テスト直前の朝
「…」
今、目の前でお姉ちゃんが気持ちよさそうに眠っている。
私に抱き締められ、背中も壁に当たり、狭そうな場所で、明らかに寝づらそうな所で寝ているにも関わらず、だ。相変わらずお姉ちゃんの寝ている時の顔は天使そのものだ。
ふと時間が気になり、後ろにあるテーブルの上に手をやり、スマホを取る。今の時間は6時30分で、昨日は少し寝るのが遅れたにも関わず中々の早起きなので本当に眠い。
今すぐ寝たい気持ちもあるが、それと同じくらい、お姉ちゃん成分を吸収したい欲もある。
寝るか、お姉ちゃん成分を吸収するか、寝そうになりながら長考すること約30秒、テスト直前でお姉ちゃん成分補給機会が少なくなりそうなので今補給することにした。
「お姉ちゃん」
お姉ちゃんを抱き締める。その手を更に強く、息が切れるくらい強く力を入れる。
そして、力を抜くと脱力感と共に何とも言えない幸福感?、高揚感が芽生えてくる。
何度やっても飽きないこれは中毒性があり、もはやこれがないと生きていけないレベルだ。
「ん、…ふぅ……」
こんなに力強く抱き締めても起きる気配はなく、寧ろさっきよりも快適そうな、何だか楽しそうな顔をしている気がする。
どんな夢を見ているのかちょっと気になる
「お姉ちゃん?どんな夢見てるの?」
「…」
「無視した罰としてほっぺぷにぷにの刑ね」
めちゃくちゃに綺麗な顔で寝てるお姉ちゃんのほっぺを引っ張る。あまりやりすぎると赤くなってしまうので、痛くない程度に、跡が残らない程度で引っ張ったり、ぷにぷにしたりする。
柔らかくて気持ちいい。過度に肉がついてる訳ではないが、何故かお姉ちゃんは全身が気持ちいい。
抱き着いても気持ちいいし、ほっぺを触っても気持ちいい。キスしても気持ちいいし、膝枕して貰っても気持ちいい。
「…」
お姉ちゃんの手が私の頭に触れた。多分これは、寝相ではなく起きた合図だ。
お姉ちゃんは理解出来ない程朝が弱く、起きてすぐは意識はあっても言葉を発することが出来ない。
正確には、なにか喋ろうとして音は発するが、それが言葉になっていないのだ。
例えば、朝起きてすぐのお姉ちゃんが水取って、と言うと、み……とて… みたいな感じになる。
本当に朝起きてすぐには言葉が発せない。そんな姿のお姉ちゃんも可愛くて好きで、一緒に寝るとそれも込みで楽しみとなっている。
「起こしちゃった?ごめん」
「…」
ゆっくりだが、首を振っているので気にしなくていいよ、という事だろう。大抵はめちゃくちゃゆっくりなジェスチャーで伝えてくるので、お姉ちゃんのゆっくりジェスチャーは大体分かるようになった。
ジェスチャーしてる時も、声を発する時も、お姉ちゃんは目を開けないので、本当にめちゃくちゃ眠いのだろう。
「…」
お姉ちゃんが抱きついてきた。朝なので力はあんまり強くなく、私としても心地良い。
お姉ちゃんはめちゃくちゃ心地良さそうな顔をしている。この顔は起きてもらわないと見えないのでお姉ちゃんが起きてくれて良かった。
「お姉ちゃん、足も絡ませていい?」
さっき見た時は6時30分だったので、まだ時間はある。今から学校があると考えるだけで憂鬱なので、気力をチャージしたい。ので、手だけでなく足も絡ませたい。
私は抱き枕は足で思いっきり挟みたい派だ。
「…」
お姉ちゃんがゆっくり、頷くかのように顔を下にやった。これはいいよ。という意味なのでお姉ちゃんの右足に私の左足を乗せ、お姉ちゃんの左足に絡ませるように右足を乗せる。いつもやってる事なのでスムーズに出来る。
思いっきり力を入れるとその分、私を抱きしめるお姉ちゃんの手の力も強くなるので、より密着できて最高だ。
「い……なんじ…」
「ちょっと待って。今見る」
お姉ちゃんが伝えたい事の大事なところは言ってくれるのでギリわかる。今回は「なんじ」は伝わったので多分、今何時?という事だろう。
スマホを見る。すると、5分くらいしか経っていないはずなのに何故か30分経って、7時になっていた。
「7時」
「…まだ……寝………」
多分、まだ寝てていいよね、的なことを言いたいんだと思う。
「そろそろ朝ごはん作らないと」
「…や……」
そういい、お姉ちゃんの抱き締める手の力が強くなった。
「…パンでい……」
途中で息絶えたみたいになっているが多分、パンでいいでしょ。と言いたいのだろう。
「私朝はご飯以外撲滅派だから…」
「今日くらいいぃ…」
今日くらいいいでしょ、みたいなことを言いたいのだろう。
結構悩んだが、やっぱりそろそろテストが始まるので、貴重になるかもしれないお姉ちゃん成分を沢山補給できる今を大切にする。
「分かった。今日はパンでいいよ。」
「ありがと…」
力なく言うお姉ちゃんをそっと抱きしめ、眠らないように目を開けて、私とは全然違う整った顔をジッと見つめた。
§
まだ7時。まだまだ寝ていられる時間だ。朝起きて目の前にカエデがいるという光景は何度やっても最高で、ものすごく眠たい状況でものすごく大好きなカエデを抱きしめながら眠れるというのはお金を払えるレベルで最高だ。
特に、そろそろテストが始まるのでカエデとイチャイチャする時間が少なくなってしまうのかもしれない。そうなると、本当にこの時間は貴重なものだ。
「カエデは細くて柔らかくて可愛くて抱き心地が良くて最高だね…」
「…ヘンタイじゃん」
「いつも通りでしょ」
もう流石に目が覚めて、目を開けてカエデを見ることもできるし、普通に話せるくらいにはなった。
「そろそろ起きないと」
「私はまだまだ大丈夫だし」
「お姉ちゃんはね。私はお姉ちゃんよりいつも速いでしょ?」
カエデは私よりも早く起き、私よりも早く学校に行く。食べるのが遅いカエデでも、私が起きた頃にはだいたいいつも食べ終わっている。
「今日くらいいいじゃん」
「…」
なんだか今日のカエデは押しに弱いというか、なんか私に優しいというか、いつもだったらもう同じ布団にいないし、今日くらいいいじゃん。など言ったら、ダメ。と言われて終わりだ。
「…朝ごはん少なくなるけど」
「いいよ。多分パンあったし。」
「久しぶりの朝ご飯に米以外だ」
朝はご飯派(過激派)のカエデは毎朝毎朝絶対に米だ。私もそのせいかは分からないが朝は米派だ。双子なのだからそりゃそうなのかもしれない。
「パンも別に美味しいよ。」
「分かるけど、やっぱエネルギーが貯まらない」
「…テストだけだから、今日。セーフ」
寝不足は問題を見間違えたり、ド忘れしたりと弊害はいくつかあるが、基本的に2時間しかないテストの日にエネルギーは必要ない…と思う。
「それにしても近いんだけど」
「嫌なの?」
「別に…」
「シスコンだもんね」
「…どっちでもいいだけだし」
カエデもなんやかんや私の事が大好きなのでこういうスキンシップは好きなのだ。双子なのだから私が好きならカエデも好きでなきゃおかしい。
そうじゃない所の方が多いけど。
「今何時?」
「え〜っと…」
私に抱き着いていた手が離れ、布団の中へ行く。多分、さっき私が時間を聞いた時にスマホをとり、そのまま布団の中に入れたのだと思う。
「…見当たらない」
「手探りだと分かりずらいよね。私も探すよ」
カエデを抱き締めている手を解き、布団の中へ入れる。カエデのお腹らへんを探し、あることに気づいた。
…合法的にカエデのお腹を触れるのでは?
カエデのお腹を触ったり、足を触ったりしようとするとカエデが怒ってしまうのでしていなかったが、今なら出来るかもしれない。
「…どこら辺に置いたの?」
「適当に布団の中に入れちゃった」
「じゃあお腹辺り探すよ」
服の上から、カエデのお腹を触る。普段触れない聖域みたいなところなので、少しドキドキする。
「それ私のお腹だから。」
「お腹近くにあるかもしれないし」
「…わざとやってるでしょ」
「なんの事?」
感触は服の上からなのであまり分からないが、カエデのお腹を触っている、という事実だけで何か良い。
「…じゃあ私もお腹辺り探すよ」
そう言い、カエデが私のお腹を触る。私は別にお腹を触られたくない訳ではないし、寧ろ触って欲しいとすら思ってたので私からしたらご褒美でしかない。
「どう?」
「何が?」
「お腹、触った感想は?」
「別に、何ともない。」
確かにお腹の感触自体はあまり無い。別に柔らかい訳でもなく、硬い訳でもない。
私は、カエデにバレないくらい少しずつ手を上に動かす。
「…お姉ちゃん?」
「…」
カエデに手を掴まれてしまった。少しずつからバレないと思ったが全然、普通にバレてしまった。
「…どうしたの?カエデ」
「なんで少しずつ手を上に動かしてたの?」
「…手が私の欲望を勝手に反映しちゃったのかも」
人間は1つの欲が満たされたら次の欲を満たそうとする。めちゃくちゃ近くにカエデがいて、最初はそれだけで良かったのだが、もはやそれだけじゃ満足出来なくなってしまった。
カエデの聖域と化していたお腹を触ったり、もっと上に手を動かしたり、そのうち本当に私が何をしてしまうのか、私にも分からない。
「…お姉ちゃん、私たち双子だから。変なことしないで」
「でも私たち似てないし、私もカエデもシスコンだし」
「それ関係ないから。」
確かに関係ないが、全く関係ない訳では無い。血の繋がってる双子で変な事をしてはいけないのは分かってるし、そもそも変な事をしようと考えること自体ダメな事だ。
「別にちょっと手を上に動かしただけで、別に変な事しようとした訳じゃないし」
動揺してカエデみたいな弁明の仕方になってしまった。
「…はぁ、本当にお姉ちゃんはドシスコンだよね。普通のシスコンじゃここまではしないよ」
他のシスコンの人に会ったことがないので分からないが、多分、私ほどシスコンな人はそうそういないと思う。それだけは分かる。
「それを許してるカエデも普通のシスコン以上だよね?」
だが、そんなドシスコンな私を許してるカエデもまた、相当なシスコンなはずだ。
私がここまでドシスコンなのは、もしかしたらカエデのせいなのかもしれない。
「…別に許してないもん」
「でも今、こんなに近くにいるじゃん」
「…うるさい」
カエデの一挙一動が可愛いのは当たり前だが、特にこういう時のカエデは本当に、ほんっとうに可愛い。
「そう言えばスマホは?」
「お姉ちゃんがちゃんと探してないからまだ見つかってないよ」
「…布団剥ぎたくはないよ?」
布団を全部どかせば、簡単に見つけることは出来るだろうが、それは寒いし、本当に嫌だ。
「私もそれは嫌。多分足元までは行ってないと思うんだけど…」
「じゃあ私が布団に潜って探ってくるよ。」
布団の中に全身を入れる。どんどん下へ行くと、足だけが布団の外に出てしまい足が寒いが、この短時間は我慢する。
「どう?ある?」
「…暗くて見えない」
「頑張って感覚で探して」
布団の中じゃ方向感覚が分からないくらい暗い。…ので、少しカエデの足を触ってしまっても、それは仕方がないことだ。
「お姉ちゃん、それ私の足だから。」
「暗くて見えないんだよ」
「…もう戻ってきていいよ」
足に抱きついて頬擦りしたりしたかったが、布団の中は思ったよりも動きづらくてキツイので、素直に戻る。
「布団剥がすから、覚悟決めて」
「…くっついてようよ」
「いや、それだと布団剥がせないから。」
結局布団を剥がすという結論になってしまった。カエデにくっついてていいのなら別に布団がなくてもいいのだが、それがダメなら本当に嫌だ。
「ちょっとまってカエデ、まだ探してない所あるあら」
布団から出ようとしているカエデの腕を掴み、意地でも布団を剥がさせない。
「…もうめんどくさいし、いいよ。多分そろそろ時間やばいし」
「…」
とりあえずカエデを離さない。離したら絶対に布団を剥がすし、何よりまだまだカエデには近くにいて欲しい。
「お姉ちゃん、離してくれないと動けないんだけど」
「いいよ、動けなくて」
「私が良くない」
朝の私には力がないのでカエデがその気になったら簡単に渡しの腕を振りほどくことが出来るのにしないということは少なくとも、カエデも布団の外に出るのが嫌だと言うことだ。
「今度からこの部屋に時計置こうかな」
「…」
これは、離さないとこの部屋に時計を置くぞ、というカエデからの脅しだ。
カエデは自分の部屋の装飾を決める時、「別にどっちでもいいから」といい、この部屋にも時計を置かないでくれていたので、このカエデの部屋にも時計はない。
「…あれ、時間がみたいだけなら私のスマホで見れば良くない?」
「………確かに」
盲点だった。私もカエデもカエデのスマホで時間を見ることしか考えていなくて、私のスマホもあることをすっかり忘れていた。
「机の上に多分あるから、取って見て」
「分かった。」
カエデが後ろを向き、手を伸ばして机の上にある私のスマホを取る。
「7時45分…はい、流石にもう起きるよ」
絶望の単語が聞こえた。7時45分、もう起きる、いずれも私にとっては地獄の言葉で、まだまだカエデを全身で感じていたい私にとっては絶望と言っても差し支えない。
「お姉ちゃん、流石にもう起きるよ。ほら、離して」
カエデのお腹に腕を巻き付けてコアラみたいにくっついていたが、それもカエデによって簡単に剥がされてしまった。カエデは、そのまま布団の外に出る。
「はい、お姉ちゃんも起きて」
「…手」
「はい」
カエデの手を借り、私の馬鹿みたいに重い身体を起こす。
「じゃあ先行ってるからね。ゆっくりでいいからちゃんと歩いてきてね」
カエデがドアを開け、リビングへ行く。私は、その後を追うように、ゆっっっっっっくりと歩く。