第二話 ジスとザルバロ
さて、ペガサスに連れて来られた傷だらけの騎士の話をするとしよう。
彼の名は、ジス・ベレロフォーン。第二騎士団の団長を務めているが、この国の第三王子でもある。
ある時、国内に怪獣キマイラが出現した。辺境の地で確認されたキマイラを討とうと近隣の兵たちで討伐にあたるが、いとも簡単に退けられてしまった。
その知らせを受け、地上からの攻撃は意味をなさないと学習した国の軍部が、ペガサスを従え上空からの攻撃を試してはどうかと王に進言した。
国政にはほとんど関わらない王はただひと言「好きにしろ」とだけ指示した。そして議会での話し合いののち、討伐隊として、魔物や魔獣の類の討伐を得意とする第二騎士団を派遣することにした。
王ゼシウスは言う。
「この金のくつわを持ちペガサスを従え、キマイラの討伐をしてこい」
「かしこまりました」
王家に受け継がれる『金のくつわ』。これを使えば、ペガサスは人をその背に乗せてくれるという。
ジスは、王からそれを受け取り、騎士団を率いて出陣することになった。
「ジスよ、此度の其方の働きに期待しているぞ」
「……は!」
王に、父に期待されて嬉しい。などと思うことはなく、ジスは騎士団長として礼をして退出した。
ジスは討伐の辞令を聞いてまず、王都警備を主とする第一騎士団のザルバロ・フィーを訪ねた。
ひと通り話をすると、ザルバロはため息をついて言った。
「なんだって第三王子でもあるお前が行くんだ?」
「……王子、というより俺は騎士団長として国に仕える身だからな」
この男、ザルバロ・フィーは、フィー公爵家の若き当主である。フィー家は、建国時に定められた公爵家のひとつで、シェーレとは逆の隣国マテアから王女をいただいている。ザルバロは、祖母がマテアの王女であるというとても高貴な血筋だ。初代まで辿れば、ジスとも血縁になる。
ザルバロとジスは年が同じで、幼少より通っていた貴族学園での同級生だ。王妃の息子ではないジスだったが、他の二人の王子と同じ教育を受けていた。国王によって、王子は皆平等とされていたのだ。
第一王子は王妃の子だが病弱だった。第二王子の母は、身分がないうえすでにこの世にいない。そして第三王子であるジスは、他国の神女であった母を持つが、こちらもすでに亡くなっている。継承権は年齢順であり、ジスは第三位だが、王に気に入られているという点で、ジスが王位に一番近いとされていた。
「俺は行ってくる。ここは任せたぞ、ザルバロ」
「ああ。ご帰還をお待ちしております、っと」
「ははっ、じゃあな」
母を早くに亡くしているジスは、フィー前公爵が後ろ盾となり保護していた。それもあって、ザルバロのことは幼少時より誰よりも信頼しているのだ。
おどけて敬礼して見せたザルバロに、笑顔で別れを告げるジス。
そしてその日、ジスはペガサスの元へ向かった。