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ルール決め

 そんな色々な事があって、今に到る。

 あの時からもう何回かキスをして、お姉ちゃんとキスをすること自体には慣れてきている。いつも通りキスをして、お姉ちゃんはベッドの上で、私は、ベッドを背もたれにして、目の前に小さな机が来るようにして座っている。


「もう一回。いい?」


 ベッドの上で小説を読んでいたはずのお姉ちゃんが言う。

 お姉ちゃんが強請る《ねだる》ように言う。さっきキスをして、今は同じ部屋で漫画を読んでいたのだが、まだしたりないらしい。

 お姉ちゃんがもう一回を強請るのは今日が初めてではない。

 私は、手に持っている小説にしおりを挟み、目の前にある机の上に置く。


「お姉ちゃん、そういうの多くない?」

「え〜だって、一回じゃ足りないんだもん」

「…決まり《ルール》も曖昧だし、ちゃんと作り直せば?」


 これは断じて私がお姉ちゃんとキスをしたい、というわけではない。不明確な決まり《ルール》はイザコザを生むだけでそういう負の原因は消しておいたほうがいいからだ。


「…いいの?」

「決まり《ルール》は明確であった方が良いからね」


 そう、決まり《ルール》はできる限り明確であったほうが間違いも起きないし、問題も起きない。決まり《ルール》の穴をつくような行為自体は賢くて好きだが、そういうのは見つけるのが楽しいのであって、やられるのは嫌だ。だからこそ、決まり《ルール》は明確であるべきなのである。


「ふ〜ん」

「何?」

「別に〜?」


 お姉ちゃんがニヤニヤしながら言う。


「いいから、早く決めて。」


 話が逸らすために、急かすように言う。


「ん~、じゃ〜あ…私がしたい時にする、とか?」

「それじゃ不明確なままじゃん。」

「え〜私がしたい時、って何よりも明確じゃん」


 お姉ちゃんが屁理屈をねる。こういう子供っぽいお姉ちゃんは可愛くてだいすきだが、今やられると困る。


「屁理屈言わないで、ちゃんと決めて」

「じゃあ一週間に1日か2日、私の部屋にいるときは、でいい?」


 お姉ちゃんの部屋は私の部屋よりも居心地がいいから、お姉ちゃんの部屋でというのも全然いいし、1日か2日というのも多すぎなくてちょうどいいと思う。

 多分


「いいよ。それで」


 私が合意の意を示し、再び小説に手を取り栞を取って読み直そうとしたら、お姉ちゃんがベッドから降りてきた。そして、何も言わずに私の隣に来てこっちを見ている。


「どうしたの?お姉ちゃん」


 開きかけの小説を目の前の机に置き、お姉ちゃんに視線を合わせる。


「いや、ルール的に今ってキスしていいんだよね?」

「…え?」

「だって今日はキスする日だし、ここは私の部屋だもん。」


 言われてみれば確かに今キスをするのはルール的にはおかしくない。…が、ルールを決めたのは今日だし、何より、今日の一回、はもう使われて、その効果は失われているはずだ。


「いや、ルール作ったの今日だし…」

「新しいルールにはすぐに適応していかないと!ほら、していいでしょ?」

「…………」


 確かに、ルールには慣れておいたほうがいいというのも、それはそれで理にかなっている。そもそも、一回するくらい今更どうってことない。


「分かった。いいよ」

「やったー!」


 お姉ちゃんがグイっと距離を詰める。お姉ちゃんの左手が後頭部を包み、右手で唇を撫でる。

 そのまま顔が近づいて来て、いつも通り、私は目を瞑る。目を瞑ってからすぐに唇に柔らかい感触が当たり、体全体がポカポカして、暖かくなる。


 お姉ちゃんがめちゃくちゃキスをしたがるのがわかるくらいには気持ちが良い。お姉ちゃん意外とはしたことがないので、キスが気持ちがいいのはお姉ちゃんとだからなのか、はたまた誰でも気持ちいいものなのかはわからないが少なくとも、お姉ちゃん以外とキスをしたいとは思えない。


 そんなことを考えていたら、唇から柔らかい感触が消える。名残惜しい気もするが、そろそろ息が苦しくなってくるところだったので仕方がない。


 そう思い、目を開けようとした瞬間、唇に柔らかい感触がした。驚いて目を開けると、きれいな顔の、目を瞑っているお姉ちゃんがいた。どうやらお姉ちゃんは唇を離した瞬間、もう一度キスをしたらしい。

 とっさのことだったので息もうまくできておらず、酸素不足で苦しくなってくる。私は、お姉ちゃんの肩を押し、体の距離を離す。


「ちょ、お姉ちゃん。息、苦しいから」

「連続でしちゃいけないなんてルールないも~ん」


 お姉ちゃんが悪びれもせずに言う。


「とにかく、今日はもう終わりね。」

「え~?なんで?」

「なんでも。」


 あまり納得してなさそうな表情のお姉ちゃんをつれて、部屋の外へ出る。リビングに来たはいいものの、特にやることもなく、意味もなく椅子に座る。


「じゃあ夕飯でも作ろうかな。何食べたい?」


 言われてみれば、そろそろ夕飯を作り出してもいい時間だった。


「お姉ちゃんが食べたいのでいいよ」


 ご飯はだいたいお姉ちゃんが作る。私が作る時もあるのだが、お姉ちゃんの方が手際がいいし、お姉ちゃんの方が美味しく作れるから、お姉ちゃんが用事でいないということがない限り私が作ることは無い。

 お弁当もお姉ちゃんが作っている。親ではなくお姉ちゃんが作っている理由は、母親も父親も海外で働いていて滅多に家に帰ってこないからだ。


 小さい頃は海外で働いてはいなかったが、それでも両親は仕事で忙しく、家に帰ってくるのも夜遅くで私たちが寝た後だった。私は、寂しがり屋だったが、お姉ちゃんがいつも隣にいて、私のことを暖かく抱き締めてくれていたから、寂しさはあまり感じなかった。


「じゃあ、ハンバーグでも作ろうかな。カエデも一緒に作る?」

「作る」


 お姉ちゃんが料理を出来るのはお母さんから教えて貰っていたからだ。小学生の頃、お母さんもお父さんもあまり家にはいなかったが休みの日は時々いて、そういう日にお母さんから教えて貰っていた。


 私はと言うと、お父さんに遊んでもらっていた。お父さん曰く「妹はこういう時お父さんと遊ぶのが仕事なんだよ。」と言っていたが、お姉ちゃんと違って不器用だから、料理をさせたくなかったんだと思う。


 私たちが高校生になってから両者は海外で仕事をするようになり、それと同時にお姉ちゃんに料理を教えてもらい、何とかある程度はできるようになった。


 肉を捏ねて、ハンバーグの形を作る。

 …私は驚くほど少ない役目を終えた。これ以外は手伝うとかえって邪魔になってしまうから仕方がない。やることの無くなった私はお箸と、コップを用意した。

 そして、冷蔵庫からオレンジのイラストが貼り付けられている大きめの紙パックと、お茶のペットボトルを持ち、お姉ちゃんのコップにはお茶を、私のコップにはオレンジジュースを注いだ。


「あとは私がやるから、カエデは座ってていいよ」

「分かった」


 あとはフライパンでそれを焼くだけだ。この家にはフライパンは1つしかないし、あったとしても2人もフライパンを持って焼く程の広さは無い。何よりお姉ちゃんの方が私より圧倒的に焼くのが上手い。


 私は大人しくダイニングテーブルへ行って椅子に座りながらお姉ちゃんを見る。ダイニングテーブルといっても、リビングで使うテーブルと同じなので、リビングとダイニングの共用テーブルとなっている。

 料理をするお姉ちゃんの横顔はいつまでも見ていられる程に綺麗でやっぱり私とお姉ちゃんは本当に双子なのか、と何度目か分からない疑問を抱く。

 そんな事を考えていたらお姉ちゃんはハンバーグを作り終わり、ハンバーグとご飯を持ってきた。


「それじゃ、いただきます」

「いただきます」


 もぐもぐと食べ進める。お姉ちゃんの作るハンバーグは相変わらず美味しくて、思わず顔が綻ぶ。


「カエデはいつも美味しそうに食べるよね。」

「お姉ちゃんの作るご飯が美味しいから。」

「ありがとう。いつもカエデが可愛い顔をして美味しそうに食べてくれるから頑張れるんだよ。」

「別に、可愛くないし」


 可愛いのも、綺麗なのも、そういう言葉が似合うのはお姉ちゃんであって、私ではない。それなのに、お姉ちゃんは何度否定しても私を可愛いと言う。

 お姉ちゃんのほうを見ると、いつも通り綺麗な顔で綺麗にハンバーグを食べていた。

 いつも通りゆっくり食べていたら、いつの間にかお姉ちゃんは食べ終わっていて、じっと私を見ている。


「…そんなに見られると食べづらいんだけど。私の事見てるくらいならスマホでも見て時間潰せば?」


 お姉ちゃんは食べるのが早く、私は食べるのが遅いので、いつもいつも食べ終わってない私をじっっと見ている。

 お皿洗いは私とお姉ちゃんの2人でやることになっている。だから、先に食べ終わったお姉ちゃんはいつも私を待って、私を見ている。


「スマホ一人でやることなんて無いし、何より可愛い妹をずっと見てる方がよっぽどいい時間の使い方だし。」

「可愛くないから、あと、それならテレビ付けてアニメでも何でも見てていいよ」

「アニメよりカエデのこと見てたいし」

「いつでも見れるでしょ、私なんて」

「ほらほら、喋ってると食べれないでしょ。早く食べちゃいな。」


 こうなったお姉ちゃんは引いてくれない。もちろん、私が本気で嫌だと言えば辞めてくれるだろうが、そこまでの事では無いので言わない。


 最初はお姉ちゃんがご飯を作った時は私が洗う、ということになっていたのだが、二人でやったほうが効率が良い、という事で二人でやることになっている。


「ご馳走様。それじゃ、お皿洗いするよ、お姉ちゃん。」

「は〜い」


 ご飯を食べ終わり、私たちはキッチンでお皿洗いをする。流石にお皿洗いは手馴れたもので、お皿を割ったりすることは無い。


「この後どうする?お風呂入る?」

「ご飯食べた後だし、お腹いっぱいだから嫌だ」

「だよね。それじゃ、ゲームでもする?」

「いや、適当にゴロゴロ過ごす。」

「わかった。」


 ご飯食べてすぐのお風呂はお腹いっぱいで辛くなるから嫌だ。そしてゲームもそこまでしたい訳では無いし、何より今はゴロゴロしたい気分だ。まぁ、ゴロゴロしながらゲームをするときもあるので、ゴロゴロはオールマイティということだ(?)


「リビングでゴロゴロする?それとも私の部屋?カエデの部屋?」


 お姉ちゃんと私は各々一部屋ずつ持っている。お仕事で忙しい両親だが、それと比例するように、お金はたんまり持っていて、家も普通の家よりちょっと大きい。


 海外に行く前に高校生が管理出来ないレベルのお金を渡されている。それだけでなく、お風呂場やキッチン、ソファーやテレビ等、家具系も全て新品のものに変えられている。両親曰く、せめて住みやすいように、との事だ。


 小さい頃からたくさんのお小遣いを貰っていて、それと同時に両親にはお金の使い方をみっちり叩き込まれたので、お金を浪費するような事は決してしていない。

 私とお姉ちゃんで決めて、個人的なお金は毎月お小遣い制にしている。外食など、二人で使うお金用の貯金箱もある。


「…なんでナチュラルにゴロゴロする時間も一緒にいる想定?」

「嫌なの?」

「嫌ってわけじゃない。私もお姉ちゃんと一緒がいいから別にいいよ。」

「ふふ、知ってた」


 お姉ちゃんとゴロゴロする時間はなににも変えがたく、私の大好きな時間の一つなので、もちろん私だってごろごろする時間はお姉ちゃんと一緒にいる想定だった。


「で、結局どうするの?」

「じゃあお姉ちゃんの部屋で。」

「わかった。」


 そうして、お姉ちゃんの部屋へ行く。お姉ちゃんの部屋は私の部屋と似ていて本棚もあるし、テレビもあるし、机もある。部屋に入ってすぐベッドの頭が向いてる形になっている。そのベッドのすぐ横に小さいテーブルが置かれていて、便利な机となっている。だいたいベッドを背もたれにしてお姉ちゃんを隣に置いて座り、その机の上にお菓子やケーキ等を置き、アニメや映画を見たり、ゲームをしたりしている。


 ベッドは左の壁にくっついていて、その壁の先に私の部屋がある。私のベッドは右の壁にくっつく形になっていて、壁越しに私のベッドとお姉ちゃんのベッドがくっついてるようになっている。


 高校生になってから私たちは各々自分の部屋を作ったが、結局1週間のうち半分以上お姉ちゃんと一緒に寝ているし、寝ていない時もお姉ちゃんと一緒にいるのであまり関係ない。


「それで、ゴロゴロって言ってたけど何するの?」

「いつも通り。適当にアニメでも見る」


 そして、ベッドに腰をかけるようにして座り、テレビをつける。一緒に何かをする訳では無いので、お姉ちゃんはベッドの上に座る。

 そうしてアニメを2、3話見た頃、そろそろ満腹感も収まってきたのでお風呂に入るためにテレビを止める。


「あれ?どうしたの?」

「お風呂入る。お姉ちゃん先入る?」

「一緒に入ろ」

「入らない」

「別にいいじゃん。」

「狭いから嫌だ。そんなこと言ってるなら私先入るからね。」

「え〜、まぁいいけどさぁ…いつか一緒に入ろうね」

「気が向いたらね」


 そうして私はお風呂場に向かい、洗面所で服を脱ぎ、前髪をまとめて縛って浴室へ行った。

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