53.最後の言葉
気を失ってた。
どれくらい失ってたの?
ハーデンは?
腕はどうなったの?
「ベルノ!起きたか…」
横を見れば腕を支えているユージがいた。
腕を見てみれば再生が完了している。
水がかけられているのを見るに、ポーションをかけてくれていたのだろう。
「何分…気絶してた?」
「だいたい3分、まだ起きちゃダメだ」
「行かないと…ハーデンが…」
スキル道連れ
自身が死ぬ際、任意の対象のステータスを大幅に下げることができる。
また、発動には対象との距離が100メートル以内でなければならない。
「…ダメだ」
「なんで!」
「ハーデンが、それを望んでいるからだ」
道連れをすれば、おそらく私はデーモンロードに勝てる。
でも、それは嫌だ。
私の世界に、貴方がいないのは嫌だ。
体を起こそうとする。
しかし、ユージに押さえつけられてしまう。
「離して!」
「ダメだって言ってるだろ!」
ハーデンの魔力が弱まっていくのがわかる。
全てを出し切って、ギリギリまで削ったあとに道連れをするつもりだ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
私を残していかないで。
まだ、貴方から聞いていないのだもの。
4分、再生が完了する。
ポーションの効果で多少なりとも時間を短縮できた。
「ハーデン!」
急いで駆け寄った。
腕が繋がった私を見て、ハーデンは少し、微笑んでいたようにも見えた。
「ーーーー」
その言葉と共に、ハーデンの胸を、デーモンロードの魔法が突き刺した。
力なく落ちる手が、炎の剣を地に落とす。
「ウィンドトルネイド」
竜巻がハーデンとデーモンロードを覆う。
ハーデンを風でこちらに引き寄せ、ユージに渡す。
「お願い。守ってて」
「…わかった」
デーモンロード
HP:827 MP:976 攻撃力:1252 防御力:787 素早さ:277
ハーデン、貴方が遺したそれはしっかり私が受け取った。
だから、待ってて。
竜巻を振り払うのに苦戦したのか、腕を振り回しながらデーモンロードが出てきた。
鑑定して道連れが成功したのだとわかった。
「ストーンエッジ」
地面から生えた岩がデーモンロードの翼を突き刺す。
反応が遅れたデーモンロードは翼を引きちぎり、岩から脱出する。
ニタニタと笑っていたデーモンロードだったが、翼が再生しない様子に困惑しているようだった。
「ウィンドカッター」
岩を斬り落とすつもりで放ったのだが、デーモンロードの足にあたり、そのまま足を切り落とした。
ステータスの大幅な低下。
2倍近く動きが鈍れば動くのですら大変だろう。
「ストーンランス」
岩を持ち上げ、デーモンロードに落とす。
しかし、直前で防がれたのか、魔法で相殺されたのか、岩が直撃した様子はなかった。
防御が硬い。
なら、隙を作らないと。
ちらっとユージの方を見るが、どうやら最初のビビっていた時とは違い、やる気だそうだ。
「一瞬、隙を作れる?」
「作ってみせる」
「お願いするわ」
手に魔力を溜める。
全部の魔力を使ってもいい。
仇を取りたい。
少しでも、ハーデンの死に意味を持たせたい。
ステータスが下がったとはいえユージより格上、どんなチャンスも見逃せない。
そう、侮っていた。
ユージはデーモンロードに接近戦を挑んでいる。
魔法剣に水を纏わせて。
デーモンロードは魔法で足を代用しているのか、立つことはできているようだ。
ユージに向かって、デーモンロードが腕を振り下ろす。
下がったとはいえ攻撃力は1000を超えている。
まともに受ければ剣が折れ、ユージごと潰すだろう。
しかし、魔法剣に纏わっている水が回転し、デーモンロードの攻撃をいなした。
デーモンロードの体勢が崩れる。
「ベルノ!」
ありがとう、ユージ。
あと、侮っててごめんなさい。
あなたのおかげで、私のこれに意味が持てる。
最大限まで魔力を圧縮したこの魔法。
これなら、殺せる。
「ウィンドランス」
生成された巨大な風の槍が、デーモンロードにぶつかる。
デーモンロードは魔法で相殺しようとしたが、できなかったようだ。
角を砕き、頭を裂き、魔石を破壊する。
デーモンロードは力尽き、残った下半身が崩れ落ちた。
討伐完了。
砕けた魔石を回収し、ユージに渡す。
「これは?」
「デーモンロードの魔石、ダンジョンコアとも呼ぶわね」
「ベルノ達が探してたんじゃないのか?」
「もう、必要なくなったの」
ユージは不思議そうにこちらを見ながら魔石を受け取った。
ダンジョンが揺れ、パラパラと粉が降ってくる。
「とりあえず、外に出ましょうか」
ハーデンを抱え、外に出る。
出口を塞いでいた岩は崩壊しており、無事に外に出ることができた。
ダンジョンの出口に座り、休憩する。
疲れた。
そして何より、心に大きな穴が空いた気がする。
運んできたハーデンの遺体を横にする。
その時、小さな袋が落ちた。
それを拾い、中を見る。
中には赤色の宝石の着いた髪飾りが入っていた。
本当に、貴方って人は。
「これからどうするんだ?」
「これから?…そうね、どこか、静かなところに行こうかしら」
「…」
ユージは言葉に詰まっている様子だった。
それもそうだ。
愛した人が死んだ人にかける言葉など思いつかないだろう。
「ここでお別れね、ユージ。私はしばらく、ここでハーデンといるわ」
「…大丈夫、なのか?」
「大丈夫よ。それに、2人きりにさせて欲しいの」
ユージは少し考えた末、私の気持ちを汲み取ってくれたのだろう。
荷物をまとめ始める。
「また、会おう。それにハーデンにも会いに来る」
「そうしてちょうだい。きっと、ハーデンも喜んでくれるわ」
「…またな」
優しい人。
わかってるのか、わかってないのかはわからないけど、言わないでくれるのね。
「さようなら、ユージ」
さて、私とハーデン2人きりになったわね。
言いたいこと、沢山あるのよ?
まず、この髪飾りはあの時買ったのでしょ?
なんで私に早く渡してくれないのよ!
それに、何がそばにいてくれるよ。
先に逝っちゃって。
乙女を置いていくなんて、付き人以前の問題だわ。
…でも、ありがとう。
貴方と一緒に、過ごせてよかった。
足音がひとつ、聞こえてくる。
見なくてもわかる、彼だろう。
「ベルノ・ジュシームとその付き人、ハーデンであっているな」
「そうよ」
「Aランク冒険者、ムバルトだ。要件はわかっているな?」
「えぇ、もちろん」
迎えが来ちゃったみたい。
でも、悲しいことじゃない。
貴方の元へ行けるのだもの。
「もう1人、一緒にいた奴がいるな。そいつに話したのか」
「話さないわよ。私と、ハーデンだけの秘密。話してなんてあげないわ」
「…嘘では無いようだ。なら、彼は生かそう」
嘘探知持ちか。
なら、嘘もつけないや。
まぁもっとも、つく嘘もないけどね。
「禁忌を知ったものを生かしてはおけない」
「別に、そっち側にスカウトしてくれても良かったのよ?」
「断っていたろ?」
「そうね、よくわかっているじゃない」
「なにか言い残すことはあるか」
言い残す言葉は…特にないわね。
あんたに残す言葉はね。
「では、死ね」
あぁ、まだやりたいことあったんだけどな。
大好きな人と一緒に暮らして、大好きな人と笑いあって、大好きな人と旅をして…。
どれも、貴方がいないとできないことなのね。
…冗談よ。
すぐにそっちに逝くのだもの。
そうしたら、また一緒にいられるわ。
ハーデン、貴方と出会えてよかった。
『ーーーー』
…ふふっ、そうね。
やっと言ってくれた。
私もよ。
私も、貴方のことを…
『愛してる』




