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いつか竜へと続く道  作者: らる鳥


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 この冬は、集落の雰囲気が何時もの冬とは少し違う。

 それは今年は新たな人間が集落に加わったり、他所の集落から竜神官の見習いを預かっているからなのだろう。

 冬の寒さ、厳しさは変わらないけれど、集落に流れる空気はどこか明るく、暖かなものに感じる。

 しかし今年の冬、集落の中に起きた違いは善きものだったが、まるでバランスを取るかのように集落の外、顎の谷には悪い違いが現れた。


 冬は多くの生き物にとって眠りの、或いは死の季節だ。

 この季節を越えられぬ短い命の生き物は、例えば卵のような形で子を残し、そして死ぬ。

 また何年、何十年と生きる長い命の生き物も、多くは冬を眠って過ごす。

 雪に閉ざされた集落から動かぬ人間も、似たようなものだろう。


 これは多くの魔物にとっても同じである。

 中には冬にこそ活発に動く魔物も存在するが、そういった物好きは、それこそもっと雪深い御山の奥を好むから、顎の谷までわざわざ出てくる事は稀だった。

 だが今年の冬は、その稀な事態が起きたのだ。


 雪が降る夜、谷の入り口から大きな咆哮が聞こえ、破壊音が鳴り響く。

 谷の入り口から集落までは、魔物の侵入を防ぐ為に石の塀や逆茂木といった防衛設備が幾重にも張り巡らせてある。

 集落の戦士と竜神官が駆け付けると、防衛設備の一部が無残に破壊され、魔物の足跡が残されていた。


 もしかすると、争いで手負いになったり、冬を越せるだけの獲物を狩れなかった魔物が、冬の眠りに就く事ができず、集落の近くまで降りてきてしまったのか。

 だとしても、当たり前の話だけれど、谷を出て魔物を追うなんて真似ができる筈もない。

 雪に潜む魔物を見付ける事は難しいし、そもそも魔物以上に冬の厳しい環境の方が危険である。

 故に顎の谷の集落に取れた対応は、防衛設備の修繕と見張りの数を増やすくらいだった。


 尤も防衛設備の修繕とは言っても、外に出られぬ冬は新たな資材を得られないし、集落の貯蔵も限られているから、完全に元通りという訳にはいかない。

 昼間に男衆が総出で修繕を行ったが、これはあくまでも応急措置だ。 

 冬が終わって春になれば、資材集めと本格的な修繕を行う必要があるだろう。

 全く、余計な仕事を増やしてくれる。

 ただでさえ春には竜供の儀式があるし、眠りから覚めた魔物の間引きにも忙しく、更に今年は広き丘の集落の手伝いまであるというのに。

 

 足跡からわかった事は、大型の四足の魔物であるという事のみ。

 破壊された防衛設備には爪の痕がクッキリと刻まれていたから、影狼のような獣型の魔物である可能性が高かった。

 まぁ、サイズの方は、間違いなく影狼よりもずっと大きいだろうけれども。


 この襲撃が春だったなら、或いは影狼を使って魔物の追跡という手段も取れただろうが、残念ながら今は冬だ。

 また影狼を飼っているのは、アメナとレイラ、それから集落の狩人だから、どんな相手とも知れぬ魔物を追わせるのは少しばかりリスクが高い。

 残念ながら、それから可哀想な事に、アメナはまだ竜鱗を得ていないし、そもそも竜神官でない狩人に未知の魔物を追わせるのは論外だろう。

 レイラは第四階梯の試練まで越えている竜神官ではあるけれど、今は子育てに注力してる彼女は、以前よりも戦う力は落ちている。

 故に、少なくとも相手の正体がハッキリとわかるまでは、集落の防衛を厚くするくらいしか打つ手がないという訳だった。



 そして次の夜、再び咆哮が集落にまで届く。

 破壊した設備が修繕されてる事に苛立ったのか、それともこの時間の見張りをしてるジャミールと戦闘になったのか、昨日よりも咆哮がずっと大きい。

 急ぎ、駆け付けると、竜鱗に身を包んでいるにも拘らず、口から血を流すジャミールと睨み合ってた一匹の魔物、真っ白な大虎が、こちらを一瞬チラリと見ると、すぐに背を向けて谷の外へと駆け出して、降る雪の中に姿を消してしまう。


 姿を観察できた時間は僅かだったが、それでも間違いなく、初めて見る魔物だった。

 もちろんオレだって御山や顎の谷の周辺に棲む魔物を、全て詳しく知ってる訳じゃない。

 しかし集落の近くまでやってこられる程の距離を活動範囲とする魔物なら、一度や二度くらいは目にする機会もあっただろう。

 ましてあんなにも大きく、優美な姿の魔物なら、遠目にだって一度でも見かけたら、決して忘れはしない筈だし。


 となれば考えられる事は唯一つ。

 どこか遠く、恐らくは北側から、何らかの理由で流れて来た魔物である。

 つい最近……、という程でもないけれど、似たような話は秋に広い丘の集落で聞いて目にした。

 長く広い丘の集落を支えたという竜神官を殺したのは、巨大化の能力を持つ走り蜥蜴という、平原どころか、御山でだって見た事のない類の魔物だったから。


 一例だけだったなら、あの走り蜥蜴が縄張り争いに負けて流れて来たのか、それとも突然変異で特殊な能力を得た走り蜥蜴なのか、何らかの異変が北で起こり、こちら側では見ない魔物が逃れて来たのかわからなかった。

 いや、今でもはっきりとした事はわからない。

 たった二つの例だけで、全てが確定する訳ではないけれど、北で何らかの異変が起きてるのではないかという疑いは深まる。

 恐らく冬が終われば、いと高き場所により詳しい竜人に、この件を相談する事になるだろう。

 次の春は、……どうやら何時になく忙しい春になりそうだ。


 尤もそれも、あの白い大虎の魔物、雪虎を何とかしてからの話だけれど。


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