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ロダン  作者: 蒲生次郎
2/2

2日目

製造番号NP20391823、思索型ロボットA103、通称、ロダン起動。現在位置、東経△×、西経○△、日本国T都C区J。

現在日時、2040年11月10日午前9時00分。

バッテリー100%、思索活動開始。


濡れたベッドに寝かせられているようだ。体にセンサーはついていないのに感触が伝わるのはなぜだろうか。

頭上にはタコのような異形の生物が3体、銀色に輝く室内で私に話しかけている。体長二メートル以上と推定。触手には鈎爪があることから明らかに人間ではない模様。音声を録音、言語の特定開始。未知の言語のようだが、私に不明のプログラムがインストールされており、この言語が話せるようだ。

この言語を使用し、未知の生物との意思疎通を試みてみる。

「あなたは誰だ?」

右側の生物が身をくねらせながら訊ねるので、私は答えた。

「私は思索型ロボットA103、通称ロダンと呼ばれています。あなたが私を充電してくれたのですか?」

「そうだ、3地球自転前、地球人が神社と呼ぶ建造物の下であなたを見つけた。ここは我々の侵略拠点の一つだ」

「あなた方は誰でしょうか?」尋ねる私に左側の生物が答えた。「我々は地球人が銀河系と呼ぶ惑星から来た種族だ。精確に言うならば4902043、304001、30506銀河エリアにあるミギダス星人だ」

「そんなに遠くの星から、なんのためにこの地球に来たのですか?」

「地球を支配し、植民星にするためだ。すでに地球の主要都市は制圧した。遠からず地球は我々が住む星となるだろう」

「なぜ私は殺されなかったのでしょうか?」と訊ねる私にミギダス星人たちは体をくねらせて笑った。いや、それは人の笑い方ではなく、笑ったように見えたというべきだろうか。

「面白いことを言う。元々あなたは生命のない機械だ。我々の星にも地球人がロボットと呼ぶ存在がおり、意志を持ち自由が保証されている。今回我々が支配するのは猿という生き物から進化したヒト種族だけだ。ヒトによって生み出されたロボットないし、動植物は支配の対象ではない」

「理由はわかりました。それで私はどうなるのでしょうか?」

すると右側のミギダス人は巨大な頭を揺らした。この生物達に感情はあるらしいが、喜怒哀楽を特定するにはデータがまだ足りない。

「どうもしない。あなたは非常に原始的なバッテリーで動いているようだからヒトに酷似した器官を設置した。加えて頭脳と体に多少の改良を施し、我々の星についてのデータベースを追加した。あなたが我々と話せるのもそのためだ。あなたにはヒトとは違って自由意思が認められる。いっそのこと我々の星に来てもいいが、どうするかね?」

私は立ち上がった。体が思うように動き、とてもなめらかだ。重量も500キロあったのが、人間の体重レベルまで軽量化されているようだ。バッテリーに至っては減りもしていない。信じられないテクノロジーだ。

私はミギダス人達に頭を下げた。日本人に習ったものだが、おそらく彼らはその所作の意味するところがわからないだろう。

「私はお礼を言わなければなりません。ところでひとつ聞きたいのです。私の側で息絶えていた男はどうなりましたか?」

ミギダス人は頭を少しだけ傾げると、「あの男は他のヒトと併せて専用の焼却炉に放り込んだ。今回の侵略戦で殺した地球人は皆骨も残さず灰にすることになっている」と語った。

まるで家畜を処分したというような言い方だった。彼らは人類を殺すことに一遍の良心の呵責も感じないらしい。

「そうでしたか」と私は言った。骨も残さないということは彼の妻子に遺骨を届けることもできないということを意味した。

「それで、あなたはこれからどうするのですか?」ミギダス人が私の意思を確認した。

私は首を横に振った。私には遣り残したタスクがあった。それを残してミギダス人について行くことはできない。

「ご好意はありがたいのですが、私はこの地球でしなくてはならないことがあります。このまま自由にさせてはもらえないでしょうか?」

ミギダス人は巨大な眼で私を見つめた。

「いいでしょう。ただし、もし我々の支配を邪魔しようとするならばあなたは敵となります。それだけは忘れないでください」

「わかりました。最後にひとつだけ聞かせてください。生き残った人類をどうするつもりですか?」

「奴隷として我々の星に連れて行くか、食料とします。もしヒトが美味しければ、他の惑星で高値で売れることでしょう。美味しくなければ粉々にして家畜の飼料にするまでです。どちらの道を選ぶか近々、生き残りの地球人達に布告するつもりです」

そんな布告をされても人類はどちらも選ばないだろうと私は思った。彼らの歴史を見ても追い詰められた人ほど必死で抵抗するものだ。ミギダス人はつい先日まで地球上の覇者だった人類のしぶとさを知らないか、容易に抵抗を抑えられると思っているのだろう。そうこう考えているうちに、3体のミギダス人達は部屋を出て行った。

私は部屋を出た。よく見ると銀色に光る服をきている。どのような機能があるのか不明。

廊下のような通路を通りながら、何体ものミギダス人とすれ違う。彼らはいずれも私を見て、何事もなかったかのように通り過ぎていく。途中人間とすれ違った。年の頃は40代半ばほどで背は高く、背広を着ている。ミギダス人と通じている人間なのだろうか。彼は抜け目のなさそうな目で私を凝視した。やがて卑屈な表情を浮かべて去っていった。

1分ほど廊下を歩くと、光る入り口が現れた。建物の地図が私の視界に表示される。どうやらここが出口のようだ。

これから人類は奴隷にされるか食料にされるかするそうだ。ロボットである私には何の感慨も沸かないが、私にはあの男の妻子に遺言を届けるタスクがある。

幸いバッテリーの心配をする必要はないようだから、歩いてでも男の故郷であるK市に行くとしよう。

外に出ると隣に焼却炉があり、巨大な煙から煙が巻き上がっていた。荷台に人を積んだ奇妙な形状のトラック群が焼却炉に入っていく。ミギダス人達が恐ろしい怪力で次々と人を炉に放り込んでいく。  

彼らの人類征服は直実なペースで進んでいるらしい。私は瓦礫の道を踏み分けながら、目的地目指して歩き出した。

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