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22.海賊と覚悟

だんだんと近づいてくる船を見れば、かなりの大きさの船だとわかる。

あの大きさであのスピード、やばくね?


「ユージ、酔いは大丈夫?」

「大丈夫、それよりあれって…」

「海賊、船の物資を奪いに来たんだと思う」


海賊…あれだ、アメリアが言ってたな。

マジで来るとは…。


近づいてくる船をよく見ると何人もの海賊と思わしき奴らが既にスタンバっている。

どう考えても殺る気に溢れている奴らに少し気圧される。


「取った首の分だけ報酬アリだ!テメェら!死ぬ気で守れ!」


アメリアの声で冒険者たちの士気が上がる。


歩合制なのか。

それなら俺もちょっと頑張るか。

ここで稼いでおけばこの先の旅路がかなり楽になるしな。


海賊船が船に体当たりをし、そのまま乗り込んでくる。

冒険者以外の乗客は既に中に避難しているため、戦場は船の上。

中に侵入されないように警備している人もいるし、そっちはあんまり考えなくていいな。


「…ユージ、本当に大丈夫?」

「?何がだ?」

「いや、大丈夫ならいいけど…」


ミントが何を心配しているかいまいち分からなかったが、とりあえず向かってくるやつを倒すことにしよう。


そう考えていると2人、海賊がこちらに向かってくる。

女を狙ってきたといった感じか。

俺の方ではなく、ミントの方を狙っている。


「死ね!」


海賊のひとりがミント目掛けてナタのようなものを振り上げる。

ミントはそれを回避しながら右足のアキレス腱を斬り裂く。

鈍い悲鳴をあげながら倒れ込む海賊の頭に容赦なくナイフを突き刺し、ミントは1人を殺した。


…そうじゃん。

海賊って人間じゃん。

魔物じゃない。

それって、殺人をしないとってことだろ…?


「ユージ!避けて!」


ミントに勝てないと悟ったもう1人の海賊が俺に対して攻撃してきていたらしい。

目の前の人の死を受け止めきれず、ミントの声に反応するのが遅れた。

振り下ろされたナタが頬を掠める。


痛い。

血が流れてる。

死を感じることは何度かあった。

オーガに襲われた時とか、オークと1対1で戦った時とか。

でもこれは違う。

相手が人間なんだ。


「ユージ!」


緩んでいる隙を突く海賊。

足が動かない。

死にたくない、けど、恐怖が勝つ。


「サンダーバレット!」


雷の小さな弾が海賊を貫いた。

血が飛び、倒れる。

助かったという気持ちより、目の前の人の死が怖い。


「次は助けませんよ!戦えないならさっさと逃げてください!」


直前で助けてくれたのはサンダーだった。


ザンダー、お前やっぱ良い奴だな。


この世界に来て、魔物は何体も殺したけど人間となるとかなり話が変わる。

ゲーム感覚でゴブリンとか殺してた。

けど、海賊は同じ人間で、それを殺すのには抵抗がある。


「ウォーターブロー」


アメリアも戦っているようで、海から生やした水の腕で海賊たちをまとめて蹴散らしている。

戦況は圧倒的にこちらが有利。

それでも、動けなかった。


「引け!引くぞ!」


海賊が撤退していく。

結局俺は、海賊の誰ひとりとして怪我すらもさせられなかった。

ミントは3人くらい殺していたし、ザンダーは5人くらい殺していた。

元いた世界の常識とは違う。

殺さなければ殺される。


「オエッ…」


本日2度目の嘔吐。

船酔いじゃない。

現実に対する恐怖と畏怖。

怖い。


「ユージ、大丈夫?」

「…ごめん、ちょっと…1人にして」

「…うん、わかった」


海賊が去り、夜になる。

静かな海に波の音だけが響き渡る。

夜風が頬を撫でていた。


「おい、風邪引くぞ」


声の方を見ればアメリアが立っていた。

操縦はどうしたんだ?って思ったけど、今は他の人と交代しているらしい。

寝る前に夜風に当たりに来たとのこと。


「…そのですね…」


星が輝く夜。

先程の海賊襲来で海賊以外に冒険者も何人か死んでいた。

それがこの世界なんだろうと思う。

けど、それは受け止めきれない。


誰かに吐き出せば、少しは楽になると思った。


「なるほどな…まぁ人を殺すってのに抵抗があるのはわかる。だが、相手も殺しに来てるんだ。死にたいならそれでもいいかもだが、死にたくないなら覚悟を決めろ。賊もゴブリンも大した差はねぇよ」


そういうとアメリアは船の中へと去っていった。


励ましてくれた…のかな?

まぁそうだな…覚悟はしないと。


夜が明け、朝日が昇る。

水平線に見えるその景色は、元いた世界でも見ることのできた景色だ。

もっとも、水平線というところが違うが。


「なんだ、テメェも朝日を見に来たんか」


アメリアが声をかけてきた。

まぁ人の死を目の前で見て寝る気になれなかったから起きてたんだけども。


「綺麗だろ?」


確かに、綺麗だ。


「俺はコイツに惚れた。コイツを見るために、船に乗ってるって言っても過言じゃねぇ」


きっと、アメリアは心の底からこの景色に惚れたんだろう。

言葉だけで伝わる想い。

想いはきっと、対象が何であれ関係ないのだろう。

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