51.捕食者
意識が戻り、目を開ける。
現在地はどうやら洞窟内。
ダンジョンの下の階層に飛ばされたってところか?
周りを見渡せば2人の人影があった。
「大丈夫か、ユージ」
「大丈夫だけど…すまん、俺のせいで…」
「警戒しなかった俺の責任だ。戻るだけだからと油断した」
ベルノが調べたところ、ここは4階層との事。
ただし、魔物がほとんどいない。
どう考えても異質だ。
「ダメね、出口の方は塞がれてるわ」
終わった、閉じ込められてるじゃん。
マジで俺戦犯じゃね?
このままだと餓死を待つだけってことか?
「本当にごめん…」
「まだ希望はある。ダンジョンマスターを倒す、そうすれば出口を塞いでいる岩も崩壊して外に出れるはずだ」
「…それが出来れば、だけどね」
2人の間の空気が重くなる。
何か問題があるのか?
本来通りのBランクのボスなら2人で倒せる気もするが。
「何が問題なんだ?」
「変動型ダンジョンってわかる?」
「今回みたいに構造が変わるダンジョンのことだろ?」
「そうよ。変動型ダンジョンには大きな共通点があるの」
「共通点?」
「知性が高いのよ」
知性が高い魔物。
俺が知っている限り、あの魔物が当てはまる。
Aランクの魔物、紅竜。
高い知性を持ち、1度見た人間を覚えている。
それだけではなく、助けられたと認識して恩を返すレベル。
「紅竜レベルがダンジョンマスターってことか?」
「場合によってはね。でも、今回は明らかに異質。紅竜とはいえここまで高い知性があるとは思えない」
まじか。
紅竜より賢いとなると厄介すぎないか?
てかよく考えればそうか。
Cランクの魔物が逃げ出すレベル。
それでいて俺たちに転移トラップを踏ませるレベルの知性。
弱いわけが無い。
「なんにせよ、進むしかないわね。ユージもそれでいい?」
「俺がトラップを踏んだんだ。足手まといにならないように頑張るよ」
「…行きましょう、お嬢様」
奥へと進んでいくと階段が見える。
明らかに整備された階段。
ベルノが調べたが、トラップはないらしい。
下に降りると扉が出てくる。
ハーデンが扉を押し、重い扉が開かれる。
広い空間が現れ、その中心には丸い石のようなものが置かれている。
すると、背後の扉が閉まる。
ハーデンが閉めたわけではない。
おそらく、逃がさないということだろう。
中央の石が動きだす。
外殻を作っていたそれは背中に着いているようで、蝙蝠のような大きな翼を広げる。
人間でいう目のついた位置には角が生えている。
手は長く、指も長い。
その先端には鋭い爪も着いている。
デーモンロード
HP:3771 MP:4279 攻撃力:2510 防御力:1975 素早さ:554
背筋が凍る。
紅竜を見た時の恐怖じゃない。
もっと、根源的恐怖。
子供が暗闇を怖がるように、高台が怖いように、深海が怖いように、目の前のそれが怖い。
あれは恐怖の塊だ。
「ハーデン、やるわよ」
「わかりました、お嬢様。合わせます」
2人の追われ人と悪魔の戦いが始まった。
前衛を張るのはハーデン、剣を構えながら魔法で攻撃している。
おそらくデーモンロードの攻撃に対応するためだろう。
それに対してベルノはまだ攻撃をしない。
デーモンロードのアクションに合わせて攻撃するらしい。
「ファイアバレット」
ハーデンの手のひらから火の弾が放たれる。
デーモンはそれを指で弾く。
それと同時に指先に魔力を溜め、ハーデンに対して飛ばす。
「ストーンエッジ!」
地面から生えた岩がその攻撃を受け止める。
ベルノの魔法らしい。
ストーンエッジは大まかにいえば岩を生やす魔法。
それを盾に転用しているらしい。
そのまま攻撃に移る。
「メテオエッジ!」
デーモンロードの攻撃により弾けたストーンエッジの岩を転用しながらそれらをデーモンロードにぶつける。
また、それ以外にも魔力により生成した岩を飛ばしている。
それに合わせてハーデンが剣を振り下ろし、デーモンロードにぶつける。
「ウィンドトルネイド!」
衝撃により生じた岩や砂を利用し竜巻に閉じ込める。
ハーデンの攻撃により避けることも出来なさそうだ。
すごい連携だ。
傍から見ていた俺でもわかる。
2人のAランクレベルの人間が協力するとこんなにも強いのか。
竜巻の中から何かが飛んでくる。
ハーデンはそれにより吹き飛ばされた。
「ハーデン!」
「大丈夫です!それより奴は!」
竜巻からゆっくりと出てくるデーモンロード。
先の攻撃をものともしていないようだ。
「ちょっとまずいわね…」
「火と岩は効き目が薄いようですね。私の水属性の方中心で攻めましょう」
「わかったわ、サポートするから自由にやってちょうだい」
互いが目を合わせるとデーモンロードの方にハーデンが走っていく。
「ウォーターウェイブ」
「ウィンドエリア!」
ハーデンの生成した水をベルノが操り、デーモンロードを襲う。
デーモンロードは翼を閉じ、広げた時に発生する風の勢いで水を吹き飛ばした。
だがそれだと…。
「喰らっとけ」
ハーデンの剣がデーモンに直撃する。
「アースリクイド!」
デーモンロードの足が地面に沈む。
ハーデンが振りかざした。
デーモンはそれを翼と腕で受け止めるつもりらしい。
「ウィンドカッター!」
風の鎌が翼を押し裂き、ガードが腕だけになる。
振り下ろした剣がデーモンロードの腕に刺さる。
そう、刺さってしまった。
心做しかデーモンロードはニヤリと笑ったように見えた。
腕をなぎ払い、ハーデンの剣を奪いつつハーデン自身にも打撃を加える。
そして何より、斬られた部分が再生していってる。
どう考えても傷のひとつもつけられていないのはおかしい。
それだけ力に差があるということなのか?
「ハーデン、俺の剣を使ってくれ!」
そういい剣を渡そうとする。
しかし、ハーデンはそれを受け取らなかった。
どうして?と思っていたが、この剣は所持者の魔力にしか呼応しないようになっているらしい。
モーラスがそう改造してくれたのだろうが、裏目に出たな。
「お嬢様」
「…ダメよ。絶対にそれだけはダメ」
「しかし、今はそうするしかありません。でなければ全員死にますよ」
「…それでもよ。まだ勝てるかもしれない」
ハーデンにはなにか策があるらしい。
が、それをベルノが止めるってことはあまりいい作戦ではないのだろう。
そう話しているとデーモンロードが一瞬で姿を消す。
「ウィンドダスト!」
塵が空気を舞い、辺りに吹き荒れる。
あまり強くは無い魔法だが、おそらくデーモンロードの居場所を突き止めるために使ったのだろう。
しかし、その魔法がデーモンロードの姿を見つけ出すことはできなかった。
「…!ハーデン!後ろ!」
「なっ」
ハーデンの後ろに現れたデーモンロードが背後からなにかの魔法をぶつけ、吹き飛ばす。
壁に当たり、周囲の岩を巻き込んで崩れ落ちる。
「ハーデン!」
「ベルノ、今はデーモンロードを!」
ベルノにそうは言ったものの、やはりハーデンが心配なのだろう。
集中できていないようにも見える。
「ストーンゴーレム!」
イリスが前に使っていたのを見たことがある気がする。
岩のゴーレムを作り出す魔法。
吹き飛ばされたハーデンが戻ってくる間このゴーレムで代用するのか。
しかし、一瞬で近づいたデーモンロードにそれらは切り刻まれ、粉々になる。
明らかに素早さ554の動きじゃない。
なにかのスキルを使ってるのか?
ゴーレムを粉々にしたデーモンロードはこちらに向かってくる。
「はやっ…」
ベルノは素早く移動するデーモンロードに反応することができなかった。
咄嗟に前に出した腕が斬り飛ばされ、赤い血液と腕が飛び散る。
「ア゛ッ…」
ベルノは痛みに悶える。
ニタニタと笑っているように見えるデーモンロードはベルノを蹴り飛ばした。
あいつ、遊んでる。
やろうと思えばさっきの瞬間にベルノを殺すことができたはずだ。
それなのに、トドメを刺さなかった。
「ベルノ!ハーデン!」
急いで駆け寄る。
どうやら俺のことは眼中にもないらしく、デーモンロードは俺に攻撃をしてくることはなかった。
ハーデンがベルノの腕を持ってきた。
「お嬢様を頼む」
「待って…ダメ…お願い…」
「お嬢様にはスキル再生力がある。5分くらい腕をくっつけておけば繋がるはずだ」
「ダメ…やめて…」
「ユージ、頼む」
何をするつもりかは分からない。
それがベルノの望むことではないことだけはわかる。
ただ、ハーデンは最初に言っていた。
『俺の命のひとつ程度でお嬢様を護れるなら喜んで差し出す』
死ぬつもりだろう。
でも、俺に止める権利はない。
ハーデンが、ベルノのために決めたことだ。
「わかった」
「…ありがとう」
ハーデンは炎の剣を作り出し、デーモンロードの方へと歩いていく。
デーモンロードと覚悟を決めた男の戦いが始まろうとしていた。




