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5. 孤独と旅立ち

 日も傾き、昨日と同じ宿屋に向かう。


 昨日と違うことがあるとするならエルダと既に別れていることだ。


 エルダいわく


「俺ァちぃーっとばかしやることがあんだ。部屋は自由に使ってくれぃ。じゃ、ゆっくり休めよ!」


 とのこと。


 1度通ったとはいえまだこの世界には慣れないな。


 そう思いながら歩を進めていると、木の葉の隙間から夕日が差し込んできた。

異世界にも太陽と月がある。

地球で見た最後の夕日と同じと言われても、俺はそれを否定できないだろう。


「キレイだな…」


 景色を見たりするのは配達員をしていた頃からの趣味だった。

と言っても、それくらいしかやることがなかったというのが正しいが…。

この世界ならもっと幻想的な景色もあるのかな。

そう昨日エルダと話した雑談を思い出しつつ、歩を進めた。


 宿に着くと女将さんが出迎えてくれる。


 エルダさんはいないのかい?と聞いてきたが、今日は帰らないことを伝えると鍵を渡してくれた。


 部屋に戻ったとはいえ…やることが無い。

晩御飯は食べた。

風呂に入るか。

剣を磨くか。

荷物を整理するか。…。


 昨日はエルダが話し相手になってくれていたから孤独を感じなかった。

でも、今日は違う。


 布団に潜り込み、まぶたを閉じる。

涙が頬を伝う。


 あぁ、俺は本当に死んで、異世界に来たんだ。

もう、母さんや父さんに会えない。

あんまり親孝行してあげられなかった。

もっと顔を出せばよかったな。

それに、友人にももう会えない。…寂しいな。


「ユージ!起きてるか!」


 大きな声が扉を貫き鼓膜を揺さぶる。

重いまぶたを開き、ドアを開けばエルダがいた。


「お前さんにいい知らせといい知らせがある!」


 こういう時は普通いい知らせとわるい知らせでは?

まぁそれは一旦置いといて…。


「そのいい知らせってなんですか?」


 そう聞くとエルダは2つの袋を前に出してきた。

片方はEランクと俺の名前が書かれたカード、もう片方は十数枚の銀貨が入っていた。


「えっと…これって…?」


 戸惑っているとエルダは大雑把だが説明してくれた。


 まずカードの方だがどうやら俺の冒険者カードらしい。

昨日の働きでエルダがEランクに推薦してくれたそうだ。

めちゃくちゃ嬉しい。

小躍りしたい気分だ。


 そして2つ目の銀貨だが、餞別らしい。

なんでも、一昨日の夜話した俺の趣味を覚えていたという。


「お前さんはこの街に残り続ける気はねぇんだろ?だったら、餞別が必要だ!ハイタツイン?ってのはよくわかんねぇが、旅をするには資金がねぇとな!」


 俺は受け取れないと拒否しようとしたが、この人のお人好し度を見誤っていたようだ。

ベッドを譲られた時同様に押し切られてしまった…。


 とはいえ好待遇すぎる気もするが、この人のことだし悪意も裏もないだろう。


「でだ。俺ァ魔法を教えるのができねぇからあれなんだが、魔法を覚えた方がいいだろぅ?」


 確かに昨日のゴブリン討伐ではほとんど扱えなかったし、覚えられるなら覚えたい。

そう伝えるとエルダは紹介状を書いてくれた。


「俺の知り合いの魔法使いに教えて貰えるように頼んでやんよ!そんで、そいつはこの街…スィートピィにいる!」


 ズボンに手を突っ込んだエルダはそこから地図を出し、指を指す。

普通に汚いので机に置かないで欲しい気持ちもあるが、悪意は無いと思うのでスルーすることにした。


 そして指された場所、スィートピィの場所を見ればこのイシュリアの隣街だということが分かる。

だいたい歩いて2日程らしいし、次はここに行くのもありかもしれない。


「まぁ選ぶのはお前さんだ!後悔のないようにな!」


 そう言いながらエイダは2つの袋を置いて言ってしまった。

感謝もまだ言えてないんだけどなぁ。


 ということで買い物だな。

今の資金は銀貨1枚に銅貨7枚、そしてさっき貰った銀貨15枚。

買うべきなのは地図と保存食、あとは水入れとマッチだったり明かりだったりがあるならそれも欲しいな。


 街を回って雑貨屋っぽいとこに入りまくっていくとそれっぽい店にたどり着いた。


地図、銀貨5枚。

保存食、6日分銀貨2枚。

水入れ、銅貨1枚。

ロープ、銅貨1枚。

ランタン、銀貨4枚。

合計出費は銀貨11枚、銅貨2枚。


 こうして俺の残高は銀貨5枚と銅貨5枚になってしまった。

あんまり贅沢はできないが…不測の事態に備えてこの位は欲しいだろう。


 1度宿屋に戻り荷物をまとめる。


 もう少しここにいてもいい気はするが、正直早く魔法を使えるようになりたいと言う気持ちが強い。

もしかしたら魔法の才能があるかもだしな!


 女将さんに軽く挨拶をして宿屋を出る。


 エルダはギルドにいるだろうか。


 ギルドに足を運べば受付の人は笑顔で迎えてくれた。


「まずはEランク昇格おめでとうございます!そして、スィートピィに向かわれるんですよね?」


 エルダが話をしていたのかどうやらこの人にも言っていたらしい。

俺がここに残る判断をしていたらホラ吹きになってたのかな…。


 そんな冗談はさておき、エルダのいる場所を聞きつつ、受付の人にも軽く挨拶をしてギルドを出る。

どうやら街のハズレにある場所にいるようだ。


 少し歩くと大きな背丈で見覚えのある背中が見えた。


「エルダさん!ここにいたんですか!」


 駆け寄ればまだ午前なのに黄昏ているエルダがいた。

何をしてんだこの人は。

とりあえず感謝と挨拶はしておこう。


「あの、色々ありがとうございました。この世界のことを教えてもらったり、旅立ちの手助けをしてくれたり…ほんとに感謝してもしきれないです!」


 そう伝えると、エルダはそれっぽく振り向いてこちらを真っ直ぐと見る。


「ユージ……わりぃ、かっけぇセリフ考えてたんだが、思いつんわ!」


 マジでなんなんだよこの人は。


 ただ、この陽気さに照らされて初日は寂しい思いをせずに済んだのも事実だ。

異世界に来て最初に着いたのがこの街でよかったと言わせてくれるのはこの人のおかげかもしれない。


「またな!ユージ!今度会った時はお前さんの奢りだぜ!」

「はい!また会いましょう!」


 エルダの見送りで異世界最初の街、イシュリアを旅立つ。

次の目的地はスィートピィ、そこに行けば魔法を習える!

心を躍らせながら地図を開き、歩を進める。


 こうして、イシュリアからスィートピィまでの2日間の旅が始まった。

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