34.家庭教師とピンクのバラ side J
今日は彼女と婚約して3ヶ月の記念日だ。彼女と会えるのは休日だけだったけど、初めての平日ディナーデートの約束をした。
約束した広場の噴水前に少し早めに着いてしまった。彼女は仕事のあと着替えてから来ると言ってたから、もしかしたら遅くなるかな。初めて外で待ち合わせたけど、たまには良いかも。
上機嫌で待っていると、大学で偶に見かける女性達に囲まれてしまった。この人達、貴族令嬢のはずなんだけど凄く積極的なんだよね……。
婚約者と待ち合わせだと言ってもしつこく留まるので、可愛い彼女の笑顔を思い浮かべながらやり過ごした。
約束の時間を少し過ぎた頃、広場の端に伯爵家の馬車が停まったのが見えた。降りてきた彼女を見て内心驚く。白いボウタイブラウスに足首まであるロングスカート姿。……何だか子供の頃うちに来ていた家庭教師みたいだ。
僕の視線に周りにいた令嬢達も彼女が僕の婚約者だと気づいたようだ。彼女を睨みつけたあと意地悪く微笑む。
「あら、婚約者様はずいぶんと慎ましやかな方なのね」
「それにしたって愛する方の為ならもう少し気を使うべきてはなくて?」
「同じ歳なのよね。大人びた方だわ」
自分達が勝ったつもりなのか、次々と彼女を貶す言葉を吐きだす。彼女の方がずっと可愛いのに……。それ以上聞いていられなくて、少し強引に僕を取り囲む令嬢の輪から逃れた。
彼女のもとまで行くと、申し訳無さそうな顔して見上げてくる。目も赤いし少し疲れた顔をしている。
僕は令嬢達から早く遠ざかるために彼女の手をとって歩きだした。
「ごめんなさい。遅れてしまって」
手を引かれながら彼女が謝ってくる。僕は遅刻したことになんて怒っていない。
「……どうして僕が贈ったドレスを着てくれなかったの?」
そうしたらあんな風に貶されることもなかったのに。
「え?あ、ごめんなさい。そう思っていたのだけど、仕事が長引いて着替える時間がなくなってしまって……」
「そう……」
彼女は働き始めたばかりで大変なことも多いのだろう。今日だってきっと無理して来てくれたんだ。
なのに何故か、目の前で疲れた顔で微笑む彼女が酷く色褪せて見えた。
昨日は彼女も疲れているようだったから、食事のあと早めに伯爵家まで送った。しばらくは会うのは休日だけにした方がいいのかな。
大学の廊下を歩きながら思わず溜め息を吐いてしまい、慌てて視線を上げる。窓の外にバラ園の花が咲き始めているのが見えた。
大学と学園と間にあるバラ園は、迷路のようになっていて中に入れば人の視線を気にしないですむ。僕は気分転換のため散策することにした。
バラ園の中は静かで、咲き始めの花のいい香りがした。ここに来て正解だったな。気分よく歩いていると、ピンク色のバラの間から、珍しいピンクブロンドの髪の小柄な女の子が出てきた。学園の制服姿のその子は、僕に気づくと大きな目をまん丸にした。新緑のような緑の瞳と健康的な頬の色。可愛らしい子だな。
「あの、ヒロニカ男爵家のミーナともうします。よろしくおねがいいたします」
僕の前まで来て、辿々しいカーテシーをして挨拶した。マナーを学びたての小さな子供みたいだ。何だか微笑ましい。
「ネオルト男爵家のジュリアンです。よろしく」
「男爵……」
僕が挨拶を返すと、あとの言葉が思いつかないように呟いた。男爵は僕じゃなくて父なんだけどね。
「あの、私、お散歩してたら迷ってしまって」
やっぱり迷路の中で迷子になっていたようだ。学園の時計塔を目標にして行くと出られるよと教えてあげると、元気よくお礼をしてから小走りで去っていった。
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