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41.決意のお茶会 side A


 昼休み、室長に包みを渡された。なかを見ると美味しそうなサンドイッチが入っている。何かのご褒美かしらと首を傾げると、室長の緑の瞳が見下ろしてきた。


「話を聞いてやるからここで食べろ」


 ……私そんなに顔にでるのかしら。自覚がないだけで仕事を疎かにしてるように見えてるとか……。


「ノーステリアはパッと見はいつも通りにしてるから大丈夫だ。だが顔色が白すぎる上に目が死んでる」


 声に出してないわよね。それにしても言い方……。

「人に話すことで落ち着くぞ」と聞く気満々で室長がお茶を入れてくれたので、ありがたく聞いてもらうことにした。


 話すと言っても、もやもやの気持ちの正体が自分でもわかっていないのだけど……。思いつくままぽつぽつと話し出す。

 お互いの両親に対する態度、領地に行こうとしないこと、領民への態度、贈り物のこと、結婚後も大切にしたいもの。……口にすればどれも些細なこととも言えて、私が我儘なのではないかとさえ思えてくる。

 室長はそんな取り留めのない話をじっと聞いてくれた。


「……お前は自分の生まれ育った家族のような結婚生活を望んでいる。だが婚約者はそうは望んでいないように感じている、ということだな」


 室長が私の気持ちをまとめてくれた。そうだ。私は両親のような家族になりたいのだ。じんわりと目頭が熱くなる。


「はい……。私は自分の両親や兄をたとえ嫁いだとしても大切にしたいし、して欲しいと願ってます。それと同じように相手の家族も大切にしたいと。けどそれが私の独りよがりな望みなのかもしれないと」


 王宮パーティーで義両親に挨拶しようとしたときの「必要ない」と言った彼の冷たい声色を思い出すと、お腹がぎゅっと痛くなる。

 また俯いてしまった私に室長がいつになく優しい口調で話してくる。落ち着かせてくれる声だ。


「そういう気持ちを婚約者に話したことあるのか?今まで違う環境で生きてきてるんだ。行き違いはない方がおかしいだろう」


「そうですね。一度、話してみます。……ありがとうございます」


 私が笑顔を作ると、「そうするといい」と室長は頷いた。




 いつもと同じはずの彼とのお茶会に、私は少し緊張している。きちんと気持ちを聞いてもらうのだ。これから長い時間一緒にいることになるのだから、話さないことですれ違うことは避けないと駄目よね。


 今日は久しぶりに自分で選んだドレスを着た。私は元々は肌触りがよくてシンプルなものが好きだ。と言っても彼の好みにあわせて可愛らしい感じのものを選んだけど。


 彼を出迎えて一緒に温室に向かう。プロポーズしてもらえた場所だ。あの日と同じように明るい色の花が咲き誇っている。彼も「僕達の大切な場所だね」と笑ってくれた。


 大切な話だからとメイド達に離れているよう伝えてから、自らを落ち着けるように丁寧な仕草で一口お茶を飲む。


「今日はお話したいことがあるの」


「なんだろう。怖いな」


 彼が笑いながら首をすくめた。


「今まできちんと口にしたことはなかったけど、私は家族と領民をとても誇りに思っているの。貴方はこの間、伯爵家にいるのは結婚するまでって言ってたけど、私がノーステリア伯爵家の娘であることは変わらない。もちろん、ネオルト男爵家の方々も同じように大切にしたいと思ってるわ。貴方の大切なものも尊重するように努力するから、貴方にも私の大切なものをわかって欲しいの」


 うん、ちょっと長くなってしまったけど、考えてたことはきちんと言えたと思う。彼も真剣な顔をして聞いてくれた。

 彼はしばらく黙って考えたあとゆっくりと話しだした。


「君の家族や領民を大切な気持ちはとてもよくわかるよ。……けど結婚したら、君と僕のふたりで新しい家族の形を作っていくんだよ。もちろんそれまでの家族も大切だけど、そこまで君が縛られる必要はないと思うよ」 


 彼は優しく言い聞かせるように言った。私は聞き分けのない子供ではないのに……。

 彼はへらりと笑う。


「僕達の幸せのために枷になってしまうなら時には切り捨てることだって必要だよ。僕がいるんだから安心して」


 そうじゃない。私にとって家族は縛られるものではない。新しいものができるからって切り捨てるものではないの。どうして通じないんだろう……。

 涙が溢れそうになる。必死に堪らえようとしてる私の口から、心の奥底にあった言葉が漏れてしまった。



「婚約を、解消しませんか?」



 彼が驚愕の表情を浮かべる。


「どうして……。どうしてそんなことを言うの?僕のことを嫌いになった?」


「嫌いになんて、なってないです」


「ならどうして!?」


 彼が珍しく声を大きくする。堪えきれずに涙が流れてしまった。


「貴方との結婚生活が、うまく想像できないんです」


「そんなの、僕だってしてみないと分からないよ。そんな理由で……!婚約解消なんて両家の問題にもなるんだよ」


 確かに彼は悪いことはしていない。こんな理由で婚約解消を言いだす私がいけないのかもしれない。けど心にある一番大切な何かが理解しあえない。


「私たちの婚約は政略的なものではないので、両家が揉めることはないと思います」


 婚約のとき、両親が最後に付け足した文言を思い出す。もしかしたらこうなることを予感してたのかも知れない。


「婚約解消なんてしたら、女性である君の方が不利益を被ることになってしまうよ」


 彼が言い募る。綺麗な青空のような目には涙が滲んでる。


「……私は仕事もありますし、継ぐべき家もないので、結婚できなくても心配ありません」


 彼が俯いた。涙が落ちてキラリと光った。


「…………嫌だ。僕は君と別れたくない!僕に悪いところがあるなら治すから、どうか、お願いだよ。僕のそばにいて……」


 彼はあの日と同じように私の前に跪いた。私を見上げるその瞳はいつもよりキラキラ輝いて、澄みきった青空のように綺麗だった。




お読みいただきありがとうございました。

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