32.初めてのおねだりと大学生活 side J
婚約してからは時間が許す限り彼女に会いに行った。先ぶれさえ出せば会いに行ってもいいなんて、なんて幸せなんだ。
その度、彼女に似合いそうな物をプレゼントしている。これでますます綺麗になっていくといいな。
今日も会いに行くと、彼女は僕が贈ったラベンダー色のドレスを着ていた。思った通り彼女の白い肌に映えて可愛い!
「着てくれたんだね。似合うよ」
僕が褒めると彼女は照れくさそうに微笑んだ。それにしても今日の彼女は少しいつもと違う気がする。何ていうか、ソワソワしている。
「どうしたの?気になることがある?」
聞くと、意を決したように僕を見た。
「あの、良かったらネックレスをくれませんか?」
「ネックレス?この間あげたよね。……もしかして気に入らなかった?」
婚約して真っ先に、僕の瞳の色の大きなサファイアのネックレスを贈ったのだ。彼女は焦ったように手を振る。
「あれはとても素敵よ!けど素敵すぎるというか……。いつも身につけられる物が欲しいの。仕事中でもつけていられるような」
「……もしかして初めてのおねだり?」
彼女付きのメイドが後で変な音を出した。彼女の頬が赤く染まる。なんて可愛いんだ。
「嬉しいよ!楽しみにして待ってて」
僕はすぐにネックレスを探しに行った。3店目で小さな金のリングの中でサファイアがブランコみたいに揺れているのを見つけた。繊細な感じが彼女にぴったりだ。
次の日、彼女に手渡すと「え!?もう?」と少し令嬢らしからぬ反応をするくらい驚いてくれた。
箱から取り出したネックレスを見て彼女の瞳がキラキラと輝く。そのまま身につけて「お守りにする」と嬉しそうに微笑んだ。本当に可愛い。
それからお返しにと細長い箱を手渡された。中には彼女の瞳の色の万年筆が入っていた。お互いの色を贈りあうと両方が青色になってしまうんだね。けど僕達の周りに青いものが増えていくのが嬉しいと思った。
彼女が王宮事務官としての勤務が始まる頃、僕も大学生活が始まった。覚悟していたけど、毎日のように会えなくなるのは寂しい。でも3年間お互い頑張ると決めたんだ。有意義に過ごそう。
大学は制服はなく、学園よりも自由な雰囲気だ。授業も制約はあるけど自分の希望するものを選べる。研究もある程度まで纏めれば教授が指導してくれるため、積極的に学ぶためには申し分ない環境だと思う。
学園からの友人達もいるし、大学生活の始まりはまあまあ順調だ。
学内では僕が前に開いたサマーパーティーに参加してた人から話しかけられることが結構ある。そんなに好評だったなら、また考えてみようかな。学生と研究者の交流の場とかどうだろう。一緒に企画をしてみたいと言う友人達もいるし、手が増えればやれることも増えるだろうし前よりきっと楽しくなるよね。
それなりに楽しく大学での日々を過ごしていたある日、カフェテリアで食事をしていたら、あまり見覚えのない女性が突然目の前の席に座ってきた。物腰から貴族ではないと思う。
「あなたノーステリア伯爵令嬢と婚約してるの?」
出し抜けに聞かれたから、失礼だなと思いながらも「そうだ」と答えた。女性は酷くがっかりした顔をして去っていったけど、僕は内心ホッとした。もしも婚約してなかったら面倒なことになっていたかも知れない。
さっきまで目の前にいた女性の遠慮のない眼差しを思い出すと、思わず溜め息が出た。
学園の頃は毎日どこかに彼女の笑顔を見つけることができたのに。
彼女に会いたいな。
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