初めての友達襲来直前の朝
「…お姉ちゃ~ん…寝た~?……」
今日は色々あった。
お姉ちゃんの家に友達を呼ぶ宣言からの裸を見られ、横になりながらの私からのキス。
振り返ってみると本当に濃い一日で、さっきやった勉強内容が全てどっかに行ってしまいそうだ。
「お姉ちゃん…」
もうとっくにノンレム睡眠に入ってそうなお姉ちゃんに抱き着く。
本当はお姉ちゃんが起きてるうちにやりたかったが、ちょっと恥ずかしかったのと、ただでさえお姉ちゃんの勉強の邪魔をしているのに、睡眠の邪魔まではしたくなかったのでいつも通り、寝た後にちょっかいをかける。
お姉ちゃんは私と一緒に寝るときはめちゃくちゃ寝つきがいい。安心して眠れるからかどうかは分からないが、私からしたらこうやってお姉ちゃんで遊べるのでありがたい。
それにしても京香…梅木さんを家に呼んで何をするのだろうか。お姉ちゃんはちらっと言ってた気がするが、ちょっと頭が混乱してて何も聞いていなかった。多分、一緒に勉強するとかそんな感じだと思う。
…なら、私も優子を家に呼ぶのもいいかもしれない。優子も前々から家に遊びに行きたいと言っていたし、お姉ちゃんへの仕返しにもなる。
お姉ちゃんが土日のどっちで梅木さんを呼ぶのかは明日聞いて、それで優子を土日のどっちで家に呼ぶかを決めよう。
と、その前に、お姉ちゃん成分を吸収しないと始まらない。
「お姉ちゃ〜ん、寝てるよね?」
お姉ちゃんは私と違って寝てる時に寝言を言ったりしない。静かに、安らかに眠る。
安らかに眠っているお姉ちゃんの顔はいつも通り綺麗だ。
昔、お母さんが「カエデの寝言めちゃ可愛い」と言い、動画を撮っていたので知っているが、私は本当に寝てる時はだいたい「ん…」と、定期的に言っている。
寝たふりをする時は「ん」以外にも色々と言う。「んあ」とか、「んん」とか、「うん」とか。
「ん」だけだと何故かは知らないが、不自然になってしまうので、アレンジを入れている。
何故かは知らないが、こっちの方が本当の寝息に近くなるので、的確なアレンジをいれている。
「お姉ちゃん…寝ちゃったの?」
お姉ちゃんは寝つきが悪く、寝るのが遅い代わりに寝たら本当に起きない。私と一緒に寝てる時だけは寝つきはいいのだが、寝たら起きないことには変わらない。
なので、今みたいにお姉ちゃんに話しかけても起きない。
ただ、寝ている時に話しかけるのはあまりよくないと聞いたことがあるのでやるのは一か月に2,3回くらいだ。
「…お姉ちゃん、やっぱり胸大きいよね……」
お姉ちゃんは所謂隠れ巨乳というやつだ。ぱっと見そんなだが、一緒にお風呂に入ると分かる。それと、触ると分かる。…大きくてモチモチだ。
貧乳の方が動きやすいし、肩こりもしないし、体重も軽くなるし、ブラも選びたい放題だ。だけど、やっぱりお姉ちゃんみたいな巨乳にも憧れる。
…優子も巨乳だ。…私の周りには巨乳しかいない。
因みにお母さんは私と同じだ。お姉ちゃんが特異なだけで、私が特別小さいわけじゃない。
「…それじゃ、おやすみ。」
お姉ちゃんに抱き着き、お姉ちゃんの胸に顔を埋めるようにして眠る。お姉ちゃんのほうが私より少し背が高いので割とちょうどいい位置関係になり、快適に眠れる。
§
「…」
「あ、起きた?カエデ」
覚醒したかと思ったら、ほっぺがお姉ちゃんにより引っ張られていた。
「…はひひへんほ?」
「カエデのもちもちほっぺで遊んでる」
何してんの?とほっぺを引っ張られた状態っぽく言ったら普通に伝わった。流石はお姉ちゃんだ。
「っていうかほっぺ引っ張られてても普通にしゃべれるよね?」
「喋れるけど喋りにくい」
最近はお姉ちゃんのほうが早く起きてることが多い。お姉ちゃんの起きる時間が早くなったのか、私の起きる時間が遅くなったのか、真相は分からないが、多分両方当てはまってると思う。
お姉ちゃんは「飽きる」という言葉を知らないのか、いつもいつも私よりも先に起きた日はほっぺを触ったり、お腹を触ってたり、髪を触ってたり、抱き締めてたり…とにかく何かをしている。
いつも起きてすぐやられてることしか知らないので、私が寝ている間に何をされているのかはちょっと気になる。
「お姉ちゃんって私が寝てる間何してるの?」
「触ってる」
触ってるのは知ってる。私が知りたいのは、どこを、とかどのくらい、とかもっと細かいところだ。
「どのくらい私より早く起きてるの?」
「分かんない。だいたい30分未満くらいじゃない?」
「…具体的に、何してるの?」
「触ってる」
「…」
具体的に、と言っているのに具体的に言ってくれない。何かやましいことでもあるのか、はたまた朝だから普通に頭が回ってないのか、何はともあれ「触ってる」だけじゃ何も伝わらない。
「具体的にって言われても、本当にカエデのこと触ってるだけだよ?」
「…まぁ、分かった。」
流石に変なことはされていないと思うので、そこまで気にすることでもないだろう。それに、起きてる時の方が変なことされてるので、あまり気にしなくてもいいかもしれない。
「そういえば、梅木さんは今日来るの?明日来るの?」
「今日。早く行きたいって言ってたからもうすぐ来るかもねー」
「…え?」
ちょっと何を言っているのか分からない。
本当にもうすぐ来るならこんことをしている暇はない。
「嘘だよね?」
「はいこれ」
そういい、お姉ちゃんスマホを渡した。画面を見ると、そこには梅木さんとの会話の履歴があった。
京香 何時でもいいの?
フウ うん
京香 じゃあ今から家出るよ?
フウ いいよー
「…梅木さんは家からどのくらいでここ着く?」
「約一時間ちょい」
「…」
このやり取りは9時30分にされていて、今は10時弱だ。今すぐ来るとは言えない時間だが、こんなことをしている暇ではない事には変わりない。
「朝起きてご飯食べないと」
「えー…朝ご飯どうする?」
駄々をこねるかと思ったけど、流石に時間がヤバいと思ったのか、意外と素直に従ってくれた。
「なんでもいい」
「じゃあパンね」
「それはヤダ」
「じゃあちゃんと考えて」
私が適当なことを言うと、お姉ちゃんは決まって私のその時嫌な物を的確に言ってくる。ちゃんと答えてない私が悪いとはいえ、お姉ちゃんもお姉ちゃんで意地悪だと思う。
「…ご飯と…ふりかけとか?」
「それにプラスして味噌汁ね。じゃ、作ってくるね。」
「ありがと…」
朝ごはんをお姉ちゃんに作ってもらうのは休日限定で、しかもお姉ちゃんの方が早く起きた休日という、とにかく朝ごはんをお姉ちゃんが作るというのはレアケースなのだ。
私も布団から出てリビングに行き、椅子に座る。
朝だから明らかに動きが遅いお姉ちゃん。それでも私よりは手際がいいが、それでも、ゆっくり動くお姉ちゃんは見てて面白い。
「できたよ〜」
「じゃあ私が食器とふりかけ持ってくから、お姉ちゃんは味噌汁おねがい。」
「おっけー」
麦茶とオレンジジュースを持ってテーブルへ行く。いつも通り、私にオレンジジュース、お姉ちゃんに麦茶を入れる。
「いただきます」
「いただきまーす」
たまご味のふりかけをご飯にかける。なんだかんだ言ってふりかけプラスご飯はいつになっても美味しい。
簡単で、米で、美味しいなんて最高だ。
「そういえば、梅木さんはピンポンするの?それともお姉ちゃんが学校近くまで行くの?」
「地図アプリで家の場所はわかってるはずだけど、多分不安だろうし、家の前に立っとくつもり。30分になったから外出ようかな」
30分というと、まだあと20分くらいはある。いや、20分くらいしかない、の方が正しいかもしれない。
皿洗いして歯磨きして服を着て、そんなことしてたらあっという間に20分は経つ。
そんなことを考えながらいつも通りゆっくりとご飯を食べていたら、お姉ちゃんは食べ終わったらしく、私のことを見ながらニコニコしている。
「…たまにはゆっくり食べたら?」
「カエデがご飯中に喋りかけるなんて珍しいね」
お姉ちゃんが私の言ったことには何も答えずにニッコリしている。お姉ちゃんが楽しそうで何よりだが、何がそこまで楽しいのか私には分からない。
「ご馳走様。」
「ごちそうさまー」
朝だから少ない食器を洗う。いつも通り他愛もない雑談をするが、本当にお姉ちゃんは何をしても楽しそうだ。
もちろん、私もお姉ちゃんとの他愛もない雑談は楽しいが、お姉ちゃんほど顔には出てないと思う。
お皿を洗い終わり、歯磨きをして、着替えて、お姉ちゃんは梅木さんを迎え入れる準備が整った。
「じゃ、私は部屋に籠もってるから。」
私はパジャマのままだが、梅木さんが家にいる間は部屋から出るつもりはないのでこのままで大丈夫だ。部屋の中では勉強しかしないし。
「えー京香にカエデのこと紹介したかったのに」
「…また今度ね」
別にお姉ちゃんが信用してる友達なら言ってもいいが、急だと色々と心の準備ができていない。
そもそも、お姉ちゃんと双子だという事を学校で知られたくないのはお姉ちゃんが――――――いや、なんでもない。
「まぁいいや。じゃ、私は外に出て京香連れてくるから。」
「ばいばい」
お姉ちゃんが玄関を出て、外に行った。
実は、私とお姉ちゃんの部屋の壁は薄く、私が静かにしていれば簡単に会話が聞けるので、これを機に梅木さんについても詳しくしておきたい。
盗み聞きは良くないよいうのは重々承知だが、相手がお姉ちゃんなので、まぁ、許されるだろう。
というか、そもそも壁が薄いのが悪い。うん。私は悪くない。
私は、適当な責任転嫁をしながら部屋へ行き、勉強の準備をした。