喪失
スライはトンマにその場を任せマーケットへ急ぐ。気に掛かって仕方がない。置いてきたトンマの事、マーケットにいるであろうハル達、救助に当たる他のメンバー、クラン協会へと向かったカイスは無事だろうか…
…いや、考えても仕方がない!一つずつ、一つずつだ!素早く全てをこなすしかない!
急いで辿り着いたマーケットは屋根が崩れ落ち炎上していた。しかし希望は捨てていない。
何故ならマーケット入口にはハイオークの死体がいくつか転がっているからだ。
「間違いない、ハル達がやったんだ。あいつらは生きてる!」
…しかし一体何が起きてる?
どうしてモンスターが街に!?あり得ない!
…いや、あり得ないと思い込んでいただけ?
そうだもうここはゲームの中じゃない。
プログラムされたルールなんて存在しない。
それに街の民を一切見かけない…
メンバーが避難させた事を信じたいが…
水属性魔法で燃え盛る瓦礫を消化し飛び越えていく。
辺りにはついさっきまで売られていただろう果物や生活用品が散らばっている。
警戒しつつ進むとマーケットの突き当たりにある教会が見えてくる。だがその教会も赤く燃え内側から炎が吹き出している様だった。
!?
教会の前の瓦礫に動くものを捉えすかさず駆け寄るが予想していない状況にスライは驚愕した。
全身を焼かれ身動きが取れなくなったアッ子を庇うように抱きかかえるカイスが瓦礫に脚を取られ倒れている。
「カイ!!!おいおい嘘だろ!!」
駆け寄り瓦礫を退けるがカイスの脚は眼を背けたくなるほど傷ついていた。
「や…やあス、スラ君…さっきぶりだね」
「待ってろ今回復を!!」
回復魔法であるヒールを唱えるもカイスの足は一向に良くならない。同時に詠唱しているはずのアッ子も全く動かない。
「なんで?なんで回復しない!!!」
「…だめ…なんだ…奴らが使う装備には僕らの知らない毒が仕込んである…魔法でも解除できない…はは…情けない…まさかこんな初歩的なやり口で…ゴホゴホッ…」
脳裏に怪しく光るローエンガルデが蘇る。
「アッ子!!アッ子!!嘘だろ!!アッ子!!」
「…すまない…アッちゃん…守れなかった…回復職でありながら僕は…くっ…そうだ、ハルちゃんは恐らく無事…だ。教会の裏口から逃がし…た…」
「ハル?ハルは無事なんだな!お前…2人を守って…こんな…こんな…」
…クソ…どうしたらいい!?
毒解除魔法のスラッグも効き目がない。
こんな時に俺は…何の役にも立たない!!
「ハルちゃんを…頼む…彼女は…彼女だけは守ってやってくれ」
「ああ、ああ!!必ず…守る!お前も助ける!だからそんな死にそうな声出すなよ」
「スラ君…さ、寒いよ…あれ?どこに行ったんだい?見えないよ…1人にしないでくれ…」
カイスが怯えるように震えている。
しっかりと抱き寄せスライが声をかける。
「しっかりしろカイ!!!!俺はここだ!ここにいる!お前の側にいる!!」
「スラ…君…ひどいじゃないか…あんまりだよ…僕を1人にしないで…」
天を仰ぐように見開かれたカイスの眼から生力が消えていく。
「カイ…!待て待て行くな!行くな!!こっちを見ろ!!俺だ!俺が見えるか?しっかりこっちを見るんだ!カイ?カイ!!!」
「そんな…うああああああ」
親友を失った悲しみが最後に交わした言葉が悔やまれる。
『分かった。でも、無理はするな。絶対に!』
『分かってる。それに、それはお互い様だよ。スラ君も気をつけて』
『おう。じゃあ、後でな!』
「お前を…1人にしたせいだ…俺がお前を…」
二人の亡骸を抱きしめスライは泣いた。
泣き叫んだ。
「カイ、お前の守った命、必ず助けるからな。ハルを必ず!」
アッ子とカイスの遺体を静かに瓦礫から掘り起こし近くの被害の少ない木下へと運ぶ。
両の手を前で組ませ2人の亡骸に今一度祈るとスライは前を向いた。
「今行く、待ってろハル」
今にも崩れ落ちそうな教会、その入口からは炎が溢れ出ていた。
スライは自身に水属性魔法で湿らせると風属性魔法で炎をかき消し息を止め一気に駆け込んだ。
脆くなった床や今にも落ちてきそうな梁を避けつつ眼を凝らすと、奥に破られた裏口が見えた。
煙に視界を奪われつつもスライはそこへと突っ込んでいく。飛び出る様に這い出すと背後から崩れていく教会の音がした。しばらくその場で咳き込み倒れていたが無理にでも落ち着かせ体を起こした。
教会の裏は開けた丘になっており、ソーンの旧市街が見渡せる場所になっていた。その丘の中心には古い木が1本、その木陰に人影を見つけスライは脚を取られそうになりながらもその倒れている誰かに近づいていった。
……嘘だろ
倒れていたのはハルだった。
彼女は木にもたれかかるように座り込み、足元には彼女のものと思われる血溜まりが広がっていた。
「ハルっ!ハル!!」
スライの必死な呼びかけに、ハルは薄っすらと瞼を開けた。その顔には苦しげな表情が浮かんでいたが、スライを認めると少しだけ安心したようにも見えた。
「……なんだ、スラ君じゃないか……遅いよ……」
「なんでだよ!なんでこんなことになってんだ!」
スライは駆け寄り、倒れたハルを抱き起こすように支えた。
「……えへへ……ドジしちゃった……カイ君がせっかく助けてくれたのに……背後から斬られちゃった……ほんと、いつになっても同じミスばかり……」
「すぐに回復してやる!」
スライは急いで回復魔法をかける。しかし、ハルには全く効果がない。
「……なんだよ……なんなんだよ、これ……」
「無駄だよ、スラ君……効かないんだ……あたしはもう……だめだから……」
ハルはかすれた声で話し続ける。
「カイ君とアッちゃんを……お願い……アッちゃんは……大怪我だったから……でもカイ君がいるから……きっと大丈夫……」
その言葉にスライの顔が曇る。しかしすぐに切り替え、ハルを安心させるために嘘をついた。
「……ああ、2人とも無事だ。今、トンマが面倒見てる」
「……よかった……本当に、よかった……」
みるみるうちにハルの眼が涙で溢れていく。
「カイ君ごめんね…アッちゃんごめん…ね…私のせいだ…私がドジだから…」
「とにかくお前をみんなの所に!!なんとかなる!絶対助ける!」
抱き起こそうとハルの身体を起こし座らせるとハルがスライの腕に両手を当てる。
「ごめん…スラ君…こんな時になんだけどね」
「なんだよ!急がねえと!」
「お願いがあるんだよ…最後のお願い…」
「最後とか言ってんじゃねえ!」
「気休めで…いいんだ…お願い…抱きしめて…ほしいな」
「いくらでも抱きしめてやる!これからもいつだって!!」
そう言ってスライはハルの細い身体を抱きしめる。
「はは…夢叶っちゃっ…た」
「ざけんなよ、こんなんで死にそうになってんじゃねえぞ!絶対に助ける!今マスターもみんなも必死に闘っている!これから集合するんだ!俺達の連携見せてやろうぜ!だから…死ぬな!」
「う、嬉しいな…みんな無事なんだね…」
…おかしい…絶対におかしい…
ハルのこの傷はハイオークの斧でやられたものじゃない…明らかに鋭利な武器でやられている。いったい誰が…こんな事を?他にも何かいる。
ハルを背中に背負い直し辺りを見渡す。
ここからなら最短で中心部まで行けるはずだ。
「スラ君…あたしね…大事な事…言わなきゃって…」
背負われてる中ハルがスライの耳元で話し続ける。
「なんだ?なんだよ?」
消えそうな命を背中に感じつつスライは必死に前へ進んでいく。
「あたしね…親方も…アッちゃんも…ミハルちゃんもねこっちも…ゴホゴホ…」
「ああ、ああ…」
「カイ君もみんなみんな…大好き…」
「そうだな…これからもみんな一緒だ。」
「でもね…スラ君…」
「ああ」
「あたしはスラ君が一番好き…」
…
「だか…ら、お願い。嘘でもいいからあたしの事…好きだって言って…欲しい…かな」
「お前こんな時に何言って…」
「お、お願い…なんだよ。もう時間ないみたいで…さ…」
「ふざけんなよ、そんなの。だいたいお前にはカイが…いるじゃねえか」
「お願…い…言って…でないと私!」
炎を掻き分けるように進みつつスライは思った。
今はハルの想いに応えその消えそうな命を繋ぎたい。焦りからか身体が勝手に走り出す。
「俺は…俺もハルが好きだ!」
走りつつ言葉にした。嘘ではない。消えないで欲しいと。
「はぁ…嬉しいなぁ…夢みたい…じゃあさ…あたし達これからいっぱい…一緒に…」
「…大好きだよ…スラ君…」
走り抜け飛び上がる。上がった家屋の屋根から広場が見えた。
「ああ、何言ってんだよお前。当たり前だろ。ずっと一緒だ。ニブルヘイムだって、お前が行きたがってた妖精国だって、まだ行ってねえんだからな。だろ?」
…
背負ったハルから返答がない。
「ハ…ル…」
背中に感じていた命が消えてしまった。
最後に顔を見る事も出来なかった。
ただただ涙だけが溢れてくる。
分かっている。もうハルは死んでしまった。
たった今死んでしまった。助けられなかった。
またしても助けられなかった。
大切な仲間を…
「おい…ハル…ふざけていい場面じゃねえんだぞ…いつもみてえに…冗談言って…笑ってくれよ…。なああハル……」
いつものように語りかけながら炎の中を突き進む。
返答がなくとも話しかけ続ける。
「お前さ、なんだ…よ。寝ちまったのか?
しょうがねえな…おぶってもらって…子どもみてえだな…」
涙が止まらず前が見にくい。炎が倍の勢いにぼやけて見える。
炎の海を掻き分けて被害の少ない路地に飛び降りると負ぶったハルを一度地面に座らせた。
もうそこに元気なハルはいない。
語りかけても返事はない。
ハルはそれでも笑顔のままだった。
優しい笑顔がスライの心を締め付ける。
ハルの乱れた髪を丁寧に整えてあげ自身の袖をまくりまだ綺麗な部分で涙と顔に着いた汚れを優しく拭う。
そして眼を閉じ気持ちを落ち着かせると強く眼を見開き力を込めた。
「さあ行こうハル」
ハルの亡骸を抱えると今度は酷く軽く感じた。
己のスキルのせいじゃない。今までそこにあった命が消えた悲しみにせいなのかそう感じるのだ。
泣きそうになる気持ちに何度も鞭を入れ前を向く。
「ハル…すぐにみんなと合流するからな。安心して眠ってくれ…」
炎上する街並み、煉瓦造りの家屋はどれも火を吹いていた。火傷により体のあちこちがひりつく、それでもどうにか道無き道をひたすらに抜けると中心を流れる運河に出る。水面は炎上する街に反射し夜なのに赤く燃えているようだった。
運河にかかる唯一の橋、アラベルン橋を渡れば街の入口、集合場所の噴水広場だ。
スライは必死だった。足早に運河を回り込み橋へと差し掛かる、すると橋の中央部分に人影が見える。
警戒しつつ近づきその姿を認識すると涙が溢れそうになった。
屈強な男の背中。
鉄壁の盾という二つ名をゲーム時代から持ちながらも利き手である右手には身の丈程の斧を持ち左手には盾ではなく同じく大型の斧を持つレッジョディカラブリアのマスター。
強面ながらも笑い上戸で頼れるマスター、その見慣れた後姿だ。
悲しみの中で見つけた安堵。
そうマスターはいつも俺達を安心させてくれる。だが…この現状、今自身が抱えているハルの亡骸を見て彼は間違いなく悲しみ怒りに震えるだろう。だが今は何よりこの場から生き残った者だけで脱出しなければならない。その状況でトンマの存在は大きい。
「トンマ!!」
スライは叫んでいた。
足早に駆け寄り何度も呼ぶがトンマは振り向かない。
街中火災で声が届かないのだろう、と
近くまで来た所で話しかけながら回り込んだ。
「みんなは?無事なのか?なあトン……」
スライはトンマの姿を確認し愕然とした。
しばらく時間が止まったように動けず声が出なかった。
「…なん…だ…トンマ…なのか?」
そこにいたのは確かにトンマだった。
ゲーム時代から愛用していた黒龍ディアボロスの斧とローエンガルデを構え今まさに何かと対峙していただろうその姿はまさにトンマそのものだが、顔は確認出来ないほどに黒く焦げ全身に矢がいくつも刺さっている。
「…おい…嘘だろ…トンマ…必ず後でって言ったじゃねえか…これじゃ誰がレッジョを率いていくんだよ。お前マスターだろ?なにそんな所で突っ立ってんだよ…なあ」
さらなる悲しみがスライの心に締め付ける。気力が失われた視界がぐらつく。息苦しさと目眩に倒れそうになるも瘴気と言うべきだろうか嫌な雰囲気が充満している辺りを見回す。
周囲にはハイオークの他にハイゴブリンやレッサーグレムリンの死体が無数に散らばっていた。
トンマに降り注がれたであろう毒矢はハイゴブリン、ハルや他の皆を斬りつけたのはレッサーグレムリンの短剣…こんな魔物は周囲にいない。いるはずがない…
誰かが魔召喚でもしないかぎり…
全力で全てを倒し切ったのか?トンマ…
辺りは焼け落ちる家屋の音しか聞こえない。
あまりに静寂すぎる。そしてふと不安になった。
「まさか…みんな…みんな死んじまったのか…」
そんな考えが不安となって心に渦巻く。
そんな不安を疑い警戒心が強くなると今まで感じなかった五感が研ぎ澄まされる。
今まで必死だった、そして当たり前にゴールがあると思っていた。だが気付けば周囲は死の匂いに満ちている。死の匂いは橋の向こう側にある広場から漂ってきている。
「う、嘘だ…そんな…」
恐る恐る振り返り広場の方へと目を向けると、中心の噴水の前に何か小さな山の様な物が見えた。
「嫌だよ…勘弁してくれよ…」
ゆっくりその山へと近づく。
近づくにつれてそれが何かが見えてくる。
…
傷を負った住民達…トンマがそれを守っていたのか?皆折り重なるように倒れており既に息がないのが見てわかった。さらに反対側には見知ったメンバーが皆息絶えている。
「嘘だ…こんなの…」
ミハルを抱き込んで守るようにマイコが、
弓に矢を装填したままうな垂れるようにヨハンが。
何かと必死に争っていたのだろう。
少し離れた場所にヨナとネコちんが無残な姿で倒れている。
スライはハルを抱きかかえたままその場に膝をついた。
バシャっという音が響き渡る。水溜りにでも膝をついてしまったと思ったが、それは皆の血溜まりだった。
「あああ…ああ…」
何が起きたのかどうしてこうなったのかを分かるはずもないと理解しつつもひたすらそれだけを考えている。まるで心が麻痺してしまった様に。
「そうだ…蘇生しなきゃ…リザレクション」
ゲーム世界では存在していた蘇生魔法であるその名称を連呼する。
「おい、みんな起きろよ。いつまで寝てんだ?」
…リザレクション、リザレクション、リザレクション…ヒール、ヒール…
魔法力を使い果たし詠唱が途絶え始めると気配と足音が分散し近くまでやってくるのを感じた。
「いたぞ!総員囲めっ!」
その声にようやく反応しスライはゆっくりと顔を上げた。
「…王国兵か…誰でもいい、みんなを助けてくれ。あんたらなら蘇生魔法とか蘇生アイテムやらなんかあるだろ!なんでもいいから助けてくれ…頼む…頼むから…」
だがその言葉にその場の兵士達は誰も応えない。惨状に怯えている様にも見える。
「なあ、頼むよ。俺達はまだやらなきゃいけない事が沢山あるんだ」
近くにいた兵士が長であろう者に近づき耳打ちする。
「副長、通報した民の目撃情報と一致します。此奴の背格好…間違いないです」
「おい、黙ってねえでなんか答えてくれよ!」
誰も何も答えない…代わりに一斉にゆっくりと剣を抜く音が聞こえる。周りの兵士が自分に敵意を向けているのだ。
「おい、ちょっと待て…」
「なんという事だ…これだけの事をしておいて命乞いか?」
副長と呼ばれた男が前に出る。
「お、俺じゃない!俺の訳がないだろっ!!仲間だぞ…俺の大事な…仲間なんだぞ…それに手をかける訳がねえだろうがっ!!!見ろよ!魔物を!そこらじゅうにいんだろうが!」
「迫真の演技も我らには無駄だ。証言とも一致しているしな。まったく白々しい…貴様が召喚したのだろう?魔法だ召喚だと力を持て余して悪戯に誇示する。冒険者など結局皆心の内に黒い欲望を持っている。貴様もそうだ。殺戮が趣味か?それとも単純に快楽を求めたか?しかし残酷すぎる。これ程に酷い事件は初めてだ…許されない…いや、許さん!貴様はこの場で切り捨てる!!」
「ふざけんな…なんで…今更来たお前らが…何も見てないお前らが…」
スライも敵意を感じ悲しみや怒りが入り混じり自分でも制御が効かず防衛反応として身体が残り少ない魔力を充填し始める。
「こいつ!魔法反応!!」
取り囲んでいた兵士達が警戒し距離を取り始めた。
「ハル…ちょっと待っててな…」
スライはゆっくりとハルを地面に横たわらせると静かに立ち周囲を睨みつけた。
「俺を…俺がみんなを殺しただと…ふざけるな…絶対に見つけてやる…邪魔するなら…たとえここでお前らを殺める事になったとしても必ず!」
片手を兵士たちに向けいつでも魔法詠唱が出来る様にさらに魔力を充填させる。
だが自身が受けた微かな傷がそれを許さなかった。
他の皆が受けた毒と同じだ。微かにそれが効きはじめ視界がぐらつき始める。
そして突然身体が揺れた。
右肩に矢が刺さっている。毒のせいで反応出来なかったのだ。
それを合図に兵士が一斉に斬りかかってくる。
いくらかは避けたが脇腹や大腿部を斬られ自身の鮮血が辺りを染める。
「うああああああ!!!!」
気を失いそうな自身を覚めさせるように叫ぶと怯んだ兵士に飛びかかり剣を奪った。
…このまま殺されて終わるのか?犯人にされて終わりか?そんな終わり方か?
奪った剣を振り回すと取り囲んでいた兵士達が再度距離を取る。
「いいだろう。ミナンダお前が相手をしてやれ」
「は!」
騎士団員に指名された警備兵がスライの前に立ちはだかる。
「警備兵ごとき…」
スライは剣を構えスキルを使おうと精神を集中させるが突如背後からの衝撃によりその場に倒れこんだ。
「な…汚ねえ…」
「ふんっ私は騎士団副長のソアレだ。私がお前の蛮行に天誅を」
背後からの不意打ち、スライにはそれを察知するほどの力が残っていなかった。
もはや動く力も残っておらず眼前の血の匂いと土の匂いだけが感覚として感じ取れた。
「一対一など大罪人にさせるわけなかろう。愚か者め」
そう言いながらソアレがスライの頭を踏みつける。
「ソアレ副長いかがなさいますか?」
「うむ、この蛮行は許されるものではない。やはりここで私が首をはねよう」
ソアレが剣をスライの首元に当て狙いを定める。
「己の蛮行、悔い改めよ」
剣を振りかぶった時だった。
背後からの声にソアレ含め全ての兵士が硬直した。
「待て」
そう言ったのは白銀の甲冑に蒼い旗、白き馬で現れたそれは王国騎士団長だった。
スライも意識の途切れそうな中横目で足元だけが確認出来た。
「カムイ騎士団長!」
一斉に兵士達が剣を納め膝をつく。
団の誰よりも華奢だが恐ろしく冷たい眼光の持ち主が馬を降りスライに近づく。
「こやつをここで殺す事は認めん。直ちに拘束し投獄せよ!ロードの守護者の名において命じる」
「し、しかし!」
ソアレが顔を上げ意見するも
「城外処刑は硬く禁じられている。戦意を喪失したそいつの首を落とせばお前も禁止行為で罪人となるぞ。それにな…こやつは冒険者含め多くの者の眼前で裁かれるべき。そうではないか?それこそがこの世のため、今後同じ様な者が現れない為にも。そうであろう?ソアレ」
ソアレの耳元でカイムが囁く様に告げる。
「は、仰る通りでございます。」
ソアレは深々と首を垂れた。
「いずれにしても裁いた後…必ず殺すさ。
必ず生きたまま連れていけ。警備兵はこのまま街の消火活動と生存者の確認を」
騎士団は動けなくなったスライに鋼鉄製の首輪と足枷をつけると治療もせず荷馬車へと放り込んだ。
薄れゆく意識の中スライの眼には燃え盛るソーンの街と徐々に遠くなっていく仲間の亡骸が映っていた。