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26.合格の知らせと求婚 side J

彼なら先触れ無しで突然行きそうだな…と考えてましたが、こういう形になりました。


 今朝はいつもより早く目が覚めた。学園は休みだけど、今日は大学の入学選考試験の結果がわかる。昼前には知らせが届くはず。


 何となく落ち着かない。

 ベッドから立ち、窓からバルコニーに出て庭を見下ろす。冬の朝の冷えた空気の中、母のお気に入りの白いガゼボと花のない薔薇園が見える。お気に入りと言っても、客をもてなす装置としての意味だけど。


 部屋に戻り、少し早いけど服を着替えることにした。鏡を覗きこみ髪を整える。気を紛らそうと髪に集中してたら、いつの間にか凝った髪型になってしまった。


 しばらくして年嵩のメイドのエマがお茶を持って入ってきた。僕の髪を見ておっとりと笑う。


「素敵でございますね」


「少し手間がかかったよ」


 肩をすくめて戯ける僕を見る目は優しい。エマは僕が子供の頃から屋敷にいて、きっと母よりも共にいる時間が長い。


「……きっと良い知らせが届きますよ」


 カップを置きながら静かに言う。


「うん……。僕もそう思うよ」


 本当に試験の手応えとしては自信はあるんだ。それでも結果が出るまでは緊張してしまう。

 ゆっくりとお茶を飲む間、僕の傍らにはエマが静かに立っていた。



 気晴らしで読み始めた本に思わず没頭していると、家令が王立大学の印璽がおされた封蝋のある手紙と、厚みのある封筒をトレイにのせてきた。待っていたことを思い出して急いで受け取り、封を開ける。


 手紙を読む僕を、気遣わしげに見ている家令に向かって微笑む。


「合格したよ」


「おめでとうございます。旦那様、奥様もお喜びになりましょう」


「……そうだね。ありがとう。入学手続きの書類は後で持ってくと父上に伝えておいて」


「畏まりました」


 家令は一礼して部屋から出ていった。


 ひとりになって深く息を吐く。……合格していてよかった。

 彼女に伝えたら喜んでくれるかな……。彼女の嬉しそうな笑顔を思い浮かべる。記憶の中でも可愛い。そうだ、今から会いに行こう。

 僕が早速立ち上がり、出かける支度を始めると、エマが入ってきた。


「失礼いたします。ご昼食はどうされますか?……外出されるのですか?」


「そうだね。彼女に合格を伝えに行くよ」


「彼女、とはノーステリア伯爵家の……。それでは先触れをお出しします」


「必要ないよ、何度も行ってるから……」


「それはお約束してらしたでしょう。突然行ってはいけません」


「……わかった」


 エマにきっぱりと言われたので、結局、彼女に会いに行くのは昼食の後になってしまった。



 伯爵家のタウンハウスに着くと、庭にある温室に通された。そう言えば屋敷の中に入ったのは初めてだ。

 温室は大きくはないけどよく手入れされていて、優しい色合いの花が重なるように咲いている。僕はコートを脱いで白い椅子に座った。


 すぐに現れた彼女は、珍しく淡いピンク色のドレス姿だった。


「おまたせしました」


 彼女は何故か緊張した顔をしている。……そうか、きっと今日が試験結果の日だと知ってるんだ。気にかけてくれてることに嬉しくなる。


「突然来てしまってごめんね。君には早く伝えたくて……。大学、進学が決まったんだ」


 彼女は目を大きく見開いた後、破顔した。胸がどきんと鳴った。


「おめでとうございます!やったわ!よかった。本当におめでとう!」


 おめでとうって2度も言ってくれた。想像していたより喜んでくれたから、僕の中にあった嬉しい気持ちが何倍にも膨らんだ気がする。


「ありがとう」


 僕が言うと、彼女は首を傾げてにっこりと微笑んだ。可愛い。


「僕と婚約してくれませんか?」


 気がついたら口から言葉が出ていた。


 近くに控えていた伯爵家のメイドが小さな悲鳴を上げ、彼女は固まったまま動かない。まずい。何か言わないと。


「僕は大学でまだ学ぶことがあるし、君は王宮事務官としての仕事が始まる。しばらくはそう言ったことは考えにくいと思う。けど、学園を卒業した後に、君に会えなくなるのは嫌だ。だから、君と婚約したい」


 僕は立ち上がり彼女の前に跪く。彼女は僕の顔を見つめたまま、僕の動きを追っている。

 右の手のひらを差し出す。勢いで言ってしまってるから、花すら持ってないけど仕方ない。


「この先の時間をまだ君と一緒にいたいと思う。だから、この手を取ってください」


 彼女の頬が赤く染まり、瞳が落ち着きなく左右に揺れた。


「その……、私は王宮事務官を続けたいんです。だから……」


「僕の家は領地のほとんどない男爵家だし、父の事業は僕が引き継ぐから、君は君のしたい仕事を続けても大丈夫だよ。……たまに意見が欲しいかもしれないけど」


 彼女を初めてうちの店に連れて行った時を思い出して思わず笑みが溢れた。


「では……、よろしくお願いします」


 手のひらに彼女の柔らかい手が触れる。嬉しくて、両手でその手を掴んだ。


「ありがとう」


 心からの感謝の気持ちを伝えた。



お読みいただきありがとうございました。

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