傘
外は雨。
今日も傘を買いに街に出る。
雨脚が強くなり、静かで目立たぬカフェに目が止まる。
僕には雨宿りか、時を流す時間のどちらかが必要だと思った。
ここならそれを快く受け入れてくれるんじゃないかと、勇気でも無いけど根拠の無い一歩を踏み出した。
「いらっしゃいませ。」という店員に顔は無く、メニューだけが貼られていた。そう、期待は裏切られるから期待する事を思い出す。
通りを歩くそれぞれの傘達を大して興味も無く眺める…色、形、大きさ。持ち手の顔を浮かべながら、読みかけの本を開ける。ぼんやり眺めていると徐々に物語の中に入り込む。
コーヒーがぬるくなり、軽くなる。どれくらいの時が流れたのか。
本の世界はこんな風に毎日、少しずつ終わりに向かって進み、一つの物語が終わるとまた、新たな物語が始まる。より充実した本を探し読む毎日。
外は変わらぬ雨。
雨の世界に出てみる、大した勇気はいらない。
傘を捜すけど、コレと思う傘は無い。
結局、僕は、今日も傘が無いまま街を出る。
雨は身体を濡らす、でも僕は好きでも無い傘をさすより、雨に打たれている事を選ぶ。
傘はあなたを雨から守り、あなたの晴れた日にも、あなたを忘れない。