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45.『ピンク』が出た side A


 王宮事務官になってそろそろ一年になる。私のいる領地情報管理室は情報を探す指示がこない限り、室長が初めに言ったようにそれほど忙しくない。その指示も王太子殿下からがほとんどなのでそう多くはない。

 今日も他の部署を廻ってせっせと情報を集めている。のんびりしたものだ。


 のんびりと言えば、最近休日ものんびりしてるのよね。

 婚約してから頻繁に休日は会いに来てくれた彼が、最近来ないことが増えた。あのお茶会のあとは特に毎週のように会ってたのに、冬休みが明けた頃からほとんど来ない。


 進級に備え研究をまとめる必要があると言ってたけど、最近その言い訳がやけに具体的なのよね……。

 以前は「大学の用があって」くらいだったのが、最近では「〇〇と△△の為に□□に行かないといけない」と王宮パーティーで一度だけ会ったことのある方の名前を出してきたりするのだ。そこまで聞いてないのに。


 冬休みも私ひとりで領地に帰った。彼は春の花祭りにあわせて行こうと言ってくれてたけど、今はどうなのかしら……?


 私がもやもやと考えながら歩いていると、正面からエイデンが歩いてきた。眉間のシワも健在だ。というか成長してるかもしれない。相変わらずいきなり要件を話しだした。


「次の休日うちで茶会をしないか」


「何故」


 エイデンとお茶会、想像できない。


「婚約者がお前に会いたがってる」


「行くわ」


 即答した。眉間のシワも愛する婚約者様に会ってみたいと思ってたのよ。にっこり笑うとエイデンは誘ったというのに舌打ちでもしそうな顔をした。



 早速次の休日にウェスティン伯爵家のタウンハウスに向かった。暇なので。婚約者のご令嬢も同席するとは言え男性の家なので、今日はマリも一緒だ。


 伯爵家に着くとサンルームに通された。明るい室内にエイデンとご令嬢が待っていた。

 黒髪黒眼のエイデンとふわふわした薄茶色の髪の綿菓子のようなご令嬢は、雰囲気が全く違うけど並ぶと何故かお似合いだ。ご令嬢はメリッサ様と名乗りながらキラキラした眼差しを向けてくる。


「伝説のアリシア様についにお会いできましたわ!」


 1歳しか違わないのに伝説呼ばわりされてしまったわ。困惑しているとエイデンが珍しくフォローした。


「お前は学園で高位クラスの令嬢達をまとめ上げ派閥の壁をなくした存在だからな」


 なにそれ知らない。なんて言う隙もなくメリッサ様が畳みかけてくる。


「そうです!私達後輩は先輩方に憧れて、学園にいる間だけでも家の柵から離れて学園生活を楽しもう!と思うようになったのです!」


「そうね……、楽しんだ方がいいわよね」


 私が何とか相槌を打つと、メリッサ様は「そうですよね!」と明るく言ったあと、急に表情を暗くした。


「なのに、私の憧れの素敵なアリシア様を

あんな、悲しませるようなヤツが!あの、『ピンク』が!」


 メリッサ様、可愛らしい雰囲気とは程遠い物言いになってきたわ。それより『ピンク』はメリッサ様が付けた呼び名で間違いなさそうね。

 言われている意味が理解できずにいると、エイデンが眉間にシワを深くして話しだした。


「今の『ピンク』の狙いはネオルト男爵子息らしい。最近はよくふたりでいる所を見られている。特に王都の西区に出没するそうだ」


 出没……。西区といえば以前私も行ったロブさんのいる雑貨店の辺りね。なるほど……。

 一言も発しない私にメリッサ様が気遣わしげに声をかけてくれる。


「申し訳ありません。アリシア様にとって耳にも入れたくないお話だとは理解しているのですが、それでも放って置くことはできませんでした」


「……いえ。私も知れた方がよいので。ありがとうございます。納得しました。『ピンク』様の存在はともかく、要は彼は私に『飽きた』ということなんでしょうね」


 私がやけに冷静に言うと、背後からギギギと変な音が聞こえてきた。後ろにはメイドらしい佇まいのマリしかいない。何処から出してるの?

 気を取り直して言葉を続ける。


「実は秋頃、価値観の違いもあって私の方から婚約解消を申し入れたことがあるのです。その時は彼に頼まれて、お互いに歩み寄るよう努力しながら婚約を続けることになったのですが……」


 私がそこまで言って自嘲気味に微笑むと、メリッサ様が代わりに涙を流してくれた。優しい方だ。

 私はメリッサ様が落ち着くのを待ってから、ふたりにお礼を言って屋敷を出た。



 ウェスティン伯爵家からの帰り道、人を殺しそうな目をした笑顔のマリの提案で西区を通って行くことにした。出没すると言ったって野生のピンクには早々出会わないと思うわよ、と言いながら外を眺めていたら、いた。


「本当にいましたね」


「それだけ頻繁に会ってて、隠すつもりも無いってことでしょうね」


 窓を覗くために顔を寄せているマリからまたギギギと変な音が漏れてきたので、マリの手を握った。


 街なかでも目立つ金髪とピンクの髪のふたりは、どう見ても恋人同士の距離感で歩いている。お互いに顔を覗きあう笑顔も輝いている。

 ……最近はあの笑顔を向けられたことは無かったわ。


「もう、いいでしょう」


 心が冷えていくのを感じる。


 私はそのまま屋敷に戻り、初めて両親に相談する手紙を書いた。





お読みいただきありがとうございました。

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