116.決戦、それぞれの役割を
夜は冷える。
雪国なんだ、当然だ。
「この作戦で明日の朝、あの場所にもう一度行く。なにか異論があるものは」
「はい、ある」
イリスが手を挙げる。
作戦の内容になにか問題があるのか?
「私、悲しくなかったの。初めてお父さんとお母さんのお墓を見た時。あんまり知らなかったからだと思う。でも、おじさんがいなくなって、悲しかった」
両親が死んでいると改めて理解した時、大して悲しくなかった。
だから、家族が死んでも別に辛くないと思っていたらしい。
…これがなにか関係あるのか?
「誰も失いたくない。だから、リアムはユージ達と行って、先に」
「…何言って…」
「ロメリアは私がひとりで倒す」
無茶だ。
勝てるわけが無い。
そんなの…。
「自殺行為だ」
「それでも、私がひとりで戦う」
「負けるとわかって残すわけないだろ!」
「リコリスが戦えても、邪人を抑えられる可能性は低い。なら、イリスが残り、私が奥について行くのはアリだ」
何言ってんだこいつ。
アリなわけないだろ。
1回対峙したからわかる。
あれに1人で勝つのは無理だ。
「でも!」
「ユージ、信じて」
「っ…」
俺は最低だな。
自分は頼れとか言っといて、人は信じない。
「条件がある」
「なに?」
「絶対に生きろ」
「わかった」
仇討ちしたいって気持ちがあるかはわからない。
でも、今は信じよう。
この小さな戦士を。
「なら、作戦を立て直そう」
「それなら俺に提案があるんだが…」
そんなこんなで一通り作戦を立て直し、今日はゆっくり休むことになる。
明日か。
最悪の場合、世界が終わるんだもんな。
それに増援も期待できない。
数日でここに来れるのはSランクくらいだが、ゼノンがいるから干渉ができないのもあるらしい。
俺たちだけで、何とかしないと。
「ユージさん、寝れないんですか?」
「そういうフロストこそ、寝れないのか?」
こうやって2人の夜は久しぶりだな。
前は洞窟だったっけ。
懐かしいな。
「…クレイブとリリアの件は、災難だったな」
「そうですね。なんで私だけ生き残ってるんだって思ってます」
「それは…」
「励まそうとかしなくて大丈夫ですよ。私には、私の役割がありますから」
やっぱり、フロストは強いな。
「そういえば、ルビアと会ったんですね?」
「あぁ、会ったぞ。めちゃくちゃいい子だった。誰かさんと違ってな」
「失礼ですね。私とよく似ててとてもいい子、と言っていただきたい」
なーに言ってんだこいつ。
人の魔法を見て鼻で笑うようなやつとは似ても似つかないめっちゃいい子だったぞ。
同じ血が流れてるとか考えられないわ。
「この戦いが終わったら、会いに行こうと思ってます。大切な人とは会える時に会うべきだと気が付きましたからね」
「そのセリフ、めっちゃ死亡フラグっぽい」
「死亡フラグ…絶対良くないものだってことはわかりました」
「正解」
そんなバカみたいな話をして、笑った。
しょうもない話をして笑った。
疲れていたのかすぐに寝落ちしてしまったらしい。
気がついたら朝になっていた。
「行こう」
色々準備を終え、この前の場所に行く。
大きな音が聞こえてくる。
多分、ゼノンとムクの戦闘音だろう。
ずっと戦っているのか、あいつらは。
結界は張っておらず、どうぞ入ってくださいと言わんばかりの洞窟が佇んでいた。
「随分早く戻ってきたね。死ぬ準備が出来たの?」
待ってましたと言わんばかりに1人の邪人が佇んでいる。
そして、その後ろには邪人が何体もいるようにも見えた。
「スノーゴーレム」
リアムがそう言うと雪のゴーレムが何体も生成される。
「イリス、あの真ん中の女は頼んだ。周りの雑魚は私のゴーレムが対処してくれる」
「ありがと、行って」
その声とともに奥へと走り出す。
当然、ロメリアは俺たちの進路を妨害しようと蔓の壁を作った。
「サンダーランス」
雷の槍が蔓を突き破り、奥が見える。
奥へと走る。
後ろではスノーゴーレムと邪人たちがやり合う音が聞こえる。
「信じよう。彼女は強い」
「…わかってる」
しばらく進んでいると無数の邪人が奥から来るのがわかる。
どうやら俺たちを迎え撃つために来たヤツらのようだ。
「先に行け。こちらが片付き次第、私も奥へ向かう…スノー」
その言葉と共に一面に雪が広がる。
雪を操る魔法使い、リアム。
洞窟の中とはいえ、さすがは歴戦の猛者、雪を生成することで操る雪を作り出す。
雪にはあまり強いイメージはなかった。
だが、そんなのは間違いだとすぐに分かる。
固められた雪は岩と遜色ないほど固く、邪人を貫いている。
ここは彼女に任せて先に進もう。
奥へと進んでいくとどんどん道が整備されていくのがわかる。
明らかにただの洞窟じゃない。
異質だ。
そんなことを考えながら進んでいくと扉があるのがわかる。
ヒデラという邪人はこの先にいるのだろう。
「リコリス、リアーシ、フロスト、作戦通りに」
「…わかった」
「気をつけてくださいね」
扉は固く、おそらく鉄製だろう。
魔法剣に魔力を込め、斬り裂く。
開かれたその部屋には、1人の男が立っていた。
「全く…彼女はやはり、僕を消したいようだな…」
男はそういいながらこちらに向き直る。
「初めまして侵入者」
「お前が、ヒデラだな」
白い白衣を着て、片手に本を持っている。
既視感があるな、この部屋は。
「君1人かい?」
「さぁ、どうだろうな」
リコリスは魔力がそもそもない。
だから、そのマントをフロストに渡してもらった。
それに、準備がある。
なるべく時間を稼ぐ。
「目的はなんだ」
「ロメリアから聞いていないのかい?僕の目的は魔族の時代を築き、魔王様の世界をこの世に顕現させることだ」
何度聞いてもゴミみたいな目的だな。
そもそもリコリスはそんな世界望んでないし。
本当に自分勝手のカスだな。
「そのために人を殺すのか」
「誰のことを言っているのか分からないが、死んだということは新世界には必要ない存在だったってことだ。仕方の無いことだよ」
こいつは生かしてはいけない。
ここで殺さないと。
俺の全てを、出し切って。




