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91.魂の共鳴、守るべきもの

この場所はやっぱり寒い。

何年住んでも慣れる気はしない。


イリスは体が弱い。

この寒い地域にいるのは…と思ったけど、やっぱりここに居たい。

それはナズナも同じらしい。

義兄さんが守ってくれている感じがすると言っていた。


それに、まだ気になることがある。


ウェンディゴ、Bランクの魔物。


かつて僕たちを襲い、ナズナの兄を殺した存在。

前までは目撃情報も途絶えており、既にここら辺にはいないと言われていた。

しかし、最近また目撃情報が出ているらしい。


師匠とリアムさんは心配するなと言っていたが、やはり心配だ。

この村が襲われたらと考えると眠れなくなる。


僕が弱いからだ。


「あらタフトちゃん、いらっしゃい。ナズナちゃんとイリスちゃんは元気?」

「元気ですよ。ヤギミルクと〜…」


それに、この村が好きだ。

師匠とリアムさんがいない時に襲われたら、僕が守らなきゃいけない。

でも、どうやって?


ずっと考えている。

守るために強くなると誓った。

それでも、勝てないやつがいたらどうすればいい。

今の僕だと手も足も出ないだろう。


「お兄さん、困ってるよね?」


振り向くと黒いフードを被った人がいた。

この村の人じゃない…。

そういえばだいぶ前だが、 聞いた気がする。

不審な人物がいるってのを。


「…どちら様ですか?」


身構える。

もし危険な人なら捕まえなければならない。

敵わないなら師匠かリアムさんが来るまで時間稼ぎをしなければならない。


「そう身構えないで。私はただ、アドバイスしに来ただけ」


そう言うと、目の前のその人は瓶を取り出す。

それには花が入っていた。


「もし、どうしようもなくなったら花を食べればいい」


花を…食べる?

何を言っているんだこの人は。

それは禁忌だろ?


「それだけ。じゃあね」


そう言うと、その人は背を向けてこの村から出ていった。

一応師匠に報告しておくか。


「…危害は加えられてねぇんだな?」

「はい、一応報告はしておこうと。ただ、禁忌を推奨してきたのはさすがに危険な人物かと」

「なるほどな…わかった、あとは俺らに任せとけ」


そう言うと師匠はリアムさんの方へと行った。

まぁ、あの人たちに任せておけばひとまずは大丈夫だ。


「ただいま〜」

「おかえり、タフト」

「イリスは?」

「今寝てる。寝顔、可愛いわよ」


寝顔を見れば天使がいる、と言われても疑えないほど可愛らしい存在がいる。

娘が可愛いというのは当たり前だろうが、やはりイリスが世界で最も可愛い。


「寝返りが上手くできるようになったの」

「それはすごいね。僕にも見せて欲しいよ」


とは言うものの、そう上手くは行かない。

眺めていたが寝返りを打つ気配はない。

まぁいつか見れるだろう。


成長が楽しみだ。


しばらくの日がたち、リアムさんが魔物が集まっている場所を見つけたらしい。

ダンジョンとまでは行かないが、放置していればダンジョンになる。

そして、この村にいる冒険者は現在リアムさんと師匠と俺だけだ。

ということは…。


「明日、俺とリアムで魔物を一掃してくる。その間、村のことを頼めるか?」

「…!はい!任せてください。命に変えても、守ってみせます!」


僕が守らないといけない。

イリスを、ナズナを、村のみんなを。

とはいえそれは魔物が村を襲撃する前提。

襲撃が来なければやることは無い。


「お前はなぁ…全員だ。お前を含め、全員を守れ。いいな」


大事なことを忘れていた。

誰かを守るだけじゃ、その誰かが悲しむ。

間違えちゃダメだ。


「…はい!」


そう返事をし、師匠とリアムさんは討伐に行く用意をし始めた。

僕も念の為用意しておこう。


そして夜、2人は村を出てその場所に向かった。

何も無ければ良いが…。


しばらくの時間が経った。

イリスは熟睡しており、村も静かになっている。

師匠たちはいつ帰ってくるのか、聞いておけばよかった。


そんなことを考えていると、叫び声が聞こえる。


「魔物だ!!!魔物が来たぞ!!!」


声を聞き、僕は急いで外に向かう。

そこに行けば奴がいた。

人間を喰らう、魔物。

俺たちを襲い、ナズナの兄を殺した奴が。


「全員逃げろ!僕が抑える!」


逃げるように全員に促したが、この村には老人たちも多い。

誰かが足止めをしなければ、最悪全員殺される。

だったら、やるしかない。


剣を抜く。

拳の才能はなかった。

魔法の才能もない。

だから、剣を取った。

本物の剣を握るのなんていつぶりだろうか。


恐れるな、怯むな、立ち向かえ。

みんなを守るために。


なぜかは分からなかったが、その魔物、ウェンディゴは怪我を負っていた。

ウェンディゴ自体はBランク、Dランクがかなう相手じゃない。

それでも、時間は稼げる。


そう、過信した。


一振で剣が折れる。

腕が引き裂かれる。

無くなった腕の断面から赤く鮮やかな液体が落ち、雪を彩る。


怯むな。

折れた剣をもう片方の腕で持ち直し、立ち向かう。


剣は弾かれ、吹き飛ばされる。

幸い雪がクッションとなり衝突の痛みは間逃れた。


立ち上がれ。

剣がなくても、拳がある。

全てを使って時間を稼げ。


「タフ、ト…?」


振り返るとナズナがいた。

騒ぎで起きたのか、イリスを抱えている。

逃げ遅れたのか?


「に…げろ…はや…く…!」


ウェンディゴはナズナの方へと向かう。

その巨大な体躯を、確実に、近づけていく。


なぜこいつがここに来たかわかった。

こいつは、イリスの魔力を狙っている。

怪我をしている理由は分からないが、多分、回復のためにイリスを喰らおうとしている。


動け、動いてくれ。

頼む、頼むから。


『どうしようもなくなったら花を食えばいい』


吹き飛ばされた衝撃で瓶が割れている。

中からは幼い時からずっとみていた花がある。


『命に変えても、守ってみせます!』


ごめんなさい、師匠。

約束、守れそうにありせん。


花を手に取る。

花を食べるとどうなるか、そんなことは知らない。

でも、今はこれに賭けるしかない。

みんなを守るために。


それが例え、禁忌であっても。

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