46.指輪の行方 side J
大学の廊下の窓から花の咲いてないバラ園が見える。幾何学的な迷路を上から眺めていると、間にぴょこぴょことピンク色のものが動いてるのに気づいた。
「あれは……」
あの女子生徒だ。確か名前はミーナ・ヒロニカ男爵令嬢。よく見ると迷路の中でぴょんぴょんと伸び跳ねている。何をしてるんだろう……?
バラ園に行ってみることにした。
「何をしてるの?」
僕がバラ園の迷路で女子生徒を見つけて声をかけると、困ったような顔から一転とても嬉しそうに笑った。
「よかったです!誰かと会えて!」
「もしかしてまた迷子になっちゃったの?」
くすりと笑って聞くと、女子生徒はしょんぼりとした顔をする。
「そうなんです……。まえに学園の時計台を目標にするといいよって教えてもらえたから、安心してきたんですけど、わたし小さいから時計台がよく見えなくなっちゃって……」
「そっか。それは教えた僕もいけなかったね。学園の方まで送ってあげるよ」
「そんなっ、全然いけなくないです!……けど、送ってもらえたらうれしいです」
女子生徒が恥ずかしそうに上目遣いで微笑む。
「お送りしますよ、ヒロニカ嬢」
僕が手のひらを差し出すと頬を染めて手をのせた。
「あのわたしのことはミーナって呼んでください」
「けど君は第三王子殿下と親しいよね。そんなご令嬢を親しげには呼べないよ」
僕の言葉にヒロニカ嬢が顔を曇らせて俯いた。
「そう、いうふうに見えちゃいますよね。けどわたしは男爵家ですし、ことわることなんてできなくて……」
もしかして、身分の高い者に言い寄られて困ってるのかな。貴族になって日も浅いというから、うまく躱すことができないのかも知れない。
そう考えてると、ヒロニカ嬢がぱっと明るい笑顔で見上げてきた。
「けど、ネオルトさまは同じ男爵家ですし、安心します!……あっ、わたしなんかと同じなんていったら失礼ですよね」
「そんなことないよ。男爵家同士仲良くしよう。ミーナ嬢」
「ほんとですか!?うれしいです!わたしたちお友だちですね!」
そう言って僕の腕に抱きついてきた。無邪気な感じが可愛らしいな。
それからミーナ嬢とは偶に会うようになった。冬休みは彼女が里帰りしてることもあって街に出掛けることも多かった。
ある日自室の机の引き出しに小さな箱を見つけた。3年前に彼女に渡せなかった指輪だ。今さら彼女には似合わないだろう。青と金の細いリボンを解いて中を見る。玩具のような小さなダイヤとサファイアが並んでいる細い指輪。……やっぱり彼女にはあわないな。店に戻そう。
今日の休日もミーナ嬢とロブのいる店に向かう。何度連れて行っても嬉しそうに目を輝かせるミーナ嬢と買い物をするのは楽しい。彼女は喜んではくれるけどあまり楽しそうではないから。
最近彼女には会いに行っていない。行くたびに領地の話を聞かないといけないのが億劫になってきたから。大学の用だと言えば何も咎められないし。
考えていると店の奥でこちらを見ていたロブと目があったので、近づいてポケットの小箱を渡す。ロブはそれが何か気づいたようだ。
「店に戻しておいてくれるかな」
「ですがこれは……」
「もう彼女には相応しくないだろう?」
「……そうでごさいますな」
ロブは何か言いたそうだったけど納得し、受け取った小箱を開けた。中には指輪が入っている。
「わぁ〜あ!きれ〜〜〜い」
いつの間にか近くにいたミーナ嬢が声を上げた。ロブの持つ小箱を覗き込んで目を輝かせる。
「すご〜い!かわい〜〜」
ミーナ嬢には丁度合いそうだ。何年も店に出してないものだしいいかな。
「よかったら君にあげるよ」
「それはっ……」
「ほんとですか!?うれしい!」
ロブが何かいうより先にミーナ嬢が指輪を手に取ってぴょんぴょんとその場で跳ねた。指輪を中指にはめて僕に見せながら可愛らしく微笑む。
「どうですか?にあいますか?」
「よく似合ってるよ」
僕が言うとミーナ嬢は「ありがとうございます」と笑った。
店から出てもミーナ嬢は上機嫌で、右手にはめた指輪を光にかざしては「きれい」とはしゃいでる。人通りがあると危ないから僕が気をつけてあげないといけないな。
そうしてふたりで歩いていると、遠くにノーステリア伯爵家の馬車が走り去って行くのが見えた。
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