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偏食家  作者: 池田圭


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二郎系ラーメン

 俺は今日、初めて失敗した。

 いや、もしかしたら、仕事で何らかのミスとかをやっていた可能性もあるが、これに比べたら、そんなものミスにならないと思えるほどの失敗を、俺はやらかした気がした。

 事が起きたのは、ほんの数十分前に遡る、仕事終わりの夜、腹が減った俺は、職場から歩いて30分ぐらいかかる、漢字2文字の店名のラーメン屋へと足を運んだ。

 このラーメン屋は、麺や野菜が、ドカ盛りサイズで有名なラーメン屋だった。

 所謂、二郎系ラーメンとかいうヤツだ。

 俺は仕事帰りの夜、たまに、こういった高カロリーのものを悪魔的に喰いたくなる。

 そして、今日がその時だった。

 店に入ると、ラーメンの良い匂いが漂い、俺の鼻を刺激させた。

 俺は店に入ってすぐの券売機に1000円を入れ、ラーメンの小(麺250グラム)のボタンを押し、券とお釣りを握りしめ、カウンター席に座っていた。

 店員さんに券を渡し、カウンター席に着くと俺は、二郎系ラーメン特有のオーダーを言う準備を整えていた。

 二郎系ラーメンを喰ったことがある人は、ご存知のことかもしれないが、二郎系ラーメンでは、店員さんに「ニンニク入れますか?」と聞かれる。この時、この店ではニンニクを入れる場合は「ニンニク」、入れない時は、「抜き」と答えなければならない。

 更に、この店員さんに聞かれたタイミングで、野菜の量、背脂の量、味の濃さも、カウンター越しに店員さんに伝えなくてはいけない。

 これが、二郎系ラーメンのオーダーと言うやつであり、これらの量が標準でいい場合、オーダーで何も言う必要が無いが、これらの量を多くしたい、少なくしたい場合は特定の言葉を言わなくてはならない。

 俺は、二郎系のオーダーが苦手であった為、ここの店でラーメンのオーダーを取られる時、いつも「ニンニク抜き」とだけ答えていた。

 しかし、ここ最近、野菜の量がもう少し多めでも喰えそうな感じがしていた為、今回、野菜の量を増やしてみようと考えていた。

 この店には、カウンター席の目の前に、オーダー表というものがあり、オーダー初心者でも分かりやすくしているサービスがあった。

 俺はそのオーダー票を見た。

 野菜の頼み方は、量が多い順に、少なめ、無言(標準)、野菜、野菜マシマシがあり、背脂の量は、無言(標準)、アブラ、アブラマシマシ、味の濃さは、無言(標準)、カラメ、カラカラで調整出来ると書かれており、その隣には、全マシ(オーダーで、「ニンニク、野菜、アブラ、カラメ」)サイズのラーメンの写真が載っていた。

 しかし、この時の俺は、ラーメンの写真が全マシマシの物だと勘違いしていた為、店員さんが「ニンニク入れますか?」と言った時に、「ニンニク抜き、野菜マシマシ」とオーダーしてしまった。

 この結果、俺は現在に至る。

 そのラーメンの野菜の量は、俺の想像の何倍かは多いモノであり、俺はその時、オーダー表を確認し、初めて自身の間違いに気づいた。

 そして、この野菜マシマシのオーダーをしたラーメンは、野菜の量、脅威の600グラム。俺が注文した麺の量の2倍以上のグラム数であり、麺と野菜の量を合計すると、850グラムに及ぶ。更に、このラーメンにはチャーシュも入っている為、このラーメンの総グラム数は、850グラムよりも多いことは確実である。

 この時の俺の心情を例えると、RPGで中ボスを倒しに洞窟に訪れたハズなのに、そこに居たのはラスボスだった、というような感じである。

 それだけの圧が、この野菜マシマシラーメンにはあったのである。

 しかし、頼んでしまったものを残す訳にはいかないので、俺はこのラーメンの野菜から食べることにした。

 食事を取る時、人は野菜から喰う方が良いと言われている。その理由は、先に野菜を食べることによって、胃の中に入った野菜がクッションの役割を果たし、肉や炭水化物等の消化を助けてくれる働きがあった、からだった気がする。

 そんな曖昧な知識を信じながら、俺は野菜を半分くらい喰った。

 しかし、ずっと野菜だけ喰うというのは、味気がなく飽きてしまう。正直、スープが染み込んでいる野菜から食べた方が味気があったのかもしれないが、俺はそこまで頭が回っていなかった。

 味に飽きてしまった俺は、満を持して、麺を啜った。

 やはり、二郎系ラーメンは悪魔的に美味い。それは文字通りの意味で、喰った時の美味しさは衝撃的であるが、後になればなる程、その美味しさを持った成分は、腹に重くのしかかって来るという意味である。

 俺は、全体の3分の2ぐらいを喰った辺りで、腹がもう一杯になっていた。

 俺はこの時、二郎系ラーメンの恐ろしさというものを、嫌というほど味わった気がした。

 しかし、俺はこのラーメンを残す訳にはいかなかった。

 それは、このラーメンを作ってくれた人に失礼ということもあるが、これを喰わなければ、このラーメンの食材達に失礼であると感じていたからである。

 俺たち人々は、普段、飯を喰うために様々な動植物の命を奪っている。そして、その動植物の命を元に料理を作り、それを喰っている。ならば、その動植物の命を元にした料理を残すというのは、その命達に申し訳なさが出てきてしまう。

 本当はもっと長く生きることができた命であった彼らを、勝手に残すというのは、明らかに、彼らにとっての侮辱にしかならない。

 例え、俺が偏食な所があり、喰えないものが多かったとしても、自分で頼んだものぐらいしっかりと喰ってやりたい。

 それこそが、彼らの命を奪ってしまった、俺たちの責任だと、俺は感じているからだ。

 そう思っていた俺は、自身の根性を振り絞り、ズルズル、ガブガブと麺や、野菜や、チャーシュを口に放り込んでいった。

 その結果、俺はラーメンを完食することに成功した。ただ、流石にラーメンのスープは、俺の腹に入ることはできなかったので、スープだけは残してしまった。

 俺は、ラーメンを喰い終わると、ラーメン屋を後にした。

 身長175センチ、体重51キロの俺がここまで頑張って喰ったのだから、誰かが褒めてくれても良いのでは無いかと、俺は思った。

 しかし、元々こんな事になったのは、無知な俺自身のせいであることは間違い無く、そんな俺を誰かが褒めることなど、ある筈が無いと、同時に感じた。

 こうして、腹がいっぱいで、気持ちが悪かった俺は、普段使わないタクシーに乗り、当分二郎系ラーメンは喰わなくていいと思いながら、家に帰るのであった。

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