第52話:青の迷宮。キャラデザの沼にハマってしまった!
『うーん……』
「ど、どうですか?」
『微妙かなぁ~』
「ですよねぇ……」
バレンタインデーも終えたことで本格的に依頼されていたオキテさんの新衣装案について、にか先生と相談しながら、何枚かラフを描いていた。
まず最初にどういう方向性で決めるか、というのは事前に赤城さんやにか先生には伺っていた。
3か月活動したオキテさんがより彩度を高めたキャラクターデザインを。
要するにオキテさんらしいデザインを求められていた。
最初のはあくまでにか先生のイメージであり、本来のオキテさんよりは少し外れたデザインだったとにか先生は反省していた。
別にそんなことないと思うんだけどなぁ、と露出度高めのオキテさんを見つつ考えていたが、よくよく見れば意外と家庭的なところとか、バイトに熱心なところ、勉強ができるところとかを加えてしまうと、多少ズレていると感じてしまう。
今回のはそういうずれを修正し、本来あるべき姿を取り戻すために、一番親しいわたしに白羽の矢が立ったんだけど……。
「わっかんないや……」
『だよね~。いきなりキャラデザなんて~』
「あはは……。それもありますけど……」
何よりわたし自身があまりオキテさんと言えばこれ! というイメージを固めきれていない気がするんだ。
例えば『ギャル』と一言で言ったって、黒ギャルガングロギャル。白ギャルだっているし、他にはクール系に元気系。怖いタイプのギャルだって存在する。
そんな無限大の選択肢がある人の性格から、最もそれらしい人格を選び、キャラクターデザインに落とし込んでいくのは至難の業だ。
元気系白ギャル。オタクに優しいギャル。太陽みたいな笑顔。賢い。誰とでも仲良くなれる。わたしには特別優しい気がする。
いろんなことを思い出してはあーでもない、こーでもないと、ペンと消しゴムを繰り返し使い分けていた。
「キャラデザって、考えれば考えるだけ難しいですね……」
『そ~だよぉ~。だかられっきとした技術として仕事にできるんだけどねぇ』
誰かが言っていた。現代人の半分以上は妄想はしても創作的ではなく、自ら何かを生み出すことはしないらしい。
だからイラストにせよ小説にせよ、何かを生み出せる人は意外と少ないとのことだ。
イラストレーターとしての仕事があるように、小説家という仕事があるように、スキルは仕事にできる。それを極めれば極めるほど、その人のオリジナルになる。
わたしはまだその扉の前に立っただけかもしれない。
作画についてはみんな褒めてくれるけど、キャラデザは未開拓の領域。
にか先生が言っていたが、キャラデザはとにかく試行回数を繰り返すことらしい。
この短時間で浮かんでは描いて、にか先生に見せては消えていくのはそれが原因だった。
『休憩する?』
「いえ、まだ……!」
『はい今強制イベント発生しました~! 音瑠香ちゃんは1回おやすみです!』
「え?! まだまだ疲れてなんか……!」
『キャラデザが雑になってきてたから、脳は疲れてるよ~。ボクはお茶取ってくるね~』
「あぁ……行っちゃった……」
ミュート状態になったマイク入力を見て、1つため息を吐きだす。
にか先生の言う通り、根を詰めすぎたのかもしれない。吐き出した息からなんとなく疲れの色が見えた気がした。冷蔵庫に何かあったかなぁ……。
「……ないし」
お菓子は常備しているつもりだったけど、今日に限って軽いお菓子の類は無いようだった。
仕方ない、わたしもお買い物にでも行ってこよっと。
ヘッドホンを外してから、軽く厚着をして外へと出る。
冬の空気は、熱を宿したわたしの頭を冷やすには十分だった。
でも寒いもんは寒い。身体を震わせながら、コンビニへと歩いていった。
ぼんやり歩きながら見えてきたのは見慣れたコンビニ。多分店員には顔を覚えられているんだろうなぁ、と思う程度には常連だと思う。
いらっしゃいませ~、という声とともに入店したら、とりあえずは甘いもの甘いもの……。
「あ、これ新作出てたんだ」
ほうじ茶味のチョコかぁ。チョコで思い出してしまうが、わたしってあの赤城露久沙からチョコ貰っちゃったんだよなぁ。しかも目一杯チカラが入ったやつを。
思わず口元が緩む。これを世の男子諸君に見せてやりたいところだ。見ろ! これがクラスカーストトップのギャルから勝ち取った手作りチョコだー! ってね。
自分で考えたら逆に惨めになってくるのでやめておこう。そこまでわたしの性格は悪くない、はず。
店内を見て回って、後はジュースでも買おうかなぁ、と思っていると目についたのは雑誌コーナーだった。
女の子って、こういうティーン雑誌を買ってファッションの勉強をしたりするんだろうか。
1冊手にとって見たけど、コンビニの雑誌にはテープが貼られており中身を立ち読みできないようになっている。でも表紙は見れるしいいか。
そこには決めポーズを取って、モデルらしい堂々とした立ち振る舞いをしている女性がいた。
時期的には春服の特集だろうか。露出度が低く、目で見て可愛らしい、かっこいいが伝わってくるファッションで、物事を知らないわたしでも「あ、なんかいいな」と思う。
お財布の中身はちょっと心もとないけど、試しに買ってみようかな。キャラデザの参考になるかもしれないし。
「それに、赤城さんに服をプレゼントする時に参考になりそうだし」
彼女の諸々のサイズさえ知らないのに何を言っているんだ、って思うけど。これぐらいはお世話になったし、日頃のお礼ってことで渡してみたさがあった。
購入してそのまま家に帰ると、ミュートされていたにか先生のマイクがオンになっていることに気づく。
「お待たせしましたか?」
『ん~ん~! ボクもゆっくりしてたところだから大丈夫だよ~』
「ありがとうございます」
結局ほうじ茶味のチョコと飲み物にカルピス。それから似合わない雑誌を買ってきてしまった。
テープを取ってからページをパラパラとめくる。別にファッションだけの雑誌じゃなかったらしい。若い世代のアンケート結果とか、デートならこことか、そういうことがたくさん載っていた。
ひょっとして、これを読み込めば今の最先端が分かるのでは?!
無敵気分で読み進めていたけれど、途中で気づく。流行というものが如何に早く過ぎていくものなのかを。
「今、たまたま雑誌買ってきたんですけど、なんで流行ってすぐ去っていってしまうんでしょうか?」
『急に哲学的な話するねぇ~』
哲学なのか? まぁいいか。とりあえずチョコも一口。んん?! これ美味しい!
「あ、あと! チョコ美味しいです! ほうじ茶味の!」
『それボクも食べたよ~! 美味しいよね!』
「チョコの味と、ほうじ茶の雰囲気が口の中でこう、ふわっと混じって。いい感じです!」
『ふふふ、かわいいねぇ』
「どこにそういう要素ありました?」
『ううん。これはオキテちゃんも惚れるわけだなぁ~って』
惚れる要素あったか? まぁいいか。後は作業中にパクつくとして、そろそろ作業に戻ろうっと!




