月零 -getsu-rei-
さようなら
目を開けてひとつ吐く
朔月あざやかな紺青に
ひとこと分の温度が溶けただけ
なにも変わらない今に
知らずもうひとつ息を吐く
左様なら
耳を閉じて指を食む
止め方を忘れた悪癖に
爪紅が今日を彩る
枝葉からにじりよる熱さに
詰めた想いをまた溢した
赤い糸を引く
ゆるく伸びる先はただ
引力に従い落ちるだけ
しとり
地に結ぶころには
指先が乾いて縁が綻ぶ
ひとりよがりの縁結び
新月だけが見届け泣いた
さようなら
頭を上げてひとり吐く
高く広がる紺青に
ひとこと分の穴を穿つ
ぽかりとあいた丸い闇に
仕方がないなと霞が覆う
左様なら
掌を握りやり過ごす
疎らに渇いた爪紅が
一層まだらに剥がれ落ちる
つま先から這い寄る冷たさに
背中を縮めて吐息を詰めた
透明な糸を引く
ぬるく伝う先はただ
引力に従い落ちるだけ
渦巻く激しさから押し出されて
ぽつりぽつり不本意に
紡ぐに足らぬ重い糸
新月さえも見逃し泣いた
歩くことさえ
ままならない宵闇に
無粋な街灯が
目をくらませる
開いた瞳で何も見えないの
閉じた瞼で何も見えないの
へたりこんだ地面の手触りが
ひどくやさしくて
もう少しだけこのままで
誰にともなく赦しを乞う
細く開けたばかりの上弦の気配が
微かにゆるんだ口元に似ていた
いつの間にか
乾いた風が朧を払い空をひろげた
白み始めた今日に今度こそ と
別れを告げた
季節の変わり目に翻弄されがちリターンズ