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93.まさかの本物



「困りましたね」

「困ったな」

「…困ったね」


どうやら雪崩が起きたらしく、想定以上の雪が積もっている。

膝くらいまでなら魔道具で何とかできるらしいが、身長ほどの雪となると前には進めないらしい。


え、どうすんのこれ。


「まぁ引き返すしかないですね」

「別の道があるのか?」

「はい、ここより短いのが。ただちょっと危険な道ではあるんですよね…」


ということでその道まで来たのだが…。

なるほど、ここまで道が細いと確かに危険だな。

魔物と鉢合わせたら避けようもないし、向かいから別の馬車が来たりしたら詰むし、そもそも崖に落ちたら下が雪とはいえヤバそう。


「じゃあ落ちたらさようならということで…」

「リコリスは後ろ行くぞ」

「えー」

「えーじゃないぞ。前ではしゃいで落ちそうなんだよ」


ということで荷台に回り、落ちないことを祈る。


「よくこんな道知ってたな」

「基本的に安全な道と早く行ける道の2つは覚えていますので。こっちは早く行けるけど危険すぎるという欠点がありますが…」


まぁそうだよな。

だって俺今後悔してるもん。


「魔物いるからちょっと行ってくる」

「ほんとですか?気をつけてくださいね」


ということで見に来たけど…こりゃまたダルい魔物だな。


トーロイ

HP:537 MP:72 攻撃力:311 防御力:1203 素早さ:22


亀の魔物みたいなんだけど…なんでこんな雪山にいるんだよ。

てか防御力高いなおい。

そんで足バカ遅いな。

…敵対しては居なさそうだし、なんなら寒さで動けなさそうなんだよな。

何してんねんこいつ。

一旦戻るか。


「トーロイですか?なんでこんな場所に…今の時期は冬眠してるはずなんですけどね」

「とりあえず道が塞がれてるって感じ。引き返すか?」

「実はこの道、欠点がもうひとつあるんです」

「と言うと?」

「Uターンができない」


進むしかないのかよ。

とりあえず進んでいくと先程のトーロイがいる。

よく見れば甲羅に雪が積もってるし可哀想に見えてきた。


「どうする?」

「まぁ簡単なのは崖から落とすことですね」

「重くないのか?」

「しっかりやれば落とせると思いますよ」


なんだっけ、支点力点作用点だっけ。

まぁ確かに利用すれば行けるが…。


「可哀想じゃないか?」

「まぁたしかに可哀想ですね…本来トーロイは害が少ない魔物ですし…」


かなり悩んでいると荷台からリコリスがトコトコ歩いてくる。

馬車の揺れで寝ていてそれが止まったから起きちゃったらしい。

揺り籠かな?


「どうしたんだ?お腹すいたのか?」

「…子供だと思ってる?」

「子供ではあるだろ。…っておい、あんまり近づくなよ。大人しいとはいえ魔物ではあるんだから」


そう注意するがリコリスはどんどんトーロイに近づいていく。

さすがに危険だと思いそばにいるが、剣を抜けば危険に思ったトーロイが暴れるかもしれない。

なのですぐに剣が抜けるように待機する。


「■■■■」


あの時の言葉をリコリスが放つ。

あの魔物…元人間が発していた言葉だ。

それを聞いたトーロイはゆっくりと顔を上げ、リコリスの方をじっと見る。


俺にはよくわからなかったが、しばらく何かを話していたらしい。

待っているとリコリスがこっちに戻ってくる。


「…追い出されちゃったって、居場所。だから頑張ったけど、疲れたって」

「…話せるんですか?魔物と」


やべっ、そういえばリコリスが魔族だってビーネスは知らないんだった。

てかあんまり言わない方がいいから言わなかったんだが…。

これなら伝えた方がいい気もする。

一旦誤魔化すけど。


「そういうスキルがあるんだ。と言っても言葉が通じるだけで大体は理性のない獣だろ?あんまり使い勝手のいいスキルじゃないんだ」

「そう、なんですか…」


ダメだめっちゃ早口で言っちゃった。

俺のコミュ障陰キャがここに来て足を引っ張るとは。


「まぁ…それは一旦置いときましょう」


助かった。


てことで状況整理。


1、この魔物はこちらに敵対する意思はない。

2、ここにいるのは冬眠してたらなんか起こされて追い出されたから。

3、もう疲れて動けない。


この3つだな。

となると崖から落として…ってのはさすがに可哀想すぎる。

とはいえ…。


「トーロイってどんくらい重いんだ?」

「そうですね…馬車より重いのは確実ですね。多分馬に引っ張らせるのも難しいくらいには重いです」


車輪もないしまぁそれは無理だろうな。

運んであげるのは不可能だ。

さて、どうするか。


「…落とす?」

「可哀想だろうから、それはやらないから安心してくれ。あとは大人に任せてリコリスは荷台で待っててくれ」

「…わかった 」


そんな感じで見栄を張ってしまったが、なんも思いつかない。

いや、あれが行けるんじゃないか?


「ビーネス、こいつを乗せれる板と真っ直ぐで丸いしっかりした木材ってないか?」

「ありませんね」

「ないかぁ」


昔の運び方をしようとしたけどダメそうだな。

ちなみに馬車に乗せるのも無理らしい。

重さで床が抜けてしまうとの事。

となるとどうしようもないな。


「そういえば、トーロイは魔力を消費して高速移動するスキルを持ってるはずです。まぁそもそも魔力が少ないのであれなのですが…」

「俺の持ってる魔力を渡しても無理か?」

「絶対無理ですね」


悲しくなるからやめてくれ。

そりゃ少ないけども。


まぁ魔力があればいいんだな。


「魔力を作る魔道具とかないのか?」

「あるにはありますが…試作品かつ効率がものすごく悪いですね。丸1日魔力を作ってようやくユージさんレベルの量なので」


使えなさすぎて草。

え、マジでどうしよう。


「…あるよ、魔力」

「うおっ、戻ってなかったのか」

「…はい、これ」

「これって…」


この前イリスとリコリスにあげたアクセサリーだ。

…え、これが何に使えるの?


「!こんな高価なものを持ってるんですか!?ちょ、見せてください!」


すごい勢いだな。

リコリスがビビってるぞ。


「前に俺が買ってあげたやつだな…これがどうしたんだ?」

「知らないんですか!?これは魔力を貯めて保存出来るめちゃくちゃ凄い魔道具なんですよ!?まさかこんなところで見れるとは…」


あ、偽物じゃなかったんだ。

…だったらあの婆さん何者だよ。

本物を偽物と勘違いしてたのかな。

だからイリスはあの反応だったのか。


「しかもめちゃくちゃ魔力が込められてますし…これなら…」


ということで魔力を渡すことで何とか動いてもらうことができた。

トーロイはリコリスとなにか話したあと、こっちを一瞬見て飛んで行ってしまった。

…え、飛べるの?

回転の勢いとか?

すごいな…って思ったけど、魔力が必要なのはちょっとあれか。


「これで進めるな」

「ですね…ところで、その魔道具、言い値で買い取らせてくれませんか?」

「…ダメ、これは私の」

「なら諦めます…」


しょんぼりしてる。

リコリスは大事にしてくれてるようでよかった。

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