108.未来のために
プロミネンスって王級魔法だよな。
それを無傷で受け止めてるってやばいな。
それに、光の盾。
あれはライトウォールだ。
リアーシやルヒターが使っていた光属性の魔法。
つまりあいつは聖職者なのか?
「喋るつもりは…」
「エルダだ。Cランク冒険者」
「…」
「いいじゃねぇか。目的が知れる分には御の字だし、ゼノンの旦那が来るまで時間稼いだ方が堅実だろ?」
それを聞かれたら意味無いのでは?
「…イリス、Aランク冒険者」
「ユージ、Cランク冒険者だ。…お前たちの目的はなんだ」
魔力を感じ取ってわかったことがある。
こいつ、人間じゃない。
鑑定できないからなんとも言えないけど、人間に擬態してるとかか?
「たちってまとめられると、ちょっと答えに困るね。私の目的は全ての種族の進化、ヒデラは魔族の時代を築くこと、ムクは強者と戦うこと」
3人の人物が何かをしようとしてるってことだな。
多分、奥に行ったやつがそのヒデラってやつだろう。
「そのために、俺の弟子を唆しやがったのか…!」
「エルダ、落ち着け。さっきと言ってることが全然違うぞ」
「…悪りぃ、取り乱した」
取り乱すのも無理はない。
とはいえ、今は時間稼ぎが最優先だ。
大丈夫、ゼノンはSランク最強なんだろ。
ならすぐに戻るはず。
「弟子って誰のこと?あのジュシームのお姫様じゃないだろうし…最近の子しか覚えてないや」
ジュシーム?
まさか、違うよな。
…時間稼ぎのためだ。
真実を暴きたいとかじゃない。
「ジュシームって、お前、何したんだよ」
「可哀想な女の子がいたから、生きやすいように教えてあげたの。種として進化をする、花を食べるように」
ゼノンの言葉が、何故か脳裏に浮かぶ。
『最悪の場合命を狙われることだってある』
そんなわけ、ないよな。
『でも追っ手ではないのでしょう?』
じゃあ、こいつのせいなのか。
『追われている理由以外なら教えてやる』
…あの後、俺は後ろを振り返らなかった。
でも、何となく最後はわかってた。
落ち着け、冷静になれ。
今じゃない。
「じゃあ、私が質問していい?あなた、人間?」
「人間と同じに見える?私はね、人間を超えた、未来の可能性なの」
なんか熱弁しだしたな。
長ったらしいので要約すると…。
1、邪人化は種の進化である。
2、私は邪人化したけど理性あるが?
3、今まで邪人化を促したのは導いてあげただけだ。
4、あなたたちも邪人にならない?
との事。
ちなみに邪人ってのはセラエムが言っていたもので、ロメリアは新人類と言っていた。
ふざけやがって。
「私はね、あなたたちの未来の可能性を信じているの」
「ウザイよ、そういうの」
ビリビリと空間が揺れる。
イリスから雷の魔力が流れ出ているようだ。
「もう、お話はおしまい?」
「待てイリス、ゼノンが来るまで…」
「それと、あいつはもうここには戻らないわ」
それと同時に大きな音が外から聞こえてくる。
まだ戦闘が長引いているのか?
そう思っていると、ムクというやつについて話し始めた。
ムク、邪人の中でヒデラという人物に改造を施された化け物。
ヒデラの持つ闇属性の魔法とロメリアの持つ光属性の魔法を兼ね備えた劣化版ゼノン。
劣化とはいえゼノンなんだ。
ほとんど無限の魔力を生み出す2つの混沌、それらの戦いに決着がつくのか?
「…何をしようとしてるの?」
「さっきも言ったでしょ?私は、全ての種族の進化を望んでいるの」
「魔力が…集まってる」
「どういうことだ?」
どうやら外の2人の戦いで溢れ出た魔力がこちらに集まってきているらしい。
魔力を集めて何かをしようとしているのか。
何はともあれ、ゼノンが戻ってこないならやるしかないな。
「やるぞ、イリス、ユージ」
「了解」
「わかった」
剣を取り、魔力を込める。
多分、俺は足でまといだ。
それでも隙を作るくらいはしてやる。
デーモンロードにも抗えた。
やるぞ。
「サンダーランス」
イリスの放つ無数の雷が戦闘の始まりを告げた。
槍の形をしたそれは光の盾に阻まれる。
先程プロミネンスを阻んだ時にも思ったが、かなり魔力を込めているのだろう。
「おいおい、こっちは無視かよ!」
エルダが背後まで近づいていたようで、ロメリア目掛けて拳を振り下ろす。
無視かよって言ってるけど、結構隠密で動いてたよな。
「ファイアランス」
前からは火の槍、後ろからはエルダの拳、避けられないだろう。
そう思った。
直後、目にしたのは無数の花だった。
蔓がロメリアを囲っている。
なんだあれは。
魔法…なのか?
魔法には基本属性がある。
火、水、雷、土、風。
ファンレンが使ってた泥は水と土を合わせたものだと思ってた。
なら、これはなんだ?
「花を操る魔法…?」
「正解」
無数の蔓が鞭のようになりこちらに飛んでくる。
「ストーンエッジ」
イリスが岩を生やしてそれを受け止めようとする。
しかし、その勢いを相殺することはできず、モロに喰らう。
吹き飛ばされた時、俺はエルダに受け止めてもらえた。
イリスの方は魔法で衝撃の瞬間を和らげたらしい。
「ファイアランス」
すぐに体勢を立て直したイリスは火の槍を生成する。
それに合わせてエルダがロメリアへと向かっていく。
下手に攻撃範囲に入るとエルダの手を煩わせてしまう。
なら、距離を取ってファイアアローで隙を作ろう。
火の槍を蔓の鞭で相殺する。
それとほぼ同時に来たエルダの拳を光の盾で止める。
「ファイアアロー!」
隙を突いて火の矢を放つが、それも蔓の鞭により相殺された。
それによりできた隙をイリスは見逃さない。
「プロミネンス」
炎の鞭がロメリアを襲う。
ライトウォールは間に合わないはず。
花が火に強いイメージはない。
なら…。
そう思った瞬間、エルダが吹き飛ばされ、イリスにぶつかる。
「エルダ!イリス!」
急いで駆け寄るが、受け身が間に合わなかったようだ。
足音が聞こえ、振り返る。
どうやらロメリアがこちらに歩いてきている様子。
その姿を見て、絶望する。
直撃したはずだった。
防御できても蔓だけだったはず。
なんで、無傷なんだよ。
「2人とも、動けるか?」
「だい、じょうぶ」
「…悪りぃ、俺のせいだな」
イリスの腹から血が流れてる。
よく見れば後ろの岩が背中に刺さっているようだ。
「ライトアロー」
ゆっくりと歩いてくるそれは、光の矢を放ってくる。
「っ…ファイアランス」
ギリギリでイリスが相殺したが、明らかに威力負けしている。
それに、これ以上動けば出血で…。
「まだ、大丈夫。やれる」
「…次でラストだ。ダメだったら逃げろ」
エルダが咆哮をあげる。
この前見た挑発と威圧の同時発動だろう。
しかし、あまり意味を成していないように見える。
ロメリアはゆっくり、こっちに近づいてくる。
「サンダージェイル」
雷の檻が進路を限定し、逃げられないようにする。
「サンダーランス」
雷の槍をイリスが放つと共にエルダが突進する。
光の盾が生成され、それらの行く手を阻む。
しかし、重ねられたサンダーランスは光の盾を貫通する。
それをわかっていたかのようにエルダは拳をロメリアに振るう。
それすら受け止められてしまうことを除けば完璧な作戦だっただろう。
花を操る魔法。
蔓がエルダを掴み、投げ飛ばす。
「エルダ!」
「ライトアロー」
光の矢がイリスを貫く。
どこに刺さったかは定かじゃない。
でも、当たっちゃダメなところに当たった。
どうする。
どっちに行けばいい。
ちがう、どっちも助けろ。
俺に何ができる。
こいつを倒す?
無理だ、できるわけが無い。
2人を連れて逃げる?
できるのか、俺に。
「ユージ、頼む」
エルダが肩に手を置き、話しかけてくる。
また、こうなるのか。
俺が弱いから、こうするしかないのか。
「…まだ、戦える…大丈夫…」
「3分で逃げれるか」
「わかった」
あの時と同じだ。
俺が弱いから。
俺のせいだ。
俺が強ければ。
イリスを抱えて出口まで全力で走る。
俺だけ傷が少ない。
俺のことを危険とすら思っていないのだろう。
「待って、ダメ…」
エルダの背中が、ハーデンと重なる。
ごめん、エルダ。
「パパ!」
イリスの悲痛な叫び声が、洞窟に響いた。
ユージとイリスが居なくなった洞窟で、2人が対峙する。
ロメリアがゆっくりと口を開く。
「へぇ、優しいね。2人を逃がしてあげるなんて。感動したから、2人とも殺しに行ってあげる」
「はっ、させねぇよ。俺の全てをかけてな」
イリス、大きくなったな。
こいつらを止めるにはお前の存在が必要不可欠だと、俺は思った。
ユージ、お前はタフトに似ている。
弱いところとかも含めてだがな。
きっと、お前たちがいれば大丈夫だと信じてる。
あの時の罪を、償いを、ここで…。




