23.海の呼び声
2日目の船旅、特に何事もなく進む。
昨日の海賊もそこそこ珍しいらしく、本来は何事もないらしい。
「ユージ、大丈夫?」
「ん?あぁ、大丈夫。ほら、前話した通り元の世界は魔物とかもいなかったし、人を殺すのは重い罪だったから。もう慣れたから大丈夫」
「私は生まれたときから奪わなきゃ奪われる、殺らなきゃ殺られる、そういう環境で生きてた。でも、ユージは違うんでしょ?そういう感性?はすごく大事だと思う」
励まそうとしてくれてるのか?
気を使わせてしまったな。
「本当に大丈夫だよ」
「ならいいけど...」
まだ人を殺してないし、そこまで心に来るものはない。
初めて人を殺したとき、きっと落ち込む。
でもそれはその時考えればいい。
今は旅を楽しもう。
そのまま雑談をし、風に当たりながら海を見る。
見渡す限り青い海。
元の世界でも似たことのない景色だな。
そんな事を考えていると歌声が聞こえてくる。
海に似合うきれいな歌声だ。
歌声に導かれ、船から身を乗り出す。
その直後大きな声が聞こえる。
「歌を聞くな!!!」
怒声に近いアメリアの声で正気に戻る。
今の歌は何だ。
意識が持っていかれそうになった。
他の冒険者は。
周囲を見れば海に身を投げている冒険者もいる。
ミントはその歌声の違和感に先に気がついていたのか、自身の手の甲にナイフを刺し、正気に戻っていたらしい。
「アメリアさん!なんですかあの歌声!」
「セイレーンだ!耐性のないものは少しでも違和感を感じたらナイフを刺すなりして正気を取り戻せ!海に落ちたら死ぬぞ!」
一瞬海を見る。
船の下には上半身が人間、下半身が魚に似た人魚のような姿のなにかがいた。
美しい見た目で歌を歌いながら船の周りを泳いでいる。
綺麗だ。
「ユージ!」
声とともに手に激痛が走る。
それと同時に正気に戻る。
再度海の人魚を見れば人の血肉を貪り食う魔物が目に映る。
海に落ちていたらああなっていたのだろうと恐怖する。
セイレーン
HP:125 MP:371 攻撃力:97 防御力:127 素早さ:232
ステータスだけ見れば強くは無い。
他にいるセイレーンもだいたい同じくらいのステータスだ。
それなのにこの惨状。
それほどまでに強力な歌声なのか。
「全力で突っ切る!正気に戻ったやつは鼓膜破ってでも歌を聞くな!踊らされてるバカ共をぶん殴って正気に戻せ!」
正気に戻っているのは俺を含めて10人ほど。
海に落ちた人達はもう救えないと仮定して身を乗り出しているのは20人弱…。
全員は救えないぞこれ。
「サンダージェイル!」
大きな雷の檻が船を覆う。
声の方を見れば3人が真ん中の人、サンダーに手をかざし、サンダーが魔法を使っているようだ。
「イッテ…はっ、これは…」
雷の檻に触れた冒険者が正気に戻ってる。
なるほど、落ちそうになっている人に当たるようにしてるのか。
ただこんなバカでかい魔法を使って魔力が足りるのか?
「魔力が足りません!余裕がある人は私に魔力を分けてください!」
足りてなかった。
魔力を分ける…イリスにやってもらったあれか。
その声で正気に戻った人たちは集まり、魔力を渡す。
全速力で進む船はやがてセイレーンを置き去り、歌声は聞こえなくなった。
おおよそ危険が無くなったと判断したアメリアが皆に激励の言葉を発する。
「よくやったテメェたち、だが油断はするなよ。まだ他の危険もある。それが海だ」
アメリアの声で身が引き締まる。
全体的に魔法に耐性のある魔法使いたちが代わり番で見張りをし、他の人たちは緊急時に備え休むことに。
ということで俺の番が来た。
ぶっちゃけ夜の海は怖すぎる。
セイレーン以外にもクラーケンとかの化け物が現れたら死ぬ自信がある。
神様、どうか助けてください。
というか人数がだいぶ減ったな…。
アメリア曰く、本来はここまで大きな損害は出ないとの事。
今回がイレギュラーらしい。
特にやることもなくぼーっと空を眺める。
人工的な光のない空には星が輝いている。
すると誰かが近づいてきた。
「あなた、生きていたんですね」
先程大きな魔法を使っていたザンダーだ。
というか失礼だな。
結構死にかけたぞ俺。
「まぁ何とか。昨日今日で2回死にかけましたけどね」
「あなた、本当に冒険者ですか?」
「え?」
「人を殺す覚悟もなければ、セイレーンについても知らなさそう。私に言わせてみれば無知のそれです」
はい、ご名答。
俺はなんと転生者です!
なんて言えることもなく、笑って誤魔化すしかない。
というかアメリアと違ってかなりズカズカと踏み込んでくるな。
まぁこっちが普通の反応か。
命のやり取りもかなり軽そうだし。
正直、冒険者のことを舐めていた。
異世界転生なんて聞こえはいいが、内容的には死んだあといきなり知らない世界に飛ばされて、そこではい頑張って!と言われているようなものだ。
そう考えると酷いな。
転生ボーナスもなんもないし。
「別にあなたが死のうが私には関係ありません。ですが、目の前で死なれるのは不愉快です。覚悟がないのであればやめなさい」
そういうと別の人のところへ行ってしまった。
やっぱりザンダーはいい人だな。
とはいえ冒険者以外の道が思いつかないし、頑張るしかないが。
いつか人を殺さなきゃいけなくなった時、その時は覚悟を決めよう。
ここはそういう世界なのだから。
その後警戒状態が続いたまま夜が明ける。
2日目は何とか終わり、3日目の船旅が始まった。
とは言っても、既に大陸が見えていた。
全員が安心したのか緊張の糸が切れ、疲労がどっときた。
船が大陸に近づき、止まる。
どうやら着いたようだ。
こうして、俺たちの長いようで短かった船旅が終わった。




