牛丼
仕事帰りの寒い冬の日、俺は一人、バスの中にいた。
他の人からしても、自分からしても何の変哲もない風景で、そこには授業終わりの大学生や、近くの病院に行こうとしている爺ちゃんや婆ちゃんが、そのバスには乗っているのである。
まぁ、こういった光景というのは、人によって見え方は違うものであり、俺にとってそれは当たり前だが、他の人にとっては当たり前では無いのかもしれない。
そんなことを窓を眺めながら思っていた俺は、お腹が減っていた。
それはそうだ。仕事帰りで変な事に思考を費やしていたのだから、腹は減る。
俺は、バスのボタンを押し、お金を払い、バスを後にした。
このバス停の近く(歩いて10分くらいのところ)には、牛丼屋があったはずである。名前はなんて言ったか?3文字で最初が「す」から始まる店だったような気がしたが、いまいち思い出せない。どうにか思い出そうと頭を悩ませながら、歩いていたが、結局思い出せず店の看板を見て、俺はその牛丼屋の店名を思い出すのであった。
店内に入ると、その中には誰もいなかった。それもそのはず、俺が入ってきたのは、15時20分というなんとも微妙な時間である。この時間に牛丼喰う人は滅多にいないだろう。
そんな事を考えていると、俺は店員さんに席に案内された。
席はカウンターで、テーブルの上にはタブレットが置かれている。
最近、よく見るようになったこのタブレットは、注文をタッチで送ることが出来て便利ではあるのだが、俺は紙のメニューを見て、店員さんをボタンで呼んで、注文を言うという方法の方が趣きがあるなどと思っていた。その為、普段行きつけであるこの店も、タブレットを導入したのを見ると、どこか悲しくなるのであった。
そんなことを考えながら、タブレットを見て、俺はメニューを選んでいた。俺が選んだのは、牛丼並盛。これが400円ぐらいで食べられるのだから、嬉しいものだ。
そして、俺にはこの牛丼のこだわりの食べ方がある。といっても大したことではない。メニューのこだわり設定というところをタッチ。そこには、つゆだくとねぎだくという表記があった。
つゆだくとは、牛丼の汁を通常より多めに入れてくれるサービスで、ねぎたくとは、牛丼の玉ねぎを通常より多めに入れてくれるサービスである。
このつゆだくというサービスは、ほかのチェーン点の牛丼屋でも見かけるモノだが、このねぎだくは、ほかのチェーン店ではあまり見ない。仮に、見かけたとしてもねぎたくにすると、別料金がかかる。しかし、この店ではそのねぎだくを無料でしてくれるのである。なんと有難いことなのだろうか。
しかし、そんなねぎだくにも弱点がある。俺はタブレットで牛丼を頼んで、ほんの数秒で出てきた牛丼を見て、その弱点を微かに実感した。
その弱点というのは、ねぎを多く入れる代わりに、肉の量が少なくなることである。昔、この牛丼屋でバイトをしていた俺は、牛丼の盛り方を教わっていたのだが、ねぎたくをお客様が注文した場合、ねぎを多くする代わりに、肉を少なめに盛るように先輩に指示されたことがある。その為、俺は学生の時からその弱点を知っていた。
しかし、俺はそんな弱点に興味は無い。牛丼に大事なのは、量では無い。コスパの良さと美味しさだ。そして、ねぎたくにした方が格段に美味い。これは偏食である、自身の勝手な好みである為、他の人たちがどう思っているかは知らないが、このねぎのシャキシャキ感というのは、多くあった方がいい。このシャキシャキが牛丼の魅力なのだ。肉を引き立たせたいのなら、まず野菜だ。野菜が多い程、肉の美味しさは際立つ。本当の肉好きは、野菜をよく喰うのである。
そんなことを思いながら、私は並盛の牛丼をガブガブ食べた。至福の時間だった。
そんな時、タブレットをちらっと見る。私は驚愕した。なんと、ここの牛丼屋は10時から深夜料金となり、5パーセント、すべての商品が値上がりするらしいのだ。
昔は、深夜料金とかが無かった為、俺はその驚きを隠せなかった。恐るべし物価高。
そうこうしているうちに、俺は牛丼を食べ終わった。久々の牛丼は私の中では、少し懐かしく程良い味わいだった。また、腹が減ったら食べに来ようと思った。
牛丼を喰い終わり、俺は料金を払い店を出た。ここから家までの距離は、歩いておよそ1時間は掛かるだろう。
けれど、食後の運動は少しはした方が良いだろう。そう思いながら、私は家まで帰るのであった。




