40.秋の収穫祭と言いたかったこと side J
彼女と一緒に秋の収穫祭に来るのもこれで4度目だ。僕と手を繋いで、彼女は楽しそうに祭りの出店を見ながら歩いている。本当に祭りが好きなんだよね。
今日も彼女は僕の選んだ服を着てくれてる。十分可愛いけど、メイクはもう少し華やかな方がいいんじゃないかな。彼女の専属メイドは領地から連れてきてると言ってたし、僕が新しいメイドを派遣してもいいのだけど、さすがに結婚前にはやり過ぎだよね。
「今年もうちの領地のテントに寄ってもいいかしら?領地の皆に貴方を紹介したいわ」
出店を眺めていた彼女が振り返り僕を見上げて言う。
婚約してからずっと彼女は僕を領民に会わせたがる。口から「いいよ」という言葉は出なかった。少しだけ億劫に思っていると、彼女が楽しそうに領地について話しだした。
「王都では秋の収穫祭が一番盛り上がるけど、うちの領地では『春の花祭り』が一番なの。冬の間雪に閉ざされてしまうから、春が来るととても嬉しくて。人も街もたくさん花を飾って、みんなでお祝いするのよ」
「楽しそうだね」
祭りの話に反射的に相槌を打つ。花は何処にでもあるのだからどうせなら雪祭りでもすればいいのに。
「それでその年結婚する女性だけが着けることができる特別な花冠があるの。凄く綺麗で、女の子達の憧れの的でね」
「そうなんだ」
花嫁の花冠か。それはいいかも知れない。けどこれは、春に領地に一緒に行こうって話だよね。
「だからいつか…………。もしかして、領地の話はつまらない?」
楽しそうに話していた彼女が、煮えきらない僕の態度に気づいて話を止めた。顔を覗き込んでくる。
「つまらなくはないけど……、いつか兄君が継ぐものだし、僕が何かを言うべきではないと思うんだ」
結婚すればずっと関わることだし、僕の気持ちは伝えておいた方がいいよね。
「それに頻りに僕に領民へ挨拶させようするけど、領主になるわけではないし別に必要ないんじゃないかなとも思うし」
「え……?」
彼女が目をぱちぱちさせる。いきなり過ぎたかな。けどこれからふたりで家族になるんだから、大切なことは伝えないと。僕は両手で彼女の手を包みこんで正面から目をあわせた。
「君が伯爵家にいるのは結婚するまでなんだから、一番大切なのはこれからふたりで作る家族だよね」
「……そうね」
伝わったみたいだ。よかった。
真剣な話に彼女の元気が少しなくなってしまったから、去年気に入っていた焼き菓子を買ってあげた。笑顔で受け取ったけど、食べる勢いがない気がする。手に持ったまま祭り会場を廻ることにした。
賑やかな音楽が聞こえてきた先には、大道芸人を中心に人集りができていた。それを見た彼女の目が輝いたから足を止めた。
ぼんやり眺めていると、少し離れたところに見覚えのある顔を見つけた。第三王子と宰相家嫡男、騎士団長次男、それにピンクブロンドの女子生徒だ。
お忍びのようだけど目立ってるな……。4人はとても親しそうに出店の前で話している。距離も近い。聞いた話だと男爵家の庶子らしいけど、それだけじゃないのかな。
彼女に聞いてみようかと思ったけど、手を叩きながら楽しそうに大道芸を見てるのでそっとしておいた。
それからその日は彼女に領民に会うよう促されることもなく、祭りを楽しむことができた。
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