表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京オフライン戦記  作者: ジンエジャール
1/10

ペインレスワールド

はじめまして。

初めての小説です。

これは復讐の物語です。

初心者のため至らない部分も沢山あるかと思いますがどうぞ宜しくお願いいたします。

「皆さんこんにちはーこんばんはーおはようございます!!、アルルの実況チャンネルにようこそ!!今日も今話題のオンラインゲーム、ペインレスワールドをやって行きたいと思います!!」


動画投稿サイトのLIVE配信では今日も名の知れた配信者が中継を始めた。画面では中世風の建物が並ぶファンタジックな景色の中、白い衣装で着飾ったCGキャラクターが手を振ったり飛び跳ねたりしている。


ペインレスワールドは全世界ユーザー数が9000万人を越える人気のオンラインゲームだ。内容はいわゆるファンタジーRPGで家庭用ゲーム機器から携帯端末、PCなどあらゆる方法で遊ぶ事が出来る事から2年前の発売以降爆発的にプレイヤーが増え最近では多種多様な性別年齢職業の人々が昼夜問わずログインしている。

次世代型リアルタイム通信を利用したタイムラグフリーなシステムと何よりそのプレイスタイルが発売当時特に話題となった。


まずプレイヤーは自身のアバターになるキャラクターを作成するのだが端末のAIがプレイヤー自身の姿や写真データ、趣味嗜好等を日常使っている携帯端末やPCからスキャンし自動的にデータを構築、それをキャラクター化する。

さらにAIは特性や性格をデータから判断しスキルだけでなくロールと呼ばれる職業までも自動に作成。自分の好みに髪型などは多少の調整は出来るものの何度作成し直しても同じ結果になる。

要は勝手に見た目や種族、職業が決められてスタートするのだ。


このシステムは発売当初自分の好きにアバター作成出来ない事がユーザーの反発を生むかと思われたが意外にもこれが逆にヒットした。

AIが得たデータは個人の好みなどもしっかり反映されており結果として出来上がったキャラクターを満足して受け入れるユーザーが多かったのだ。どんな姿になるのか?くじや占いにも似たそういう要素もウケたのだろう。もちろんAIが得た個人情報やデータはキャラクター作成後確実にその場で消去される。ゲームを開発したのは小さな会社だったが後に世界的大企業に吸収される形となり安全性も守られている。

バーチャルリアリティ技術の進歩によりビジネスにおいても今一番注目されている為ゲーム世界の中で商売する企業までも現れた。

特に現実世界で流通し始めた仮装通貨を使用できる点などがその理由だろう。

そういった企業がゲーム開発と運営を行う企業に投資し次々に世界が拡張され人口も増加し今に至る。


大抵のプレイヤーはストーリーに沿った冒険を楽しみつつ他プレイヤーとの交流などを目的にしている。特にここ日本では独自の面白さを追求する事に長けており中でもバーチャルアイドルなる存在が近年流行している。今まさに配信を開始したアルルは中でもかなりの人気を誇るバーチャルアイドルである。


そのアルルがいつものようにプレイヤーとの交流を目的として酒場に入っていく。

華奢な身体には似つかわしくない大剣を背負った女性エルフ。その姿はその場の者を釘付けにする。背負った大剣は限られた者にしか手に入れることのできない希少な装備、それだけでもすれ違う者は振り返るほどなのだが、アルルは薄い金色の髪をなびかせ堂々と歩いて行く。注目を浴びる事に慣れているのだ。たまに跳ねたり踊りながらそして歌まで挟み視聴者を飽きさせない。そうして酒場奥にある交流掲示板前までやってくると気づいたプレイヤー達が掲示板の前を空けた。


「おい、見ろよアルルだ!」


「アルルさんー、私達のパーティに入ってー!」


羨望の眼差しで見るキャラクター達、実際にプレイしている本人達もウェアラブル端末を通してキャラクターの表情も変わるため実際に同じ様な表情をしているのだろう。


アルルの人気の理由はキャラクターの美しさや実況の声質だけでなく面白さと共にプレイスキルにある。可愛らしい声とはギャップのあるそのプレイスタイルはプロゲーマーでも一目置く程なのだ。


「やっほー皆さんー。ごめんねー、アルルは今日予定が決まっているのです。なのでまた今度誘ってくださいー」


そう言うとアルルは深々と頭を下げた。


実はアルルの実況中継にはルールがある。

アルルが気まぐれでどこかの街の交流掲示板まで行きそこでランダムに募集されているパーティに入るのだ。


「どれにしようかな〜、えーっと…うんうんコレにしよう!」


そう言ってアルルは掲示板前でまた軽く回って踊ってみせる。


「さて今日は恒例のソロで他パーティの空き枠にランダムで入っていく企画!今みんなやってるよね?そうそう期間限定イベント!!」


期間限定イベントは難易度が高いが報酬が特別なので特に人気を誇るコンテンツだ。4人〜10人でパーティを組みダンジョンに進行、道中現れるモンスターと最終フィールドに棲むボスを討伐出来ればクリアとなる。その際ドロップされるアイテムは希少性の高い事が多くマーケットでは高値で取引される。それを狙う者もいれば歴の長いプレイヤーが腕を試す場でもある。


「ではさっそくーイベントコンテンツ、ヘイム山1階層の亡霊将軍サープラスを討伐に行きたいと思います!倒せるかな?何が貰えるかな?いきなり宝物クラスの武器だったりして!そして今回選んだパーティはー…このパーティです!」


そう言うとアルルは慣れた手つきでパーティ募集掲示板からアクセスし加入の申請を行う。パーティの人数が規定の人数に達すると自動的に申請が受理されコンテンツの入口へと転送される仕組みだ。


「準備、準備〜」


アルルは自身の視界にステータス画面を表示させ装備を今の白いワンピースから戦闘仕様に変更した。


「では、行ってまいりまーす」


アルルはそう言い祈る様なポーズをとる。

その場にいた他プレイヤー達が応援したり手を振る中アルルの身体が光を発して消え異様な空気が漂う洞窟前に瞬間移動する。そこで視聴用の画面は一度暗転しアルルの声だけが響いている。


「おっと可愛らしいエルフさんとイケメン獣人の御三方ですねー!まずはご挨拶と許可を頂きましょう!」


先に到着し加入者を待っていたのだろう。小柄な女性エルフと男性獣人がヘイム山1層入口で焚火を囲み緊張感もなく座り込んで話していたが突然現れたアルルの姿にエルフのキャラクターが飛び跳ねた。


「うわ!もしかしてアルルさん?本物??」


小柄なエルフは飛び跳ねたかと思いきやアルルの周りを走り回っている。


「はい、アルルですー、今日はよろしくです」


「やっばい!ヤバいよスラ君カイ君!!」


本物だと確信したのか相変わらず飛び跳ねたり走り回っている。他の2人に喜びを最大限に伝えたいようだ。


「初めましてアルルさん、カイスと申します。よろしくお願いします」


金髪に宝石の様なグリーンの瞳といかにも優しそうな獣人キャラクターのカイスが丁寧にお辞儀をする。獣人とは言え普通の人間にキツネの様な耳と尻尾が生えているだけで全身毛むくじゃらなわけではない。服装も白をメインにまとめられていて絵に描いたようような男前だ。


「わわジェントルメンですか?素敵なカイスさんよろしくです」


咄嗟にアルルも合わせてお辞儀するがなんだかぎこちなくてその場の4人が一斉に笑った。


「はいはいはい!ハルです!!いつも動画見てまっす!!よろしくどぞー!!」


金髪に碧眼、少し垂れた長耳、そして緑色のローブを纏ったこちらもいかにもなエルフのハルが両手で握手を求める。


「うふふ、可愛いハルさん、眼の色と背丈が少し違うだけで私達なんだか似てますね!今までどこにいたの?妹よ!!なんつって!よろしくお願いします」


「あわわ!お姉ちゃん?お姉ちゃんっ!!」


ハルはテンションが上がりすぎてどうにかなってしまいそうだ。


音声だけが配信されてる状態だがそのやりとりを視聴者達が笑う。


同じ種族の2人が握手する姿はなんだか本当に姉妹の様にも見える。


「スライです。パーティ募集に入ってくれてありがとう!よろしくっす。」


銀髪に同じ色の尻尾、蒼がかったグレーの瞳、装備も全身黒で統一したスライが片手で握手を求める。カイスとは真逆な色味で2人が並ぶとハルはどうしてもオセロを思い浮かべるらしい。


「パーティ募集主さんですね、拾ってくださりありがとうございます!こちらもカイスさん同様イケメンですね!その眼の色なんてなかなかレアなのでは?素敵です!!よろしくね!」


アルルは握手に応えるとスライにニッコリと微笑む。

その姿を見たハルがまた周りではしゃぎたおす。


「褒め上手っすね!こんな美人に言われると流石に照れるわ」


スライの言葉に騒いでいたハルがピタリと動きを止めた。


「やい!オセロの黒い方!いつもあたしがいるだろが!」


「ああ、うん、アルル進めてくれていいぞ」


「おいっ!こら銀髪バカヤロウ!!」


ハルがスライに飛びかかり髪の毛を引っぱっている。


「何すんだ!やめろ!」


「すみませんアルルさん、この2人は放っておいていいですよ。いつもの事なんで」


唖然としているアルルにカイスが苦笑いで声をかけた。


「あ、はい、ではまず初めに配信をご覧の皆様には見えてない状態ですが、このまま配信してもよろしいでしょうか?お顔が皆さんに見えちゃいますから」


アルルが動画配信の状況を説明し3人に問うた。


「自分は全然構いませんよ。ハルちゃん、スラ君どう?」


「もちのろんっ!」


「俺もかまわないぜ」


カイスの問いに何のためらいもなく髪の毛をつかみ合う2人が快諾する。特にハルは嬉しさのあまり食い気味で答えそれがまた視聴者の笑いを誘った。


「皆さんありがとうございますー、ではそのお顔映させて頂きますね。ちょっと暴れてる方もいますけど…いっか、えいっ!」


そう言うと暗転していた配信画面に4人の姿が映し出され視聴者達の色んなコメントでチャット欄が加速していく。その流れを見つつ慣れた様にアルルは視聴者に向けて説明を始めた。


「これからヘイム1層へと入りコンテンツボスの亡霊将軍サープラスという高難度ボス討伐を私を含めたこの4人で挑みます!いいですか?4人ですよ〜!最小人数です!みんな応援してねー!あ、それと大事な事忘れてた。コメントでの誹謗中傷は絶対にやめてくださいね。これアルルからのお願いです。」


アルルの背後には自動で追尾するコウモリが飛んでいる。このコウモリはプレイヤーが撮影したり今回のように動画配信する際にオプションから選択すると出現する。アルルはそのコウモリに向かって先程から話しているのだから少し滑稽にも見える。


「なあ、アルルは今何層まで行ってんの?」


スライが何の躊躇もなく質問する。


「ヘイムは昨日4階層まで行きました。でもボスのクラッキングジャガーが強くて、6人だと厳しいかなぁーって印象でしたよ。なので次は8人で行く予定なんです。」


「すげえな、4階層まで行ってんのか…って事は今週中に行けちゃったりするんじゃね1st」


「えへへ、まだ誰も突破してませんからね、出来れば1位も取りたいのが本音です!無論そのつもりではありますけど」


アルルは人差し指を立ててポーズを取った。


「きゃわいい…」


ハルがアルルに見惚れて思わず感想を口にした。同じ様な容姿をしているのに何かが違う、色気?などとスライも考えるが分からない。


「って事はダンジョン進行中も中継するの?」


いつのまにかハルとじゃれ合うのをやめたスライが手元のステータス画面を眺めながら問う。


「はい、もちろん」


「ふぅん、じゃあミスできねえな」


ステータス画面を閉じ自身の最高装備品に瞬時に切り替えた。


「おおー!それは龍黒の騎士装備!!私とお揃いですね!」


少し刺々しい印象の漆黒の鎧、スライは頭以外そのまま装備するので真っ黒な見た目になるのだがアルルは上半身と手脚が龍黒装備で上手くスカートやアクセサリーを組み合わせいる。


「とても同じ物には見えないな、気づかなかったぜ…」


「そりゃ、そうでしょうよ、てか見過ぎ!失礼でしょ!!」


不思議そうにアルルを見つめるスライを即座にハルがツッコミを入れた。


「あはは…話を戻しますね。えっとハルさんが魔法剣士でスライさんが戦士、カイスさんが回復支援の魔法使い、私も戦士なのでー、シールド2のアタッカー1、ヒーラー1かぁ…スライさんどうしますか?私盾やりましょうか?」


基本的にパーティで挑むコンテンツには各々役割がありクリアするには分担する事が重要だ。

いわゆるシールド、アタック、ヒールの役割だ。

敵の攻撃を受け止めつつ自身に集中させるシールド役とその隙を突いて背後や弱点に攻撃を集中させる魔法剣士や侍、槍術士などのアタッカー、全体を見渡しパーティ内の状況を把握し支援と回復を行う魔法使いであるヒーラー。

中でも戦士はアタッカーとシールダーを兼ねている。スライは片手剣士で空いた片方に盾を持つ事が出来るタイプの盾兼アタッカーであり、アルルの様な身の丈ほどの大剣を扱う両手剣士もアタッカーでありながらその大剣で攻撃をガードする事が出来る盾ロールだ。


「うむー、俺かアルルどちらかが盾に徹するの攻略上当たり前とされているんだが…ボス戦、サープラスは攻撃力がやたらと強いしスピードも速い。時間いっぱいかかってしまう可能性もあるしな。序盤僕が盾やるので交互に代わりフィニッシュをお任せしたいんですが、いかがですかね?」


アルルはスライの提案にニッコリ微笑むと快諾した。


「でもいいんですか?なんか花持たせてもらっちゃうみたいで恐縮です」


「構いませんよ盾好きなんで最後バッチリ決めちゃってください!」


そう言ってスライは子供の様な笑顔でグッドサインを送る。


「スラ君マゾだもんねぇ」


ハルが変な声で茶化す。


「おま!お前なそういう事配信中に言うか!?」


「ふふ、スライさんはマゾ…じゃなくて優しいんですね!じゃあそれでお願いします!」


「アルルまで…」


アルルもなんだか嬉しそうだ。

視聴者達もその展開に歓喜のコメントを寄せる。


「ところでスライさん、気になったんですけどいいですか?」


今度はアルルが不思議そうにスライを見ている。


「ん?何すか?」


「いや、盾をスイッチしてってのはいいんですが…スライさん盾持ってないですよね。それってもしかして…」


「ああー、俺盾使わないんすよ!」


基本的に装備は重量で決まっている。戦士であれば重力ある大剣のみか、剣又は斧と盾を持つ事が出来るのだがスライは片手剣を2本持っている。


「まあ、ご想像の通りで1本は盾がわりにしちゃうからすぐに耐久値無くなって壊れちゃうんすけど」


「そんな方法が!?」


アルルは驚いた様子だった。


「あ、いや…実は俺盾の扱いが本当に酷くて…特にパリィなんか全然成功しないんすよ。あはは。それにこれはうちのクランのマスターもやっていて真似ているうちに慣れたというか…」


「気持ちはわかりますよ!あたしだって結局そういうのがまわりまわって両手剣に落ち着いたんだと思います。」


「じゃあお互い攻撃大好きなシールダーって事か」


スライの言葉にアルルは笑顔で頷いた。


「カイ悪い!そういうわけだから回復や防御支援多めで頼めるか?」


「そう言うと思ったよ。もちろんさ!みんな死なせないよ!任せてくれ!」


カイスも自信たっぷりに答える。


「ねえ!ねえ!!誰かの事忘れてない!?」


ハルが不満そうにしている。


「お前はアタック専門なんだぜ、いつも以上に気張りな!特に合図したらいつものアレ!いいな?」


「え!いいの!?やっちゃっていいの!?」


ハルが喜びを全開にしている。


「ああ!ぶちかましてやれ!」


「あの、スライさん?アレとは?」


「アレは…派手な例のアレです。」


首を傾げているアルルにスライは笑顔で答えた。


「派手な…ああ!なるほど!!」


理解したアルルも頷いている。


「ようし作戦会議はこんなもんかな。じゃ早速行きますか!ではでは改めましてよろしくお願いしまーす!」


「お願いします!」


「よろしくー!!」


「おっしゃー!行くぞー!!」


それぞれが装備を整えるとヘイム山を4人が見上げた。

「いっちょやったりますか!」

ハルが腰に手を当てヘイム山入口を指差した。


スライを先頭に洞窟内へと進んでいく。ヘイム山は山頂の5階層まであり今回4人が進むのはその1階層。入口から突き当たりまで一本道のダンジョンで制限時間60分を使って攻略しなくてはならない。道中全滅もしくは時間切れで攻略失敗となるのだが手慣れているのだろう、ダンジョン内のモンスターを倒しながらお互いの立ち位置や連携をすぐに理解し合うとあっという間に突き当たりにあるサープラスの棲む巣穴まで辿り着いた。特にスライとアルルの連携は息が合っており前後入れ替わりダメージを分散させモンスターを蹴散らしていく。そうして時間は瞬く間に過ぎていった。


イベント開催時にだけ門戸が開かれるヘイム山。その一階に棲まう亡霊将軍サープラス。古代文明時代に滅んだ軍指揮官が怨みをもったまま亡霊化、ヘイム山に棲みつき山頂を目指す冒険者を襲うといった設定なのだがこれが最初の1階層なのに少ない制限時間とサープラスの攻撃力が高すぎて難攻不落だと言われている。ここで諦めてしまうプレイヤーも多いのだが、既に一度攻略済である4人は恐れず進んでいく。


「案外余裕だったな。皆、準備オッケーか?」


スライの問いに3人が頷く。


「んじゃ、行くぜ!」


ダンジョン最奥の壁がスライドしいかにも強敵が待っているかのような空間が眼前に広がる。

中央には玉座がありそこに亡霊将軍サープラスが鎮座しているのが見えた。

阿修羅を彷彿とさせる三面四臂、半壊した甲冑とそれを隠す様に纏ったぼろぼろのマント。

三つの顔はどれも怒っている様に見える。


「何回見ても慣れないイカつさだな」

「もうちょっと可愛ければなぁ…」

スライの言葉にハルが続けて感想を述べた。


「二人とも集中!来るよ」


カイスの言葉通り4人の入室に反応したサープラスがゆっくりと腰を上げる。


「先手必勝!!行くぞ!」


スライは先に飛び出すと巨体の足元を潜り抜け早速振り向きざまにサープラスの脚を斬りつけ敵視を得た。反動でサープラスが大剣を振るうもかわし的確に巨体のいたるところに剣撃を浴びせつつ持ち場を確保しすぐ様背後のアタッカーのハルに合図する。


「いいぞハルっ!」


「うぃっ!」


スライの合図に慣れた様にハルがサープラスの苦手とする火炎系の魔法を自身のレイピアに付与し大きく跳躍すると凄まじいスピードで斬りつけ後方へと退避する。


サープラスがダメージに大きく反応し雄叫びをあげ大技の前兆を見せる。前方位に大剣を振り回す大技を仕掛けるが一撃目をスライが受け止める。大技の為大きく体力を削られ吹き飛ばされそうになるもすかさず二撃目を背中合わせで待機していたアルルが代わりに受け止める。


「タイミングナイス、アルル!!」


「どういたしまして!!次くるよ!!」


大技の最終攻撃の三撃目は縦方向にさらに巨大化させた大剣を振り下ろす。それを盾二人で受け止めきれなければ全体に大ダメージでパーティは壊滅する。


振り下ろされた巨大な剣をまず二人が縦に並んで受け止める。凄まじい轟音と共に沈み込みそうなほどの圧力が二人の体力ゲージを徐々に奪っていく。

すかさずダメージ蓄積の多いスライとアルルをカイスが回復して同時に防御力アップの支援魔法を付与する。この三撃目は長く徐々に二人の体力を奪っていく。2人で受け止めている為身動きが取れない仕様だ。その為他のメンバーが削りきられる前にサープラスの頭部に致命傷を与え大技をキャンセルさせる事が適切な処置なのだが、カイスが予め待機し魔力充填を続けているハルに超跳躍魔法のパトリオットダイヴとプレイヤー自身が大技を繰り出せる支援魔法のアーマーパージを同時に付与しつつガード中の二人にも回復魔法を詠唱し続ける。


「きたきたきたー!」


ハルが自身の魔力を充填し終えると大きく跳躍しサープラスの頭部めがけてアクシズフィニッシュという大技を繰り出した。一時的な大技で敵のキャンセルだけを狙うのではなく大ダメージを与える事を目的としたのだが、ここで一つミスが発生した。アクシズフィニッシュは最大で16連撃の大技なのだが15連撃後の最後に斬りつけながら後退する必要がある。だがハルは誤って16連撃目を実行し魔力不足で硬直してしまったのだ。


「しまった、やっぱ一発多かったー!間違えたー!!MP足んなかったぁぁー!!ごめんー!あうぅ」


魔力を使い果たし硬直したハルは再跳躍で後方に退がれず落ちていく。このままではタンクである二人がいるダメージゾーンに落ち2人が受けているダメージをもろに1人で食らい耐えきれず絶命するだろう。勿論戦闘不能になればカイスの蘇生魔法で復活も可能だがそれでは盾役の2人を支援できずやがてパーティは全滅するだろう。だがそれをタイミングよくアルルが支援魔法で自身の魔力をハルに全て与えた。


「そのまま続けて!!」


すぐさま動けなくなったアルルを庇うように盾スイッチしながら今度はスライが浮遊魔法をハルに付与し単独で巨大な剣を受け止める。それによりハルの体は再度サープラスの眼前に浮かび上がる。


「いけ!ハルっ!」


「ありがと!やってみるっ!!」


そしてハルの連撃が再開された。


タイミングが良かったのか画面上のカウンターもチェーンボーナスが継続され17、18、19…と連撃数が加算されていく。

最大連撃数が16だという固定概念を打ち破った事により視聴者達も熱くなる。カウント数に合わせて大合唱まで始まった。


22!23!24!


「すげえええええええ!」


「見た事ないこんなの!!」


ハルは今度こそ間違えない様自身でもしっかりと連撃数を数えつつ魔力ゲージにも注視した。


「そろそろ…限界…ラストーーっ!!」


29!!!!


「さ、30連撃!!??」


見た事のない連撃に視聴者がどよめく。

そんな中今度こそ30連撃目に切りつけ後退を使い後方へと飛んでいくハルの表情は満足そうだった。


「アルルさん、スラ君、あと、お願い〜!!もう動けない〜」


後方支援のカイスが力なく飛んで来たハルを上手く抱きとめた。


「ハルちゃんお疲れ様、あとは2人に任せよう」


スライが受け止めている間に回復アイテムを使用したアルルがスライの肩に手を当てると二人が目を合わせる。


「ありがとう!予定変更!一気にいくよ!!」

「オーケー!!」


スライとアルルが同時に鈍くなった大剣を弾き返すとサープラスがフラつき行動不能に陥った。

その瞬間アルルとスライも一気に畳み掛ける。


「よっしゃ!押し通せ!!」


「行けーー!!」


視聴者達も初めて見る攻略方法に手に汗握り見守っている。

2人が背中合わせで交互にサープラスを切り裂いていく。


「このまま削り切って…!!」


アルルが斬りつけた先、最後の足掻きか見たことの無い挙動でサープラスが再度大剣を振り下ろす。思わず目を閉じアルルは死を覚悟したがスライが見計らった様に2本の片手剣を交差し防ぐ。


「ふー!!来ると思ったぜ!今だアルルっ!!」


アルルは合図と共にスライの背後から飛び越し一気に加速し前に出て下からすくい上げるように大剣を振り抜くとサープラスは一瞬動きを止め突如膨張し破裂するように爆散した。そして一瞬の静寂の後、討伐完了のメッセージが画面に現れると放送画面は祝福のコメントなどが溢れる中クエスト達成の音楽が鳴り響いた。


「いけたな最少人数!すげえな!!ギリギリだったぜ…あっぶねー」


スライは両手のヒビの入った2本の剣を見つめ額の汗を拭う。


「本当!すごい!!どんなコンテンツもボスもプレイヤー次第でここまで変わるのね。咄嗟にいけるかなって思ったのだけれど、ここまで早く討伐できたのは私も初めて…」


そう言うアルルも微笑みながら消えていくサープラスを見つめていた。

視聴者も驚きが隠せずコメントが加速していく。


「やったー!!!やったよーーー!!!」


疲れ果てカイスに抱きかかえられていたハルもいつのまにか飛び回って喜びを最大限に出していた。

討伐が完了し報酬が自動分配されると4人が再度ヘイム山入口へと転送される。


「お疲れ様でしたーっ!!ありがとうですー!!本当に楽しかった!!」


はじめに集合した入口、焚火前でアルルがはしゃぐ。

画面上にはコンテンツ終了のカウントダウン表示が明滅し各々のキャラクターを光が包み始め転送準備が始まる。ドロップされたアイテムは全てアルルに預け視聴者プレゼントに回そうと3人が言い出すと視聴者はまたもや歓喜のコメントを連投する。なんだか3人も有名人になったかの様な気分で特に言い出しっぺのスライはなんだか照れくさかった。


「アルルさん、こちらこそありがとうございました。楽しかったです」


最初の挨拶同様カイスが丁寧にお辞儀する。


「生配信なのに皆さん慣れてらっしゃって感激しました!とってもやり易かった!と言うより本当に楽しかったです!!よかったーこんなに楽しくプレイ出来るプレイヤーさんに出会えるなんて」


「アルルさん人気実況者ですもんね〜大勢の方がご覧の中汚いものは見せれませんよ〜」


ハルが変な顔をしながらわざといやらしい声で応える。


「おかげさまで視聴数もグッと…って言うのは冗談でして私もまだまだなんですよー、日々精進でございます。あ、そうだ!えっと是非また遊んで頂きたいのです。良かったらフレンド登録しませんか?」


制限時間が残り少ない中3人に対してアルルがフレンド登録を投げかけると即座に申請が受理された。


「やったぜ!むしろこちらこそまたよろしくな!!いつでも呼んでくれよなアルルよ」


スライもハルの真似をし変な調子で応えるとアルルは大笑いした。


「本当楽しい人達!!ではまたどこかでお会いしましょう。本当にありがとうございました〜」


それぞれが元いた場所に転送されていく。その中でアルルが大きく手を振る。


「はーい、バイバイ〜アルルさーん!まったねー!!」


ハルも転送されながら大きく手を振り返した。

一度画面が暗転し一変する。先程までの異様な空気ではなく落ち着いた音楽が流れ始め3人は緑が生い茂る森林地帯の住居エリアに転送された。


転送された場所は小さな庭のある小さな家の玄関。

ここが3人の所属するクラン、レッジョ・ディ・カラブリアの拠点なのだ。

クランを立ち上げたマスターがイタリア人と日本人の間に生まれたハーフであり幼い頃住んでいた地域の名前が由来となっている。メンバーは10名と小規模だが高難度クエスト攻略にも常連でレッジョの名で知られている。


ハルはすぐに玄関を飛び出すと庭にある木彫りの椅子に座りさっきまでの時間を噛みしめる様に目を閉じ独り言の様に話し始めた。この椅子はハルが制作技術のレベルを頑張って上げて作ったのだがどう見ても失敗作で変な形をしている。どこがハマったのかわからないのだが、かわいい!と気に入りほぼハルの定位置になっている。


「楽しかったなぁーまた参加できるといいなー」


よほど楽しかったのだろう、今は少し寂しそうだ。


「ハルめっちゃテンション高かったもんな」


ついてきたスライがわざとハルの前髪を上げおでこを晒しふざけながら相手する。


「やめろよー!このー!!だって人気実況アイドルだよー?てかあれ?もしかしてスラ君あんまり知らなかった?」


スライの手を退けつつハルがスライの顔を覗き込む。


「聞いたことはあるけど見たことなかったんだよね。でもたしかにアルルはすげえ。噂通りめっちゃ上手だった!まさかあんな攻略方法があるなんてな!あいつマジすげえな、今度チャンネル覗いてみるかな」


スライは考える仕草のままハルの側の芝生に寝転んだ。


「あはは見る前に出ちゃったね。僕もあんなにスムーズに高難度ボス倒しちゃうのは初めてだったよ」


近くのちゃんとした椅子に座ったカイスが2人の様子を見て微笑みながら言う。


「大技時間切れとアルルの魔力付与がドンピシャだったな!ハルもよくあそこで諦めずに連撃再開したし最高だったぜ!」


「えー、嬉しいーありがとー!!スラ君だってあの大技攻撃避けつつなのにちゃんと跳躍付与くれたしすごいよ。しかもアルルさんの事考えてのスイッチめっちゃスムーズで昔からの知り合い?って思うほど綺麗だったよ。背中合わせの二人めっちゃかっこよかった〜」


急に思い出した様にスライがハルを褒めるとハルも全力で喜びながら褒め返す。


「いやいやカイの安定した支援のおかげだぜ!毎回思うがすげえよな。漏らさず全体を見てんだもんな!魔力管理とかどうやってんだよー尊敬するよマジで」


2人がジッとカイスを見つめる。


「ぼ、僕はいつも通りだよ。君達が前線を保ってくれてるからこそ落ち着いて全体を見れるんだ。」


恥ずかしそうにカイスもまんざらではない様に答える。


「またまたーそんな謙虚さ出してー、いつもより支援バフが多かったのすごく心地よかったの!配信中だからちょっと張り切ってたんじゃない?ええ?カイスちゃまよ」


ハルの変な表情といやらしい言い方がはじまる。ハルは最近よくこういう事をする。どうやら自分の中で流行っているらしい。自分でやってすぐに自分で笑い出すのだから見てる側が可笑しくなる。


「んーちょっとね、はは。でも本当にアルルさん上手かったね。さすが人気動画配信者。そんなアルルさんより目立ってた人が一人いたけどね。」


カイスがお返しとばかりにハルに不敵な顔をする。


「ぐぬぬ…はい、そんなハルはテンションマックスでまさかの連撃数間違えてごめんなさい」


わざとらしい顔で自分の頭を軽く叩き反省してるそぶりでハルがスライに助けを求める。


「大技ぶちかましまくってたもんな!でも派手でよかったぜ!なんせアクシズフィニッシュを30連撃続けた奴を俺は見た事がない!」


スライはグッドサインで答えるとハルは再び満面の笑みになる。


「えへへ張り切っちゃった」


「派手といえばそういやさ、次のイベントもみんな参加するよね?」


カイスが次のイベント内容を話題に出すとハルの眼の色が変わった。


「もちだよーゴルド山分けでしょー?絶対みんな参加ね!」


ヘイム山イベントが終了した後、通貨であるゴルド争奪イベントがあるのだ。


「金の亡者め!」


スライがはしゃぐハルを指差す。


「うっさい!そんな事言うスラ君に配当はありませぬ」


プイッとハルが顔をわざと背け答える。


「おい、そりゃねーぜ」


「スラ君抜きで山分けをしようぞカイ君」


カイスに耳打ちする様にハルが言う。


「そうだね、スラ君には無償で働いてもらおう。」


カイスもハルに同調しふざけている。


「おいカイまで!」


3人がいつものようにふざけていると遅れたレッジョのメンバーが続々とログインし始めた。


「おっすー」


「こんばんはー」


「マスターおっすー」


「んあああーミハルちゃんかわいー!!」


ミハルが最近獲得したドレスで現れるとハルが飛びつく。


「ハルちゃんだってかわいいぞ。」


そう言いつつもミハルが恥ずかしそうにしている。

そんな2人を飛び越えてトンマがスライとカイスの元へ走り寄ってきた。


「おいお前ら、配信見たぜ!残業なければ参加できたのになぁくっそー」


トンマはレッジョのマスターだ。スライやカイスとは違い大型獣人族のガタイの良いライオンといった印象でメンバー全員が頼りにしている斧使いの戦士だ。そんな屈強な獣人が膝をつき悔しがっている。


「フレンド登録頂いたからまた機会あるよ」


その姿に微笑みながらカイスが話しかけた。


「なぬ!?さすがカイ!いやカイス様ー!!んで実際どうだったんだお前ら?あとアルルたん可愛かった!?」


ミハルに抱きつき頭を撫で回していたハルがトンマの問いに反応し3人の元へ駆け寄る。


「あのねぇ……すんごく楽しかったばいっ!!」


ハルが大声で感想を述べた。


「だろうなハルのそのテンションで分かったわ。そして羨ましいわ…くそう!!てかばい!ってどんな方言だハル坊」


トンマは大笑いしその場で自分の膝を叩いている。


「えへへ、あたしにとっては神だよ神!いつも攻略動画にはお世話になってるんだよぉ。」


「たしかに分かりやすいもんね。まあスラ君は見た事ないから知らないだろうけど。」


そう言いカイスが笑顔でスライを見つめる。


「俺はな、どうやって攻略したらいいのか直で行って考えるのが好きなの!」


不貞腐れたように頬杖をつきスライが応える。


「まあ醍醐味ではあるよね。」


カイスがスライに同調し頷いている。


「そうだぞハル。このクランではヘイムは攻略動画見るの無しで挑んでるんだぞ。隠れて見たりすんなよ?」


「し、しないよぉ。」


トンマの指摘にバツが悪そうにしつつハルが座り込む。


「ハルちゃんは私が見張っておきましょう。」


先程とは逆転し今度はミハルがハルを背後から抱きしめ頭を撫でている。ミハルは小人族でとても小柄だ。座り込んだエルフ族のハルを背伸びして頭を撫でているのだからこれも不思議な光景だ。


「もうミハルちゃんまで。ひどいんだぞ君達。」


「お話中申し訳ないけどーマスター、そろそろ時間だあよー」


ヨナが笑い転げるトンマの前で仁王立ちしている。ヨナは人族の女性弓術士で眼の色や髪型が紅く装備も赤で統一している。プレイ歴も長くレッジョではスライ同様サブマスターとして特にクエスト攻略などの管理をしているしっかり者だ。


「おおそんな時間か。てなわけで今日も行くぞーお前らーー!!今日はなんとしてでも3層までは行きたい。少なくとも8人は必要として…ヨナと回復はミハルとこれももう1人だから…ハルそれにスライとカイは強制な。」


ヘイム攻略はレッジョの悲願だ。

実装されて1ヶ月。未だに頂上まで到達したクランやパーティは存在しない。イベントも残り1ヶ月で終わってしまう。


「あ、ごめんマスター俺パス」


スライが申し訳なさそうに手を振りつつ断った。


「はあ?マジかよスライー。」


トンマを含め皆がスライを注視した。


「さっきので疲れちった。たぶんミスするしちょっと頭いてえ。」


「んだよー。しょうがねえな。ハルとカイは行くだろ?」


「あたしは行くよ!カイ君も行くっしょ?」


「ごめんよ、僕もパスで。」


満面の笑みでカイスを見ていたハルもその返答に残念そうにしている。


「おいどした?カイもお疲れか?」


「そろそろ落ちないとなんだ。ごめんよマスター。」


カイスも申し訳なさそうにしている。レッジョの中では特にログアウトする時間が早いのもカイスだ。仕事が最近朝早く時間が限られているらしい。


「仕方ねえなー残念だが次回は絶対だぞ2人とも。

今日いけるとこまで解放しとくからな。そしてあわよくばそこにアルルたんを…」


「ああダメ元で誘ってみるよ」


スライの返答に目をつぶり怪しい表情を浮かべるトンマだがすぐに背後から突きつけられているマイコの殺気立つ視線に気づき慌てている。


「あ、マイコ来てたのか…そうかそうか、おこんばんは〜…」


「ねえスラちゃん、さっきからこの人は誰を思い浮かべてヤラシイ顔してたのか教えてくれる?」


現実世界でマイコはトンマの奥さんだ。夫婦でイタリアンバルを営んでいてスライもよく利用しているのだがホールを任されているマイコはとにかく優しく美人な事で評判だ。とても優しく怒ったところなど見た事がないのだが…なんだか今は笑顔が怖い。


「あ、いや…きっとマイコさんの事です…よ?」


「へえ…そう。じゃあ後でしっかり聞かないとねぇ…ト・ン・マ」


さらに笑顔でトンマににじり寄るマイコに全員が圧倒されている。


「そ、それはそうと…そろそろ行かないと…ね?」


気を利かせてヨナが苦笑いを浮かべながら話を戻した。


「そ、そうだな、ゴホン。えっとマイコ…いやマイコ様がヒーラーで入ってくださるからあとは誰か行けねえか?」


急に真面目な表情を作りトンマが募集を募った。


「じゃあスラパイセン代わりに自分行くっす!」


ヨハンが手を上げその場でジャンプしている。


「そのパイセンってのやめろや。」


ヨハンは男性人族で見た目はとてもチャラい。金髪にこれでもかとピアスなどのアクセサリーを付けている。そして何よりスライを慕っている。何故かは分からないがいつも軽い冗談を挟みつつスライの後を追いパイセンと呼ぶのだ。


「やだなーパイセンはパイセンですよー。ねえアッちゃん。」


「ふふふ、スラ君はお兄さんだもんねぇ。」


ヨハンの横で妖艶さを醸し出している竜族の女性がアッ子だ。槍術士なのだが水着の様な格好ばかりしており最大限まで露出しているのだが竜族特有の鱗がなければかなり際どい姿だと思う。


「うひゃーいい!いいすねそういうの!パイセンじゃなくて兄さんって呼びますこれからは!!」


アッ子の言葉に感化されヨハンがはしゃぐ。


「勝手に兄弟にすんじゃねえよ。アッ子もお姉さんだろ?年齢的に。」


「へえ、そんな事言うんだぁ。ちょっと貸してくださる?」


つい出た言葉に普段和かなアッ子も癇に障った様子だ。だがスライは全く気づいていない。


「は?なんだよ。金か?悪いけど俺持ってねえぞ…」


「面貸せ、ですわよ。」


いつのまにか近寄っていたアッ子が槍を片手にスライにターゲットしている。


「あ…すいません。許してください…」


槍の先を見つつスライが怯えながら許しを請うた。


「女性に対して年齢をネタにするなんて、ひどいじゃない?でもいいのよぉ別に…ちゃぁんと責任、とってくださるのよねぇ。アタシ前からスライの事気になってたのよねぇ…そういえば竜族と獣人の子供ってどんな可愛い子がうまれるのかしらぁ」


アッ子が槍をしまいわざと豊満な胸部を見せつける様にスライにまとわりついた。


「あ、アッ子?近いんですけど…」


さらに迫るようにアッ子がスライの身体に触れた。


「何言ってるアルか?アッちゃんは素敵女子ですぞ!素敵お姉様なんだぞ!スラ君ちゃんとあやまれ!」


二人の間に下から生えるように現れたハルが引き離す。


「ごめんなさい。なんか話ズレた気がするけど本当にごめんなさい!!」


逃げる様にスライが言うとアッ子は残念そうにしている。


「あーあ、またハルちゃんに邪魔されたぁ。…ん?素敵お姉様…?ちょっとハルちゃん?」


「はいお姉様!一緒にヘイム山へ行きましょう!!」


ハルの眩しい眼差しにアッ子も首を振っている。


「はぁ。はーい。てかそこでニヤついてるアンタも行くのよ!」


「え!自分もですか!?自分はその、まだ適正レベルになったばかりでして…」


集団から少し離れるようにして笑って見ていた亜人のネコちんが顔を赤らめ慌てている。


「行くわよねぇ?」


接近され顔を背けたネコちんの顎を優しくすくい上げるようにアッ子が催促する。


「あ…はい。」


「なんかイヤらしいな…いや…よし、ネコちんとアッちゃん確保。とりあえず行けるやつだけで…」


またもやマイコの視線を感じてトンマは無理矢理考えているそぶりであたりを歩き回っている。


「よっしゃ!時間もったいねえし行くぞてめえら!」


突然逃げる様にトンマが叫びながら歩き出した。


「オーッ!じゃあねーカイ君スラ君。あ、ねえちょっと待ってよぉ。親方ー!」


「ハル坊!親方って言うなって言ってんだろ!!」


「坊もやめろや!女の子だぞ!!」


「なんだと!?マスターに向かってその物言い貴様…」


「ちょっとあんた達!待ちなさいって」


二人は言い争いながら早歩きで進み、他のメンバーも笑いながらスライ達に手を振ると追いかけていく。


「はいはい行ってらっしゃい。賑やか通り越してうるせえよ。」


「はは、元気だね相変わらず。」


その光景を見つつスライとカイスはひとしきり笑った。


「本当だな。若いってすげえわ。カイはやっぱ明日早いのか?」


「まあね、いつも通り早いってのもあるけど。」


カイスは照れ臭そうに俯いている。


「ん?」


「久しぶりに二人で話すのもいいかなって。」


チラと見やるカイスにスライは気づいた事を口にした。


「なんだよ、なんか相談事か?」


「鋭いねえスラ君は。」


「当たり前だろ。どんだけ一緒に遊んでると思ってんだ?リアルな表情は読み取れなくてもそんくらいは分かるぜ。」


「かなわないな。スラ君とは一番最初にフレンドになってもらって長い付き合いだからさ。一番に言っておこうと思って。中で話そ。」


二人はクランハウスの中へと入りカイスの部屋へと向かった。


「んで相談ってなんだ?」


スライは部屋に入るなり慣れた様にソファに腰掛けるとカイスがおもてなしのお茶を持って正面に腰掛けまた俯く。


「うーん、それがね。」


「おうおう、ん?さてはあれだな!恋の相談か。」


スライの言葉に一瞬目を丸くするも隠すように俯きお茶をコップに注ぐ。


「あはは……」


「当たりか?」


「まあね。」


「おいおいおい!マジか!」


スライは勢い余って立ち上がりテーブルをひっくり返しかけたが慌てているのはカイスの方だった。


「と言ってももちろんゲーム内での事だよ。」


「そんなんどっちだっていいだろ。もう俺らここに住んでるようなもんだしな。で?」


「えっと…僕、ハルちゃんが好きなんだ。」


「うんうん。だろうな。それで?」


スライの返答にしばらく唖然としカイスはフリーズしている。


「え?」


「知ってるよそんなもん。見てりゃ分かる。」


驚く事もなく座り直したスライは差し出されたコップでお茶を飲む仕草をする。


「嘘だろ!?え…あ、ええ!?」


慌てて今度はカイスが勢いよく立ち上がりまたテーブルがひっくり返りそうなった。


「おいおいどうしたカイス君よ。冷静沈着でおなじみの君が慌てるとは相当だな。まあ気づいてないのは当の本人達だけで周りはみんな気づいてるよ。

でもさお前らお似合いだと思うぜ!そういう事なら俺は全力で支持する。」


「本当に!?」


カイスはスライを見つめ両手を胸のあたりで祈るように重ねている。


…お前は女子か?

笑いそうになりつつもスライは堪えて続けた。


「ああ、もちろん。」


「それでね、急なんだけど明日告白しようと思ってて、それでどうしたら良いか聞きたくて、んでね…」


スライは畳み掛けるように早口で話し始めたカイスに驚きつつも一度手で制して落ち着かせた。


「ちょ、ちょっと待てって、明日だぁ?そりゃ突然だな。なんで明日なんだ?なんかあんのか?」


「明日でちょうど僕ら出会って1年なんだ。その日を大切にしたくて…それで、その…あのさ…」


恥ずかしそうにモジモジとするカイスの姿にスライまでもなんだか照れ臭くなってくる。


…だからおまえは女子か?


「オッケーいいぜ。手伝って欲しいんだろ?」


「本当に?」


俯き加減だったカイスの表情が一瞬で輝いた。


「もちろんだぜ。当たり前だろ。任せろ!」


スライはそう言い自身の胸を叩きアピールする。


「ありがとうー!はぁ…よかった…」


カイスは安堵したのかゆっくりと深く座り込んだ。


「んだよ泣いてんのか?らしくねえな。」


「な、泣いてないよ!」


「怪しいな。ふふ。」


スライはカイスの反応を面白がっていじる。


「そういうスラ君はいないの?好きな人とか。」


突然の質問にスライも驚くが改めて考えてみる。


…そういや、周りではゲーム内で付き合ったり結婚までしてるプレイヤーも珍しくない。現実でもそれがキッカケで本当に結婚した者だっているってなんか聞いたな。


「んー、あんま考えた事なかったなそういや。」


「え、そうなの?僕はてっきりスラ君はハルちゃんが好きなんだと思ってた。だから俺もだ!って言われたらどうしようって思って…」


カイスの発言にスライは心底驚いた。


「は?俺が!?ハルを?ないな。うん。それはないから安心しろ!だから俺は応援する!」


「良かった。」


スライの反応に余程安心したのかそのまま力が抜けたようにカイスは座り込んだ。


「んで、あいつのどこに惹かれたんだ?かなりのおてんばエルフだぞあれは。」


「そういうとこも好きなんだ。」


「だから見てりゃ分かるって。」


スライはそう言いわざといやらしい顔をする。


「その企んだ顔やめてくれよ。」


「まあとにかく明日だな。何したらいい?」


「その、ノープランなんだ。」


「え?あの策士で有名なカイス様がノープラン!?」


スライはわざとらしいポーズでカイスを煽る。


「策士!?いや戦闘とは違うんだよ!そういうのどうしたら良いのか分かんなくて。スラ君ならなんかそういうの慣れてそうだから。」


「は?なんだよその俺のイメージ…まあいいやしょうがねえな。なんか思い入れのある場所とかねえの?」


「場所は決めてるんだ。タイダル森林の滝。」


タイダル森林とはロード王国の西に広がる森林地帯だ。森林中央にはエルフ族の里があり綺麗な水と樹々が生い茂り、最奥ではエッブート山から流れ落ちるタイダル滝がプレイヤーの撮影スポットとしても人気だ。


「いい場所選ぶねぇさすが!間違いねえ、人気だもんな」


「うん、でもそれだけじゃないんだ。実は初めてあそこでハルに出会ったんだ。」


「そういやハルがこのクランに来たのもお前が連れてきたんだったな。聞いたことなかったけどさ、どういう出会いだったんだ?」


「言うのかい?今ここで?」


「当たり前だろ?色々と知っておかなくちゃあフォローも出来んよ。さあ言いたまえカイスよ。サブマスター権限で命令する。」


「鬼畜サブマスターだ…」


「その言われようは色々とアレだが…いいから聞かせろよ。」


諦めたのか一つため息を吐き出すとカイスが語り始めた。


「あれはちょうど1年前、当時僕はスラ君とダンジョンで仲良くなってこのクランに入れてもらったよね。みんなに手伝ってもらって戦闘スキルやらレベリングがひと段落して今度はクランに恩返しがしたくなった僕はクラフト素材を探しにタイダル森林に行ったんだ。」


「おお、懐かしいな!それにさすがカイスだ。俺と違って真面目だ…ほうほうそれで?」


「マイコさんに相談したら高値で売れるし高級装備にも使えるクリゼリア樹木を教えてもらってさ、それをひたすら探してたらさ。滝の前に倒れてるエルフがいて…」


「ははーん、それがハルか。」


「最初ビックリしたんだ。あそこは初心者には厳しい高レベルモンスターがいるからね。初期装備だしステータス表記も低レベルなエルフだって一目でわかったからモンスターにやられて蘇生待ちでもしてるのかなって。それで声をかけたんだ。大丈夫ですか?って」


「そしたら?」


「どうぞどうぞお昼寝中だから気にしないでくださいって言われて。でもあの時のハルちゃんたらレベル17くらいで。」


「よくそのレベルでそこまで行けたな。」


「どうしてもここで昼寝したかったんだって。」


「あいつらしいな。」


スライが大声で笑う。


「でも季節設定が乾季でね。周辺にはモンスターがうじゃうじゃいて。だから邪魔させないように隠れてモンスターを狩ってたんだ。」


「いいやつじゃんお前。」


「ハルちゃんったら全然動く気配無くて…気づけば日も落ちて辺りは真っ暗。でもあそこの滝って天候が晴れで夜になると星空と連動して光るんだよ。」


「なるほど隠れスポットだな。知らなかったぜ。んで?」


「いつのまにか起きたハルが目を輝かせてそれを眺めててそれが景色と相まってすごく綺麗で。心から美しいって思ったんだ。」


語るカイスは当時を思い出しているのか目を閉じている。


「ヒューヒュー!なるほどーいいじゃんいいじゃん。んでそこで告白しようって事だな。」


「うん。でもどうやってタイダル森林に来てもらうか考えてたんだ。あの辺クエストないし。僕実はあんまりハルちゃんと2人だけで行動したこと無くて…」


「そういう事なら任せろよ。俺が色々話つけてハル連れて行くから。時間もその光る滝がいいだろうから夜だな。リアルタイムでハルがいそうな時間帯だとちょうど今くらいか。ふむふむ。よし明日ログインしたらお前は位置情報オフにして滝の前で待ってな。ちゃんと言う事考えとけよ。」


「さすがスラ君テキパキすぎる。うん。でも大丈夫?」


カイスはとても不安そうな表情をしている。


「そんな不安そうな顔すんな。お前は自分の事だけ考えてろ。大丈夫!実際にはない報酬クエストで釣る。お菓子貰えるぞとか言えば余裕だろ…ふっふっふ。」


スライはなんとも言えない企んだ表情をしている。


「なんて顔してるのスラ君…」


慌てるカイスの表情を楽しんでいたが視界の隅の時間表記が23時に変った。


「おっともうこんな時間か。そろそろ寝るか。俺も明日早いんだわ。」


カイスも時間を確認し素に戻った。


「うん僕も落ちる。」


二人は同時に立ち上がりスライはカイスの部屋を出る。

部屋を出る間際に振り返るとカイスはまだモジモジしている様に見えた。


「おっしじゃあ明日に備えてゆっくり寝ろよ!!おやすみー。」


そう言い自室へ向かおうと踵を返す。


「おやす…あ、スラ君!」


自室の扉を開けかけたスライにカイスが廊下まで追いかけて声をかけた。


「ん?」


「ありがとう。」


カイスが胸に手を当て満面の笑顔で感謝を伝える。


「おうよ。おやすみなー」


「うん、ありがとう!おやすみ。」


軽く手を振りスライは自室へと入るとベッドに寝そべった。


-ログアウトしますか?-


表示されたメッセージをタップし処理を終えるとデバイスの電源が落ちバイザー越しの視界に見慣れた天井が映った。

ヘッドセットを外しコントロールグラブを脱ぐとなんだか自身の心拍数が上がっている気がした。


「今日は色々あったなぁ。よし、明日は早めに仕事終わらせて帰宅だな」


ベッドへ移動し部屋の照明を落とす。するとすぐさま眠気が襲ってくる。いつも通りアラームをセットし眼をつぶった。

…明日ハルどんな顔するかな?それよりカイは上手く言えるだろうか?心配だな…などと考えているうちに心地よい眠気に覆われ気づかぬうちに眠りへと落ちていった。

お読みいただきありがとうございます。

更新頻度は遅いかと思いますが頑張って書き切れたらと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ