フウはドシスコン
今、カエデがお風呂に入っている。
カエデの風呂中に凸って一緒に入ることも考えたが、そんなことをするとカエデに嫌われてしまうかもしれないのでそんな考えはすぐに取り消した。
特にやることがなく、ベッドの上にゴロゴロと転がる。こういう時にふと目を閉じるといつの間にか寝てしまって、朝の五時くらいに目が覚め、めちゃ慌ててお風呂に入って歯磨きをする。という前科が多々あるので、部屋の外に出て共用テーブルに座る。
適当な小説を持ってきて読んでいると、浴室のドアが開く音がした。
少しすると、ドライヤーの音が聞こえてきた。多分、服は着ているので洗面所のドアを開ける。洗面所のドアは子供のころ色々やってたからか、元からかはしらないが、鍵をかけてもクルッと回せば、外から開けられるようになってしまっている。
「あ、お姉ちゃん」
「お風呂入るね」
「そんなに早く入りたかったの?」
鍵を開けてまで入ってきた私に違和感を覚えたのか、カエデが言う。
「暇だったから」
質問に答えると、カエデはふぅん。と言い、ドライヤーをもって洗面所を出ていった。
誰もいなくなった洗面所で私は、服を脱ぎ、タオルをもって浴室へ入る。
いつも通り、タオルを左上の棒に掛け、頭から洗っていき、スキンケアも忘れずにする。全て洗い終わり、頭から水を流してタオルでふく。洗面所に出て、パジャマに着替える。
ドライヤーを探すが見当たらない。多分、カエデが私の部屋に持っていき、そのまま私の部屋に置いてあると思う。
私は、洗面所を出て自分の部屋へ行く。
「カエデ、ドライヤーある?」
「あ、ごめん。ここにある」
「じゃあついでに、久々に髪やってよ」
昔はよく私がカエデの髪を、カエデが私の髪を乾かす事がよくあった。最近はあんまりなかったが久々にやってもらいたくなった。
「…適当でいいなら」
「いいよ」
カエデは優しいので、こういう頼みは大体聞いてくれる。キスでさえしてくれるのだから、本当に優しい。
カエデが、机の上にあったドライヤーをコンセントに挿し、ベッドの上に座る。私はその足の間に入り、ベッドを背もたれにして座る。
「それじゃあ、お願いしま〜す!カエデさん!」
「なんでそんなにテンション高いの?」
少しテンション高い自覚はあったが、カエデが見てわかるほどにテンションが高かったらしい。流石にちょっと恥ずかしい。
「髪を乾かしてもらうの久々で、ちょっと楽しくなちゃった」
「そんなに嬉しい?」
「カエデとのスキンシップはだいたいなんでも楽しいからね」
「シスコン」
カエデにド正論を言われてしまった。ド正論にはド正論返しだ。
「カエデもね」
「お姉ちゃんほどではないから」
「シスコンってところは否定しないんだ?」
「…」
カエデが無言でドライヤーをつける。私と違い、堂々とシスコンというのが恥ずかしいらしい。
カエデも私と同じくらい髪が長いからか、慣れた手つきで髪を乾かす。長い髪は自分でやると面倒くさいが、カエデにやってもらうと何だが気持ちよく、この時間が長く続けられる長い髪で良かったと思う。
「カエデ髪乾かすの上手いね」
「別に、髪の長さ同じくらいだし。それにそこまで上手くない。普通」
「じゃあカエデ補正だね。」
「なにそれ」
「カエデがやったことは、普通のことでも私にとっては普通以上になるってこと。」
「ドシスコン」
また言われてしまった。しかも今度はドがついている。まぁ、でも、別に隠しているわけではないので問題はない。
「はい、終わったよお姉ちゃん」
「ありがとう。カエデ」
心なしか、私の髪の毛がいつもよりもふわふわしているような気がする。
「やっぱいつもより髪ふわふわに感じる」
「気のせいでしょ。」
自分のおかげとは、頑なに言わないし認めない。相変わらず自己肯定感が低い。
「まぁいいや。で、これから何する?」
「う〜ん…今何時だっけ?」
私の部屋には時計が置かれていない。理由は大したものではなく、夜更かししてアニメを見たりしている時に時計がちらつき、2時とか3、時だとかが見えると気分が落ち込むからである。
私が本当は自堕落だということはカエデに知られているので別に気にしないが、それにしても本当にしょうもない理由だ。
スマホを手に取り時間を見る。ご飯を食べた時間が8時で、それからアニメを見たり、お風呂入ったりして今はもう10時過ぎだった。
「10時15分くらい。」
「まだ寝るのには早いかな?」
寝る時間なんて適当に決めて寝ちゃえばいいのに私に聞いてくるということは…今日は一緒に寝たいって事だ(と思う)。
「今日は一緒に寝るの?」
「うん。」
「急だね」
「嫌なの?」
「そんな訳ないじゃん」
私がカエデに、一緒に寝るのを誘われて嫌なわけがない。嫌だと思ったこともないし、この先嫌だと思うことがあるとも思えない。
「なんで今日は一緒に寝るの?」
「ただ私がそういう気分だったから。何となく一緒に寝たかっただけ。」
時々カエデは一緒に寝ようと誘うことはあるが、本当にごく稀だ。何か嫌なことでもあったのではないか、と心配になるレベルで稀だ。
「今日学校で何か嫌なことでもあった?」
「ない」
「明日企業説明会に行くのが嫌だから?」
明日は「ガラスの王宮」というホテルで企業説明会があり、そこまで歩いて行く必要がある。他の生徒はほとんどが自転車なのだが、私たちは家が近くて歩き登校なので、30分くらいかけて歩いていかなければならない。
運動が苦手なカエデからしたら苦痛そのものなのだろう。運動が好きな私でさえも少し憂鬱なのだから。
「確かに嫌だけど、それが理由じゃない。というか理由は無い」
違かったらしい。と言うか本当に理由は無いらしい。
「じゃあ、何か怖いものでも見た?」
「見てない」
「本当に何も無い?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
「何となく寝たかっただけ?」
「うん」
「一緒に寝ながらキスしていい?」
「うn………ダメ」
惜しい。あと少しで寝ながらキスをする権利を手に入れられる所だったのに。
「急に何言ってるのお姉ちゃん。変なこと言ってないで。もう寝よ。」
「まあ、いいよ。カエデが壁側?」
「どっちでもいいよ」
ベッドは普通にシングルベッドなので、2人で寝ると流石にきつい。が、落ちないように壁側に押すように寝ると、結構スペースが余るので2人で寝るのに困るほど狭いという訳でもない。
「じゃあカエデが壁側で。私が外側で寝るよ。」
「分かった。」
一瞬迷ったが、いつも通り、カエデを壁側にする事にした。理由は、私がカエデとくっつく為に押しても逃げられないし、思う存分カエデを堪能出来るからだ。
「じゃあ先に布団入るね。」
カエデが布団に入る。そして、毛布を捲ってスペースを開ける。
「はい、ここ。入って」
カエデが、ベッドを軽く叩いて言う。私はこの瞬間も何だか高揚感?が溢れて好きだ。いつもカエデを壁側にしてるのは、この瞬間の為、というのもある。
「ありがとう。」
布団に潜る。電気を消すために右を向き、机の上にあるリモコンを取り、電気をオレンジの、常夜灯にする。そして、ポッケに入れてあったスマホを机の上に置き、タイマーを設定する。
「お姉ちゃん。こっち向いて」
後ろを向こうと思った瞬間に、カエデが言った。いつもはそんな事言わない。何より、すぐに私が後ろを向くって分かっているはずで、それなのに言うということは相当私に後ろに、カエデ側に顔を向けて欲しかったのだろう。
「そんな事言われなくても、向くに決まってるでしょ。」
「いいから、はやく。」
私は、言われるがままにカエデ側に顔を向ける。すると、その瞬間にカエデが私を引っ張って、抱きついてきた。
「ど、どうしたの?カエデ」
「何でもない。ただ今日はお姉ちゃんにくっつきたかっただけ。」
私の胸に埋もれながら言う。甘えるモードのカエデは昔の、寂しがり屋だった頃のカエデによく似ている。
「お姉ちゃん…」
「ん〜〜!可愛いね〜カエデは〜!」
私の胸元で、お姉ちゃん、と囁いているカエデに対して可愛いが限界突破してしまい、私は全力で、超全力で、全ての愛を込めてカエデの頭を撫でる。
すると、カエデは気持ちよさそうにお姉ちゃんと囁く。私はそれが嬉しく、優し〜く、愛を込めて、頭を撫でる。
「お姉ちゃん…柔らかくて気持ちいい」
「…柔らかい?……」
多分、深い意味はないのだろうがそれでも、柔らかい、と言われると太ってるのかもしれない。と思ってしまう。
食べ過ぎてはないはずだし、運動もちゃんとしてるし、大丈夫なはずだけど…
「…私もしかして肉出てる?」
「ん?…ううん。そういう意味じゃないよ。」
「良かった…」
「ただ、お姉ちゃん自体が柔らかくて、抱き心地がいいってこと。抱き枕として最高品質。」
抱き枕として扱われているのに少し不満は感じるがそんな事よりも、カエデにギューッと抱き締められてる嬉しさの方が何億倍も強い。
どういう所が柔らかいのか、どういう所が抱き心地がいいのかは分からないが、カエデに抱き心地がいいと思われる体に生まれて良かったと思う。
「…おやすみ。お姉ちゃん」
「おやすみ。カエデ」
本当はここでキスをしたいし、足も全力で絡ませたいと思うが、今はまだ早い。いつかそういう日が来てくれる事を切に願いながら目を瞑り、眠気に身を任せる。