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52.禁忌と逃亡

「ハーデン!遊びましょ!」

「お嬢様、お勉強の時間でしょう?」

「嫌よ!楽しくないんだもん!貴方と遊んでる方が何倍も楽しいわ!」


生まれてからずっと、ハーデンという青年が私の付き人だった。

最初はなんで男なの!ってお父様に怒ってた気がする。

けど、ずっといるうちに兄のように慕ってた。


「勉強を頑張れたら一緒に遊びますよ」

「本当に?」

「もちろんです」

「約束よ!絶対だからね!」


私には姉が1人いた。

そこそこいい関係を築けてたと思う。

私は魔法の才能があって、エルフィ姉様は勉学の才能があった。

その違いだけだった。


私が知らないところでエルフィ姉様は虐められていたらしい。

エルフの血を濃く継いでしまったこと。

それなのに魔法の才能もなければ、弓の才能もなかった。

体は弱く、頭がいいといっても他には何もできないと、みんな罵った。


あとから知ったことだったが、エルフィ姉様は病気だったらしい。

魔力の通る道が極端に狭くなる病。

魔力が体から放出することができず、体に常に溜まった状態になってしまう。

それにより、体が悪くなっていたらしい。


「エルフィ姉様!遊びましょう!ハーデンがね!」

「ごめんねベルノ、姉さんはちょっと休みたいわ」


いつ誘っても、遊んでくれることはなかった。

勉強を教えてもらったことはあった気がする。

でも、ほんの数回だったかな。

脳天気な私はそんなエルフィ姉様のことを何も知らなかった。

だからあの時、事前に知って、止めることができなかった。


私が15歳の時だったかな。

そのくらいの時、私はハーデンへの恋心を理解した。

14歳差ということもあり、素直に伝えたがやんわり断られてしまった。


「大人になった時、まだ変わらなければもう一度お伝えください」

「言ったわね?」


その時からだろうか、少しオシャレに気を使い始めたのは。

元々遊ぶことしか考えてなかったわんぱくな娘が身なりを整え始めたのだ。

父様と母様は喜んでいた。

ハーデンは少し複雑そうな顔をしていたが。


「…って言われたんだよ。エルフィ姉様はどう思う?」

「どうって言われてもね…14歳差だし、仕方ないんじゃない?貴方は貴族なのだし」


歳の近い使用人はいなかった。

いや、正確にはいた。

いたけど、あんまり好きじゃなかった。

エルフィ姉様の付き人。

どこか嫌な感じがしたから。


だから歳の近いエルフィ姉様に相談した。

これがエルフィ姉様の心に深く傷をつけているとは知らずに。


多分、エルフィ姉様を追い詰めたのは使用人からのいじめとか、父様母様からの冷たい扱いだけじゃない。

私の小さな行いの積み重ねだ。

エルフィ姉様は外に遊びたくても遊びに行けない。

恋をしたくても、体が弱くてできない。

エルフィ姉様の持ってないものを、私は持っていた。


「ハーデン、エルフィ姉様に似合うのはどっちだと思う?」


買い物に来たその日の出来事だった。

エルフィ姉様が、ああなってしまったのは。


「緑の方が似合ってると思いますよ。エルフィ様はお嬢様と違って落ち着いているので」

「貴方、一言余計よ」


外に買い物に出かけた日、外に出れないエルフィ姉様にお土産を買っていこうとした。

綺麗な緑色の宝石が着いた髪飾り。


「よし、じゃあ帰りましょ」

「すみません、私は少し用があるので先に行っててもらえますか?」

「そうなの、なら待ってるけど…」

「いえ、先にお帰りください」


頑なに帰れと言われ、帰される。

付き人なのに私から離れるなんて信じらんない。


そう思いながら屋敷に帰る。

その時、何やら屋敷が騒がしかった。


急いで戻ればデーモンが何体かいて、屋敷の人たちを襲っていた。

何が起きてるかわからなかった。


体の弱いエルフィ姉様を心配して、まっさきにエルフィ姉様の部屋へと向かう。


「エルフィ姉様!」


ドアを開け、名前を呼ぶ。

どうやらここにはデーモンが来ている様子はなかった。


そこには窓を開け、窓際に腰を下ろすエルフィ姉様がいた。

手には、花を持っている。


「エルフィ姉様…?」

「…ごめんね、ベルノ。私、楽になりたいの」


手に持った花を口に運ぼうとしている。


この世界には禁忌がある。


【花を食べてはいけない】


その理由は分からない。

命の花を食べると死ぬから、バカが食わないようにしてるのだと思ってた。

違った。

そうじゃなかった。


花を食べたら悪魔になる。


「エルフィ姉様…」


名前を呼んでも返事をしない。

目の前にいるのは悪魔だった。


手に持っていた小袋を落とす。

もう、渡す人もいない。


「お嬢様!」


あとから帰ってきたハーデンが来てくれた。

悪魔達を倒してきたからなのか、少し息が上がっている。


「まだデーモンが…お嬢様、お下がりください」

「待って!殺しちゃダメ!あれは…」


ハーデンを止めようとしたが、その前に悪魔に遮られる。


エルフィ姉様のMPは2000を超えていた。

つまり、私よりも強かった。


本当は拘束して、元に戻す方法を知りたかった。

だけど、そんな余裕はなかった。


長く戦っていた。

既に日は沈み、夜は深く沈み込んでいる。


「エルフィ姉様…」


ハーデンと共に倒した悪魔を抱える。

ハーデンはその言葉で気がついたのだろう。

その悪魔がエルフィ姉様だということに。


その後、どうしようもなくて途方にくれていた。

日が昇り、朝になる。

そして、2人の冒険者が来た。


「おい、あいつらか?」

「ベルノ・ジュシームだけだが…その付き人、ハーデンもおそらく聞いている可能性がある。始末しよう」


それは、私たちを殺しに来た人達だった。

片方は見たことがある。

結界師、ムバルト。

Aランク冒険者のはずだ。


「お嬢様、逃げましょう」


ハーデンにそう言われ、急いで逃げた。


「おい!待て!」

「…いや、いい…どうせ逃げ場はない。ゆっくり探そう」


沢山逃げた。

幸い、逃げる際に魔力を消せるローブを持ってこれた。


「お嬢様、先のデーモンについてですが… 」

「あれは…エルフィ姉様なの…」


ハーデンには全てを話した。

この世界の禁忌。

なぜ禁忌なのか。


ハーデンは最後まで話を聞いてくれた。

エルフィ姉様の死で泣きじゃくっていた気もする。


「私がそばにいます。一緒に、背負います」


その日からハーデンと共に逃げる日々が続いた。

そして闇市で転移魔法の魔道具とBランクダンジョンのコアを交換してくれる取り引きを見つけ出した。


その日から、火山地帯に篭もり、ダンジョンを探した。

私たちのことを誰も知らない土地で、貴方と過ごすために。


やっぱり、私。

貴方がいない世界は嫌だ。


だから、お願い。

…だから…。

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