27.家族への報告と卒業パーティー side A
彼を見送ったあと、すぐに兄の部屋に向かい、プロポーズされたことを伝えた。大学に提出するレポート執筆中の兄は、本と書類の束に囲まれながら、真顔で「そうか。おめでとう」とだけ言った。
あら?私、お兄様が婚約する時あんなに祝福したわよね?何かそれの1割も返ってきてないような気がするわ。
腑に落ちない気分で部屋を出た。
領地にいる両親にも手紙を出した。もしかしたら王都に飛んで来るかもと思ってたら、手紙の返事が届いた。どうやら父がネオルト男爵家と直接やり取りしたみたい。
手紙には、春休みに王都で両家の顔合わせをするから、予定通り卒業式の前にこちらに向かうと書いてあった。
何だか婚約ってもっとこう、ドキドキしてフワフワするものだと思ってた…………。
そして、フワフワしてる暇もなく、卒業パーティーの準備が始まった。
私とエイデンが卒業するので、通常なら1年生からふたり新役員を選ぶのだけど、すでに第三王子達3人がいる。そこでバランスを取るためにも、次の新入生から選ぶことになったそうだ。
2年生から選べはいいのにと思ったけど、『丁度良い』人材が見当たらないらしい。王子がいれば王宮から補佐に来てもらうことも簡単だろうし、急ぐ必要もないのかな……。
そういう訳で、私とエイデンは自分達のための卒業パーティーを整えてる。3度目だから慣れたものだけど……。
「生徒会に入るとき『せいぜい働く』とは言ったが……、さすがに当日はもてなされたいな」
ふたりしかいない生徒会室で、書類に目を通しながらエイデンが呟く。
「そうね…………」
私も呟いた。もしかしたら、当日はもてなされる側にいられたら幸運、くらいの気持ちでいるのがいいのかも知れない。
春の気配が近づいてきた頃、両親が王都にやってきた。出迎えにいくと母がギュッと抱きしめてくれた。
「たくさんお祝いしないといけないわね。卒業に就職に婚約。どれからしたらいいかしら?」
「一遍にでいいわ。お父様とお母様がお祝いしてくれるなら、どんな形でも嬉しいもの」
私が言うと、母は小さな子供にするように髪を撫でてくれた。
「貴女が幸せになるなら、何度だってお祝いするわ」
母はもう一度優しく抱きしめてくれた。幸せだ。
そして今日、卒業式のために制服を着る。これが最後になると思うと、寂しい。
我儘を言って早めに馬車を出してもらい、学園に向かった。開式時間まで時間があるので、誰もいないクラスに入りいつもの席に座ってみる。凄く静か。もうここにみんなが揃うことは無いのね……。
記憶に留めるよう、ゆっくりと瞬きをしてから立ち上がった。
式の会場に入ると、私に気づいた友人達が手招きをしてくれた。
席順は自由なのだけど、クラスの女子生徒はまとまって座ることにしたみたい。中には学園内に婚約者のいる方もいるけど、みんなと一緒に卒業したいわと笑っている。
入学したときはひとりであんなに不安だったのに、素敵な友人達と出会えたことに、本当に感謝だ。
卒業式が終わると、不思議な解放感が会場を包んだ。隣りにいた友人が私の手を取る。
「貴女のお陰でとても楽しかったわ。ありがとう」
「私こそありがとう。これからも仲良くしてくださいね」
「もちろんよ」
顔をあわせて笑う。そこからはしばらくの間、友人達とこれまでの感謝とこれからの約束をたくさん交わした。
両親とタウンハウスに戻り、卒業パーティーのために急いでドレスアップする。幸運にも『もてなされる側』になれたのだ。
彼から贈られたドレスは、金色を思わせる黄色に、青の刺繍がふんだんに施されている。パーティーに参加できるかすらわからないからと、シルエットは抑えてもらったけど、明らかに一年前より派手だと思う。……少し落ち着かないかも。
けど、やっぱり嬉しい。
メイドのマリに「お嬢様は何でも着こなせますから大丈夫です」と何故か励まされて屋敷を出た。
男爵家の馬車の前に彼が待っていた。今日は初めて彼のエスコートを受けるのだ。申し入れがあったときは、父が「断る理由はないからな」と悔しそうにしてたけど……。
迎えに来てくれた彼はライトグレーのタキシード姿。髪はプロポーズの日と同じように右サイドだけ細かく編み込まれてる。今日はさらにダイヤのピンをいくつか着けてるけど、彼がすると派手に感じないのが不思議だ。
私を見て、キラッキラの笑顔になる。
「ああ!思った通りだ。すごく綺麗だよ」
「ありがとうございます。本日はよろしくお願いします」
初めて彼にエスコートされることをあらためて実感する。急に緊張してきた。
差し出された手のひらにおずおずのせた私の手が、とても大切なものに触れるかのように、そっと握られた。驚いた訳ではないのに、胸がきゅっとなる。
それから彼のエスコートで卒業パーティーに参加すると、あっという間に友人達に取り囲まれた。婚約についても話すことになり、何だかフワフワした気分で時が過ぎていった。
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