、え、何、え。
僕は前を飛ぶミイナに引っ張られてエレベーターホールに着き、エレベーターに乗ってからやっと我に返った。まさか、あのお方が、というか、あの女将さん、つの、あったよな。なんで?その時ミイナがぽつりと呟いた。
ミイナ「あの女将さんは昔ね、京都にいたの。当時は鬼子母神と呼ばれてたっけ。源氏名は忍、だったようだけど。そこで飲み屋さんをしてた時、あの方と出会ったみたいよ。そんでいろいろあって改心して、あの方のツテでここ鬼怒川に来たの。ここの仲居さんたちは鬼怒川の鬼だけれど、彼らが興した旅館、ホテルで昔取った杵柄で接客業をね、してるんだって。」
ミイナにしては長口舌な話を僕は黙って聞いていた。というより気持ちが追い付いていない。何か僕よりシイナに言って聞かせているようにも感じて。うむ、僕も妖精の気持ちが解るようになってきてるのかな。なんて、そんな考え込むような事をミイナが喋るわけも無し。まあ、聞かなかったことにしておこう。
ふと気がつくとエレベーターは宿泊階で止まっており、降りると廊下の奥の方に仲居さんたちらしき気配が。何となく会釈をしているような気がして、僕も小さく顎を引いた。そのまま部屋に戻ると、先ほどまでの暗い雰囲気はどこへやら、ミイナもシイナも普段と変わらぬ様子で部屋中を飛び回っている。チキンレースなら止めとけよ、サッシが割れたらどうするんだ。明日(いや、今日か?)も早いんだぞ。とはいえ、小腹も空いたのでフロントに内線をかけ
ると、ちょっと驚いたようなフロントの夜勤のお姉さんが出て、ラーメンの注文を取ってくれた。二人分に箸3客というオーダーを疑問をさしはさむことなく通してくれるあたり、何かわかってるんだろうな、という気もするのだけれど、まあ今更か。でも鬼怒川ってやっぱりいるんだ。そのまま待っていると夜勤の仲居さんが部屋まで注文の品を届けてくれた。
僕はそれを受け取ると、何か聞いてみようかとも思ったけれど、それも悪いかと思っているうちに仲居さんは帰ってしまった。残念に思っていると
ミイナ「他者の事情には濫りに踏み込むものではないよ。」
と言われてしまった。ミイナのくせに生意気だとも思ったけれど、シイナの追撃がないあたりデリケートな問題・・・あ、何だ、シイナはもう麺を食ってやがる。こら、味噌は僕んだぞ。仕方なく醤油味の方を・・・て、ミイナ、お前はシイナの方を。
ミイナ「私もこっちを食べるぅ。」
シイナ「二人でそっち食べなよ。」
これで僕の食い扶持がなくなった。まあ予想できなかったのが失敗か。とりあえず、おや、地元のお菓子が補充されてる。朝6時には売店も開くし買ってなかったお土産も買おう。こりゃあまり寝てられないな。
こうして、この段階で寝不足決定の2日目が確定したのだけど、まさかあんな事態が起ころうとは、予想だにしていなかったのだった。
次の日に続く。。いったん終わり
書いてるうちに長くなりましたが、まだ足りません。この段階で終わりが見えないのも困りものです。一応2日目の前半までは書き終えていますが披露する場があるかどうか。




