1.王立学園での出会い side A
ジュリアン・ネオルト男爵令息。
たった今気持ちの上では“元”婚約者となったこの男とは15歳になる年に出会った。貴族の子女が15歳から成人する18歳になる年まで通う王立学園。
入学して間もない頃、緊張している私は同じクラスになった男に声を掛けられた。
「さっきの授業で君が答えていた問題が理解ができなかったんだ……。良かったら、教えてもらえないかな?」
はにかんで小首をかしげる男と目が合う。正直言ってやめてほしい。
新興とは言え数々の事業に成功している勢いのある男爵家の嫡男で、人目を惹く見目麗しい男はご令嬢達の注目の的なのは知っていたから。ご令嬢達の視線が痛い……。
面倒くさい。面倒の臭いしかしない。
うちの伯爵家は、王都から北に離れた自然溢れる領地を守っている。歴史こそ深いが取り立てて可もなく不可もないと言うのが世間の評価だと思う。それでも言い換えれば安定した領地経営を長年続けていると言うこと。私はそれを誇りに思っている。嫡男である2つ上の兄も穏やかで聡明。我が家に不安はない。素晴らしい。
私は堅実に穏やかに生きたい。目の前のキラキラしてる男には興味が湧かない。どうしよう。
「あの……すみません突然、声を掛けてしまって……。理解できない問題があったのでどうしても気になってしまって……」
しばらく固まって動かないでいた私に、いかにも困り顔でもう一度首をかしげて微笑んでくる。何となくあざとい。何故だろう、まったくときめかない。
それでも、これからお友達になる予定のご令嬢たちの心の声が『素直に教えてあげなさいよ!』と言ってるのが聞こえた。怖い。
――結局、勉強を教え終える頃には夕方になっていた。意外、と言っては失礼かもしれないけど、男は真面目に問題に取り組んだ。
「……そうか!やっとわかったよ!それならここは?」
「なるほど!君の説明はわかりやすいね」
「そういう解釈は面白いね。もしかして読書が好きだったりする?おすすめの本とか良ければ教えて」
「ありがとう。本当に助かったよ!今日はもう遅いから、日を改めてお礼をさせて」
聞き上手で、話し上手で、褒め上手だった。そして帰り際にはキラキラを振り撒きながら、流れるようにお礼のお誘いを申し出てきた。
一瞬、流されそうになったけど、誤解されては面倒。なけなしの淑女の笑顔で受け流し、そそくさと家に帰った。危なかった。
読んでくださりありがとうございました。




